子どもの生きる力を育成する観点から、「キャリア教育」が重要視されています。文部科学省の資料（※）によると、キャリア教育は「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義されています。
今回は、キャリア教育の基礎になる「子どものやる気」を伸ばすために大切な「心理的安全性（自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態）」について、キャリア教育の専門家に話を聞きました。
※中学校・高等学校キャリア教育の手引き（2023年3月）
武居秀俊（たけい・ひでとし）
人材系の会社で営業や研修を担当、ヘッドハンティング会社のキャリアコンサルタントを経て、東京の都立高校で世界史教員として勤務。その後独立し、現在は企業向けに経営支援や採用支援を行うほか、中学生～大学生向けにキャリア支援プログラムを提供している。自身は男4人兄弟で、3女の父。
「心理的安全性」とは？
心理的安全性とは、自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態のこと。心理的安全性が確保された環境にいる子どもは、自分らしく、のびのびと過ごせます。そして、安心して物事に挑戦し、仮に失敗をしてもそこから学ぶことができます。
逆に、心理的安全性が確保されていない環境にいる子どもは、やる気が出ないだけでなく、心が不安定になってしまいます。ストレスを溜め込んだり、自己肯定感や自己効力感が低くなったり……。これは、大人の場合でも同じです。上司が話を聞いてくれない、何を言っても否定される職場だと、働く意欲をなくしてしまいますよね。
心理的安全性≒心理的柔軟性
心理的安全性は、「心理的柔軟性」であるとも言えます。つまり、心のしなやかさがある（心が折れにくい）状態で、自分にとって大切な価値観に沿って行動できる状態を指します。
例えば、「勉強が出来る」ことだけに価値があるわけではありません。ゲームが得意、ダンスが出来る、歌が上手い、何でもいいんです。どのようなことでも、自分にとって大切な価値観に沿って行動して、それが周りから認められると、自信になります。それによって子どもは、のびのびと自分のやりたいことに取り組めるようになります。
「心理的安全性」の引き出し方
子どものやる気を伸ばす「心理的安全性」を保つために、家庭内では次のようなことに気を付けてみてください。
・子どもの話を決めつけずに最後まで聞く
・親自身が自己開示をする
まずは、子ども自身が大切にしている価値観を、親御さんも大切にしてあげましょう。とは言っても、「ゲームにのめり込み過ぎて、遅くまで起きている」「やるべきことをやらない」などの場合は、親がブレーキをかけてあげる必要はあります。ただ、どのようなことであっても「好き」という気持ちは尊重してあげるようにしましょう。
この場合、子どもの「好きな要素」を分解してあげるコミュニケーションが有効です。一言で「ゲームが好き」と言っても、RPGなどでレベルアップをして成長を感じられるのが楽しい子や、ゲームの物語性に惹かれる子、宝探しや裏技発掘が好きな子どがいますよね。その整理が出来ると、キャリア教育で言うところの「自覚せる有能」（※）に本人が気づきやすくなります。
それはゲーム以外の生活全般でも、その子が大事にしている価値観のはずです。
キャリア教育などで言われる「学習の４段階」の１つ。人は、「無自覚の無能（知らないから出来ない）」「自覚せる無能（知っていても出来ない）」「自覚せる有能（意識すれば出来る）」「無自覚の有能（意識しなくても出来る）」の順番で能力を獲得し、成長していくという考え方。
子どもに限らず、人は自分の考えや意見を否定されたり、非難されたりすると、自尊心を傷つけられてしまいます。否定するつもりはなくても、相手の話を「はいはい、いつものあの話ね」などと決めつけてしまうと、相手は話す気をなくしてしまいます。日々成長している子どもの話を、全く初めて聞くかのように興味を持って最後まで聞いてあげましょう。その上で、気持ちや考えを整理してあげられると、子ども自身の気づきに繋がるかもしれません。
また、親自身も完璧な人間ではありません。大人が失敗したときは素直にそれを認めること。不完全な面も含めて、自己開示が出来る大人が周りにいると、子どもは安心して挑戦できますよ。
次回の記事では、子どもの強みを引き出す、本当の「自己理解」について解説します。
