助け合いの心でモビリティを考えたら、新しい子育て送迎のカタチが見えてきた

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これまでCOE LOGでは、子育てにスポットをあててトレンドの把握や地域住民の実態調査を進めながら、課題の多様性や根深さを痛感してきました。その中で、いくつかの課題に共通する背景として浮き彫りになってきたのが、習い事の送迎をはじめとした移動手段に関する壁でした。悩みのタネである送迎問題をクリアにすることは、時間に追われるお母さんにゆとりの時間をもたらし、子どもの可能性を拡げることにもつながるのではないか…。

そういった考察をもとに、今回は、助け合いの心をベースにしたドライブシェアアプリ「CREW」(※1)を運営する株式会社Azitの堤崇男さんを招き、子育てに関する課題をともに探ってきた長久手市でのフィールドワークや市民の方との座談会を開催。話題のモビリティ・プラットフォームと送迎問題の親和性や、子育ての課題解決につながるヒントを探ります。

フィールドワークと座談会には、送迎問題に直面するお母さんを代表して、小学生のお子さんを育てる長久手市民の方にもご参加いただきました。

(※1)現在、「CREW」では未成年のみの利用はできません。

移動マッチングアプリを知り、送迎の未来スタイルを考える

まずはAzitが運営する移動マッチングアプリ「CREW」について学びます。「CREW」とは、移動したいと思っている人がアプリを使い、近くを走っている登録ドライバーに依頼してマイカーに同乗させてもらう新しいスタイルのモビリティサービス。現在、東京都内の一部地域をはじめ、鹿児島県の与論島、長崎県五島列島の一つである久賀島、栃木県の那須高原、新潟県の山古志地域、北海道の斜里町においてサービスの展開や実証実験を進めています。(※2)

(※2)与論島、久賀島、那須高原におけるサービス提供は終了しております。(2019年11月現在)

「CREW」の使い方は、まずアプリを開いて出発地と目的地を指定。近くにいるドライバーにリクエストが飛び、マッチングすると迎えにきてもらえます。次に出発地でドライバーの車に乗って移動を楽しみましょう。行き先や道順を伝える必要はありません。目的地に到着したら、アプリでドライバーの評価をして支払い。「ありがとう」と言って降車しましょう。
「CREW」の使い方。アプリだけで完結する手軽さが魅力。(CREW公式サイトより)

Azit地方創生部の堤さんは「『CREW』のサービスを支えているのは、助け合いの気持ちと、感謝の心。“おもてなし”と“ありがとう”の循環をアプリ上で実現するようなシステムを目指しています」とコンセプトを語りました。

その思いを象徴するのが、「CREW」の利用料金システムです。料金のベースは、プラットフォーム手数料と、移動にかかったガソリン代や高速料金の費用などの実費のみ。ドライバーに対する謝礼の具体的な金額は、乗車後に利用者が任意で設定するシステムになっていて、0円から選択できます。あくまでも“ありがとう”の気持ちの表し方は人それぞれ。心と心のつながりが根底にあるサービスならではのしくみと言えるでしょう。

ただ、見ず知らずの人の車に乗せてもらうということに対する不安や心理的な障壁は、誰しも感じるもの。そのため「CREW」では、ドライバー登録をする人に対して面接や研修などをおこない、厳正な審査基準を通過した人のみがドライバーとして登録できるようにしています。その他にも乗車前のシートベルト着用確認画面の表示、SOSボタンの搭載、目的地へ向かうルートを外れるといった異常事態をオペレーターが検知する仕組みなど、安心安全対策を強化しています。

また、ドライバーとユーザーが相互評価するというシステムもユニークです。交通規則違反のあったドライバーはもちろん、低評価が継続するユーザーや、不適切な目的での利用が発覚したときには権限を制限するなどの対応をおこない、秩序のあるコミュニティを整備しています。

送迎はコミュニケーションの時間。一方で時間的、心理的負担感も…

「CREW」という互助モビリティの形について学んだ後は、子育て世代が抱える送迎問題の実態を把握するために、フィールドワークへ出発。週末のとある一日、長久手市民の春山由加里さんと小学校3年生の長女・実咲ちゃんの習い事の送迎現場に密着しました。

春山さんと実咲ちゃんの、とある休日のスケジュール
10:10 家を出発
10:30~11:00 ピアノレッスン
11:30~12:00 実咲ちゃんの空き時間を利用して一緒に昼食
12:30~14:00 絵画教室
14:00~15:00 バレエ
15:30~16:30 水泳(平日欠席した場合の振り替え)
17:00~18:00 1週間分の食料品などを買い出し
18:30 帰宅して夕飯もしくは外食して帰宅
ピアノ教室に到着。「安全のことを考えて、どんなに近い家のお子さんでも保護者の方に送迎をお願いしています」と先生

学校はお休みのこの日、朝から夕方まで習い事がびっしりの実咲ちゃん。
まずは朝、自宅を出発してピアノ教室に向かいます。自宅からの移動は15~20分程度。個人宅でのレッスンのため、長時間の駐車は禁物。人気のピアノ教室で、前後のレッスンが詰まっていることもあり、送迎は時間厳守が鉄則になります。30分のレッスン中は自宅に帰る時間もないため、近隣のコンビニなどで飲み物を調達し、車内で過ごすことが大半だとか。

ピアノのレッスンを終えた実咲ちゃんを迎えに行った後は、一緒にランチタイム。商業施設のフードコートなどで食べることもありますが、時間がないときは車中で済ませることもあるそうです。

午後からは絵画とバレエのレッスン。絵画とバレエの教室は同じ建物内にあるため、春山さんは2時間30分のフリータイム。とは言うものの、自宅まで往復すると車で40分程かかってしまうため、通常は近くの商業施設などで時間を費やすことに。まだ小さな息子さんを抱えての送迎になるため、車中でお昼寝をしてしまうと起こすこともできず、車から離れられないこともしばしばあるそうです。

絵画の教室とバレエを開講している建物は複合施設のため、時間帯によっては駐車場が混雑して停めにくいことも

バレエのレッスン後は、20分程かけて隣接市の尾張旭市にあるスイミング教室に移動。スイミングは2階の観覧席から見学ができるので、約1時間のレッスン中は教室の様子を見学。着替え終わった実咲ちゃんと合流できたのは、17時頃でした。

この時間帯は、主要道路が帰宅ラッシュなどに重なり、どこも大渋滞。「運転が苦手」と話す春山さんですが、時間短縮のために細くて見通しの悪い裏道を通ることもあり、心理的な負担感を感じることもあるとか。

その後、1週間分の食料品など必要な買い物を済ませて、帰路につきます。状況により、夕飯は外食で済ますケースもあります。

ご主人が休日の場合には、家族4人で行動します。実咲ちゃんの習い事の合間を縫って家族そろってランチをしたり、車中で学校や習い事の話を聴いたりと、送迎に追われる一日を家族のコミュニケーションの時間と位置付けている春山さん。「平日は共働きでゆっくり娘の話に耳を傾けることができないので、送迎の車中の時間も有効に活用しています」と話します。
一方で、レッスンが終わるまでの空き時間の過ごし方や、運転に対する疲労、貴重な休日の時間をほぼ丸一日費やしてしまうという現状に対して、改善策を見いだしたいという思いがあるのも確かなようです。


モビリティの選択肢を広げることで、子育ての負担軽減も?
座談会で見えてきた、未来志向のサービス

フィールドワーク後は、Azitの堤さん、長久手市民の春山さんに、実咲ちゃんの同級生のお母さんである渡辺絵美さんも加わり、座談会を開催。フィールドワークに同行したCOE LOG編集部の荒木を交え、意見交換を行いました。

左からAzitの堤さん、長久手市民の春山さん、渡辺さん、COE LOG編集部の荒木

子どもの命を預かるという心理的ハードルが肝

― 今日1日、習い事の送迎に同行して感じた課題、問題は?

「CREW」では現在、未成年のみの利用はできないのですが、改めて子どもを車に乗せるということに関して、保護者以外が責任を持つことの難しさを痛感しました。

荒木

確かに、見ず知らずの人に子どもの送迎をお願いするというのは、最初の心理的ハードルが高いかもしれません。一方で、ご近所の方やリアルなネットワークと組み合わせたしくみとして考えると、可能性は広がるのかもしれないとも感じました。

渡辺

自分が乗るのではなく子どもを任せるとなると、安心安全に加えて、信頼度に対するハードルが高くなると思います。自分の目の届かないところで子どもを預けることにはやっぱり抵抗があるので、身近な地域の人とか、顔見知りの人などだと安心ですね。

春山

土曜日は自分で送迎していますが、平日は仕事の都合があり、学校や放課後児童クラブから習い事の場所までの送迎は長久手市の「ファミサポ(※3)」を利用しています。実はその際に、援助会員として登録している渡辺さんを指名して送迎を依頼しています。同級生のお母さんだから子どものケアや接し方も慣れているし、すごく安心。例えば面識のない男性に乗せてもらうのと、同級生のお母さんに頼むのとでは、心情的に全然違います。ただ、報告書などの書類を書く必要があるので、アプリなどで手軽に利用できたら便利ですよね。

(※3)ながくてファミリー・サポート事業(略称:ファミサポ)とは、子育てを援助してほしい人と子育てを援助したい人が会員となって、子どもを預かる子育て相互支援事業。

荒木

「ファミサポ」は、送迎以外にも使えるのですか?

春山

はい。例えば残業が長引いて放課後児童クラブに迎えに行けないときなどは、迎えに行ってもらって、そのまま私が帰るまで自宅で預かってもらうという形で利用したこともあります。

渡辺

「ファミサポ」の場合は、預かる時間に対して利用料金が発生するという考え方がベース。そこに送迎が絡むと実費としてガソリン代が上乗せされるというシステムです。

荒木

送迎問題を考えていく中で、単に移動だけではなく、その前後などもひっくるめたサポートが大切だと感じます。

春山

ただ、実際には子どもの命を預かるということに対して抵抗を感じるお母さんもいらっしゃるので、「同じ方向だから一緒に乗せて」と気軽に言えない雰囲気もあります。

郊外や地方都市で「CREW」のサービスを展開する際の事例から、心理的な側面を考察すると、見ず知らずの人には頼みにくいというケースと、逆に顔見知りだから頼みにくいケースなどさまざま。コミュニティの特性に合わせて、地域ごとに話し合う必要性を感じます。

「CREW」の実例をもとに、地域性、コミュニティ特性に合わせたモビリティのあり方を語る堤さん

空き時間を含め、時間のロスを減らす選択肢の一つ

― 習い事が終わるまでの空き時間の過ごし方について、感じたことは?

荒木

移動中は親子で時間を共有できますし、コミュニケーションの場として有意義に過ごされている様子が垣間見えるなど、プラスの面も感じました。しかし一方で、習い事が終わるまで待っている空き時間の過ごし方が、心理的、時間的な負担感の大きさに影響するのかなという印象も受けました。

春山

親が習い事の送迎をするという経験は、今の時期しかできないことだという考え方もあります。スイミング教室のように見学できる習い事もあり、子どもの成長を見る貴重な機会にもなっていますし、子どもがやりたいことは親としてサポートしたいという気持ちもあります。一概にマイナス面だけではないのも事実ですが、待ち時間を持て余したり、時間のロスを感じたりする場面も多いです。

渡辺

私はなるべく空き時間ができないようにタイムスケジュールを組んでいます。習字は一緒に習ったり、ピアノは同じ住宅地の中の近い教室を選んだりと、送迎の負担を減らすようにしています。

春山

送迎があたり前という状況は辛いですよね。例えば送迎サービスという選択肢があれば、その時間で家事を済ませ、夕飯を整えて子どもの帰りを待つ時間的な余裕が生まれる。時には、お母さんだって自分の時間を大切にしたいという考え方があってもいいと思います。送迎できる日はする。でも自分の体調が悪いときや、運転が億劫な日はお願いできる選択肢があるとうれしいというのが本音です。

「新しいサービスによって、お母さんたちが自分の時間を持てるのはすごくいいこと」と春山さん

お母さんはいろいろな仕事を抱えているのに、例えば長久手市のようなベッドタウンに住んでいる方にとって、基本的に、送迎がお母さんの仕事のプラスアルファになってしまっている状況だとしたら、不公平だと感じます。送迎を楽しんだり、面白さを見いだしたりしているということは感じましたが、そこに新しい移動手段という選択肢があってもいいはずだとも思うんです。選択肢があって、どちらを選ぶかは自由。普段は送迎して、自分の時間が必要なときはサービスを使うのもいいし、逆に、たまに送迎がてら見学して楽しむのもいい。新しい選択肢があれば、効率的に時間が使えて、お母さんの新しい仕事像が生まれる。ゼロベースで考えれば、違う世界が描ける気がします。

モビリティの新しい体験が未来の暮らしの一歩に

実現化へ向け「まずは保護者自身が、アプリでつながった相手と一緒に車に乗るという体験をしてみることが第一歩」と話す荒木

― 習い事の送迎以外に、移動に対する課題や、不便に感じることはないですか?

春山

元々、長久手に引っ越してくる前はほとんど運転する機会がなかったので、移住したばかりの頃は、車に乗ることができずに買い物もひと苦労でした。今でも、娘の習い事の帰り道など、渋滞を避けて裏道を走るときなどは入り組んだ細い道や見通しの悪い道を通ることも多いので、すごく神経を使う。長久手市は転勤を機に流入している方も多く、同じように車社会に慣れていない方もいらっしゃいます。自転車で行ける圏内など、行動範囲が限られているという方は結構多いと思います。

渡辺

実家が遠方にあり、祖父母など身近な支援者がいない立場としては、選択肢が増えることは本当にありがたい。長久手市には核家族世帯も多いので、家事や育児サポートになるようなサービスが増えることは大歓迎だと思います。

今後の「CREW」の活用方法として、いわゆる「買い物難民」の方々の移動サポートというアプローチは十分考えられます。「CREW」では子どもだけを乗車させるというサービスを行っていませんが、例えば手始めとして、主婦同士での送迎シェアからスタートし、それがライフスタイルにどのような影響を与えるかということを体験してみるというファーストステップが、一つの道筋になるかもしれません。さらに、心理的障壁を取り除く過程においては、中部電力という社会性のある企業と地域住民との信頼関係が大きな後押しとなり、未来志向的な取り組みにつなげることができるのではないでしょうか。

荒木

「習い事の送迎が大変だから、誰かが代わりに担当しましょう」という単純な問題ではないということを痛感しました。そこには地域コミュニティや人のつながりといった土台、信頼性、安心感、空き時間問題などいろいろな面が複雑に絡み合っている。さまざまな方の意見に耳を傾けながら、実際の生活の中でどのようにフィットするか、根底の部分でどのようなサポートが求められているのかなど、本質の部分を見失わないようにサービスデザインを進めていかなければならないと再認識しました。今日は非常に有意義な時間をありがとうございました。

Profile

春山由加里さん
会社員の夫、小学校3年生の長女、1歳の長男と暮らす4人家族。兵庫県出身で、夫の勤務先が豊田市だったことから、8年前に長久手市に転入。自身も名古屋市の企業で正社員としてフルタイム勤務をする共働き世帯。
渡辺絵美さん
埼玉県出身。夫、小学校3年生の長女、年長児の次女と暮らす核家族で、週に4~5日はパート勤務。関東で出会ったご主人が岡崎市に転職したため、結婚を機に愛知県での暮らしをスタート。次女の誕生をきっかけに6年程前、長久手市に移住。
堤崇男さん
京都府出身。モビリティ・プラットフォーム「CREW」を運営する株式会社Azitの地方創生部として、過疎地や交通空白地、観光地での移動課題の解決に地域の方々や行政担当者と共に取組む。

編集後記

今回、実際の子育て現場に飛び込んで「送迎」という課題に向き合う機会をいただきましたが、単純な問題では無く、複数の問題の組み合わせであることを改めて感じました。

今回は送迎の代替手段を中心に議論させていただきましたが、少し視点を変えてみると「送迎や待ち時間をとても楽しい体験にする」「こどもではなく習い事が移動する」「子供のそばで親が働ける環境を作る」など、解決への道筋にはいろいろな可能性があることに気づかされました。

引き続き市民、行政、企業の皆さまとともに、送迎の課題に対して取り組んでいきたいと考えております。(中部電力 荒木岳文)

文:花野静恵

撮影:松井なおみ

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