リビングラボで、市民・行政・企業による子育て課題解決を考えてみた

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「子育て」をテーマに、専門家や当事者への取材からまなび、第一歩を踏み出したCOE LOG。活動を通じて広がった人の輪や知見は、行政・市民の方とのイベント開催や、新たなサービスづくりへの取り組みという、立体的な動きにつながっています。
この動きを促進し、持続可能な社会課題解決へとつなげるために注目したのが、欧州を中心に広がっている共創の手法「リビングラボ」。市民・行政・企業の協働により新たな可能性を探るCOE LOGが目指す取り組みは、リビングラボに近しいのでは? という気付きから、中部エリアではまだ事例の少ないリビングラボについてまなび、今後の展開に向けたヒントを得るべく、専門家を招いた講義とワークショップを開催。多分野の個人や企業の方にも参加していただき、多種多様な意見を聞くことができました。

リビングラボの研究員にまなび、考えた

講師に招いたのは、NPO法人ミラツク研究員の森雅貴さん。

英国・サセックス大学在学中から研究を続ける森さん

リビングラボを実践する欧州での事例研究をはじめ、その研究結果をもとにした市民共創や企業の新規事業のコンセプト設計など、多角的に活躍しています。
今回はCOE LOGのコンセプトに共鳴してくださる市民や民間企業の方も招き、前半では、森さんのプレゼンテーションを通してリビングラボの考え方や具体的な事例をインプット。後半では、森さんの話を通して得た知見をもとに、子育てというテーマにどう落とし込み、発展させていくかをワークショップ形式で議論しました。

みんなが使える情報基盤づくりでまちを底上げ

講義の導入では、森さんが所属するミラツクの活動を紹介。活動のベースとなるのが情報基盤の生成です。インタビューやフィールド調査をおこない、その結果から情報を抽出し、分析。さらに情報の集約、構造化を進めます。それらを踏まえて新規事業の創出や空間デザインに生かすというのが、ミラツクの主な活動です。では、生成した情報基盤をどのように活用していくのでしょうか?

社会課題を解決するためのプロジェクト事例の数々

森さんによると「イノベーターと呼ばれる“すごい人”はすごいアイデアを出せます。でも、一部の天才だけではなく、“普通の人”もみんながいいアイデアを出し、取り組みをつくっていけるようにすれば、地域や国の底上げができるはず。リサーチをしてツールをつくることは、“普通の人”と“すごい人”の差を埋めるための情報基盤をつくることなのです」。誰もが使えるツールをみんなで使ってアイデアをつくっていこうという、まさにCOE LOGが目指す共創に通じる考え方です。

情報基盤によって「普通の人」と「すごい人」の差を埋めることが可能に
情報基盤をつくることで、大量のアイデア形成を可能にする

消費者・ユーザーこそがイノベーターになりうる

続いて森さんから、「リビングラボ」の定義が紹介されました。

リビングラボとは、テーマに基づいて地域やコミュニティにおいて、市民やユーザーが主体性を持ちながら、サービスやプロダクトの開発を共創する「市民主体の共創型社会実験」のこと
「ラボ」は立体的な空間という意味合いで使われている

そのベースとなっているのがオープンイノベーションです。
オープンイノベーションとは、自分たちの企業だけではできないこと、自社では持ち合わせていない技術について、他社や外部の人と手を組んで進めていこうというアメリカ発祥の考え方。
アメリカの経済学者エリック・フォン・ヒッペルが唱えた「新しい製品を生み出すイノベーターはサプライヤーではなく消費者やユーザーだ」という考え方は、リビングラボにも大きな影響を与えました。「つまり、そこで暮らしている市民が本当に必要としているモノ、理想の環境が基礎であるということ」という森さんの話には、参加者の多くがうなずき、大いに共感している様子でした。

市民こそが創造者という考え方を再認識

企業から社会へ。産官学民の共創モデルに発展

オープンイノベーション1.0と呼ばれるアメリカ発の源流に続いて、2013年頃に登場したのがオープンイノベーション2.0。1.0が企業ベースだったのに対し、この考え方は社会のためにも使えるのではないかという着想へと発展し、欧州を中心に広がりました。

オープンイノベーション2.0については、「四重らせんモデルに基づいて、政府・企業・大学・市民が共に協力して、個々の組織や人ができることの範囲を遥かに超えた構造変化を引き起こし、地域や社会の未来を共同創造するモデル」とその定義を説明。

四重らせんモデルとは、政府・大学・産業の連携ネットワークを基礎に市民を加えたモデルのこと
リビングラボの根幹にもつながる四重らせんモデル

大学と企業の1対1、もしくは企業同士の協業・提携にとどまっていた1.0から、大学・行政・企業に、NPOや市民、ベンチャーなど市民を加えた多領域間での共創へ発展した2.0という形こそが、「リビングラボ」につながってきたという流れです。

大学と企業との1対1の関係、または企業間の協業・連携にとどまらず、NPO・市民・大学・行政・企業・ベンチャーなど他領域で共創していくことがオープンイノベーション2.0
1対1による企業間の協業から領域を超えた共創へ

森さんは大切なことは大きく2つあると言います。「1つは個でできることを遥かに超えた構造変化を巻き起こすこと。個人の組織や一社単位でできる範囲のことなら、オープンイノベーション、リビングラボは必要ありません。構造やしくみ、システムそのものに変化を与えるために必要な手法なのです。2つ目は、地域や社会が協業でつくっていくこと。押し付けではなく、みんなで一緒に未来をつくっていくことが重要なのです」と熱いメッセージを発信しました。

では、具体的にはどのようなモデルを「リビングラボ」と呼ぶのでしょうか。

リビングラボは、「物理的領域または仮想現実または相互作用空間」「産官学民のパートナーシップに基づいた関係者」「新しいテクノロジー、サービス製品、およびシステムの作成、施策、検証、およびテストのための共創活動」「実生活の文脈において」の4つで定義される
フィードバックを得るには、実生活での使用が肝になる

中でも非常に重要となるのが、4番目の“実生活の文脈において”という視点。政策や社会のしくみを考えるとき、テストマーケティングを会議室でおこなうのではなく、実際に使われる場所や状況で使ってみることが肝心。実生活の中でうまくいくか、本当に必要かということをリアルな場で実際に使ってみながら一緒につくることが鍵となります。

自分ごと化でき、目指す未来が見えるテーマ設定

現在、世界各地に440を超えるリビングラボ事例があげられているそうです。その先進地である欧州での取り組みをおよそ40ヶ所、約3年にわたって視察し、実際に参加するという体験を重ねてきた森さんから、最新の注目事例を紹介していただきました。

デンマークやオランダなどの最新事例を紹介する森さん

たとえば、フィンランドの首都ヘルシンキの事例です。テクノロジーを活用し「すべての住民に1時間の余暇を提供する」というのがテーマ。ヘルシンキは、都市開発が進んだ時代に、もともとあった港町を都市部に移行させ、さらなる発展を目指した開発を推し進めます。それにより、港の機能を失ったまちは一気に衰退してしまいます。そこで、一度リセットしたまちをせっかく再生するならと、市民主導による、テクノロジーを活用した新たなまちづくりに踏み切りました。行政は、市民からまちの理想、課題を丁寧にヒアリング。そこから浮き彫りになった声を集約して「リビングラボ」がスタートしました。

森さんは、ここで重要視すべきはテーマの掲げ方であると説きます。大切なことは、「すべての住民に1時間の余暇を提供する」のように、誰もが他人ごとではなく、自分ごと化できること。一人ひとりが共感でき、目指したい未来が見えて、いろいろな切り口から取り組めるテーマ設定にしたことが効果的だったのではないかと分析しました。

また、子育ての課題に取り組んできたCOE LOGメンバーが関心を抱いたのが、「子どもは地域で育てる」という考え方。フィンランドでは、子どもが過ごした一日の様子、からだに関する基礎情報などを親、先生、地域の人たちが共有し、可視化。さらに子どもの興味・関心に合った公園や遊び場をマッチングするアプリも市民の意見を基につくられたといいます。

子供が急病の際に医師とチャットで会話できるヘルシンキの事例
子どもの急病時にチャットなどで医師と相談できるしくみ

これらのサービスはすべて市民参加のワークショップで、一枚の紙に描かれたイラストから生まれたアイデアとのこと。ミーティング、ワークショップでの対話が一過性のものではなく、実際にまちを変えるきっかけになるのだという。市民が行政に寄せる信頼、行政からの発信の透明性があるからこそ、実現しているのでしょうと森さんは続けます。

市民とのワークショップによって描かれたイラスト。これらが基になってサービスが生まれた
子育てサービスを実現するもとになった市民のイラスト

「リビングラボを成功させるために必要なことは、市民が直面している課題に対して、企業、行政、大学がそれぞれのリソースや得意なことを活かして、市民と共に課題解決に取り組むこと」と話す森さん。
講義の締めくくりとして、森さんが分析した、リビングラボが効果を発揮するために必要となる構成要素をまとめていただきました。

リビングラボの構成要素として、テーマ設定、エコシステム形成、共創アプローチ、資金と枠組み、場と機械、メディア・発信、市民主体プロジェクト、リーダーシップが挙げられる
リビングラボ成功のカギを握る構成要素とは?

子育てをテーマにした「リビングラボ」に挑戦

前半の講義を通じてリビングラボに対する知見を深めた後、後半のワークショップではCOE LOGで追いかけている「子育て」をテーマにしたリビングラボのコンセプトづくりと、プロジェクトのアイデアづくりをおこないました。

後半はA、Bの2グループに分かれてグループワーク

まずは、前半の森さんの話を聴きながら、ふせんに書き留めておいたリビングラボの実践において大切だと思う考えや価値観など重要だと思うポイントのメモを、参加者同士で共有するところからスタート。そこから、これまでCOE LOGで取り組んできた取材や観察といったフィールドワークの活動を振り返り、その中から感じる「子育て」の課題を書き出します。

テーブルを回りながら参加者らと対話する森さん

書き出したら、グループごとに意見を共有し、自分で扱いたい、取り組んでみたい内容をまとめます。書き出した内容と事例カードを照合しながら、類似している、もしくは参考になりそうなアイデアを選んでいきます。

地域資源活用やコミュニティデザインなどの事例がずらり

事例カードを参考に、それぞれが「子育て」に関するプロジェクトを考え、イメージイラスト、テーマ、課題と可能性、使えそうな地域のリソース、アイデアなどを一枚の用紙にまとめます。

アイデアカードではイラストを描くことでイメージを具体化

最後のステップとなるのが、「リビングラボ」づくり。グループ全員のアイデアカードが出揃った時点で、新たな模造紙に全員のアイデアカードを掲出。森さんによると、この一人ひとりがつくったアイデアカードが、「リビングラボ」における市民発のプロジェクトという位置づけになります。それらのアイデア全体を統括する「リビングラボ」のテーマをグループ内で協議します。

主体性を育む場や習い事送迎サポートのアイデアも

そのうえで、市民、行政、大学、企業というそれぞれのプロジェクト関係者が担う役割、提供するリソースなどに落とし込んでいく作業へ。さらには具体的な一歩目、大切にしたい考えや取り組みを含めて、一枚の模造紙にまとめる作業が、今日のワークショップのクライマックスに。

A、Bの2グループが導き出した「リビングラボ」は下記のような内容です。

Aグループ:My ハッピータウン(ターン)

Aグループは「My ハッピータウン(ターン)」

自分も地域もハッピーになる。また子どもが幸せになると、巣立った後も幸せになって帰ってくるという意味も含めて「ターン」とかけたタイトルになりました。
プロジェクトのアイデアとしては、「親子で地域の困り事を知ろう!」という取り組みで、親の自主性も養うという案、「子ども協議会」としてまちのみんなで子育てをするしくみをつくる案などが出てきました。

Bグループ:自分でつくろうラボ

Bグループは「自分でつくろうラボ」

子ども自身がやりたいことをでき、楽しかった経験をより多く重ねてまなびながら自立していくしくみづくり。
プロジェクトのアイデアとしては、「子ども議会」をおこない、子どもたち自身が自分たちの過ごし方を決める場づくり。また、あれもこれもやってみたい子どものために、あらゆる習い事、体験を一つの建物に集約した「習い事の館をつくる」という案も出ました。

発見をもとに、多くの人を巻き込む工夫を

発表後は、全員で輪になって感想を伝え合いました。「産官学はよく耳にするが、そこに市民が加わることによって、アイデアに多様性が生まれることを実感しました」、「自分の企業、自分だけでは思いつかなかった話を聴くことができ、知見が広がった」、「一企業、一行政だけで考えると、決めつけや的外れな方向性になっていることも。ユーザーがイノベーター、市民がイノベーターという考え方がすごくまなびになった」など、「リビングラボ」への理解を深め、今後、市民共創を実践するにあたってのヒントや、多くの刺激、発見をそれぞれが得る機会になりました。

参加者のひとり、長久手市民でもある株式会社オカムラの久岡伸功さんは「長久手市民約6万人の内、およそ8割はまちづくりに無関心というデータがあります。より多くの人を巻き込むためには、力のある人、場所が必要。長久手市は、今は平均年齢が若いまちと言われていますが、今の子育て世代が高齢化していったときのまちのあり方も含めて考える必要があります。人を巻き込むためには、今の時代に合った広報の仕方がカギではないでしょうか」と感想を語ってくれました。

共創の場を企業や市民に提供している株式会社オカムラの久岡さん

ワークショップ終了後は、森さんを囲んで、市民・行政・大学との協業の仕方、中部地方における「リビングラボ」の可能性について意見を交換。今後の展開に向けて、新たな指針を得ることができました。

Profile

森 雅貴さんNPO法人ミラツク研究員
滋賀県出身。英国・サセックス大学国際開発学修了。在学中よりソーシャルイノベーションやオープンイノベーションをテーマに欧州で研究を重ね、2018年9月より現職。欧州と日本を往来しながら研究、調査、発表を続け、現在は主にイノベーションプラットフォームの構築、大手企業の新規事業開発のためのコンセプト設計、エスノグラフィーの手法を用いた現場起点の調査、分析などに携わる。

編集後記

今回のイベントは様々な立場の方に出席していただくことができました。その結果、多様なアイデアが出揃い、まさにリビングラボそのものの体験になったと感じています。森さんのご講演の中で、「一部の天才だけでなく、“普通の人”も共に取り組めるようにする」というところが印象に残りました。まちのための活動や交流をしている人は、そこに住んでいる人のほんの一部であると思います。そういった人だけでなく、すべての人が地域に関われるような仕組みができれば、よりよい地域づくりに繋がっていくのではないでしょうか。(中部電力 奥村香保里)

文:花野静恵

撮影:松井なおみ

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