中学生・高校生になると、進路について考える機会が出てきます。将来の夢や目標がある子もいれば、「進路選択に迷っている」「好きなこと、得意なことが分からない……」など、やりたいことが見つからないという子もいるのではないでしょうか。
今回は、2回に渡ってキャリア教育に詳しい専門家に、子どもが「やりたいこと」を見つけ、その気持ちを伸ばすために、家庭で出来る方法を聞きました。
武居秀俊(たけい・ひでとし)
人材系の会社で営業や研修を担当、ヘッドハンティング会社のキャリアコンサルタントを経て、東京の都立高校で世界史教員として勤務。その後独立し、現在は企業向けに経営支援や採用支援を行うほか、中学生~大学生向けにキャリア支援プログラムを提供している。
「子ども主体」で考えるキャリア
みなさんは「勉強しなさい」と言われて、途端にやる気をなくしてしまった経験がないでしょうか。人は本来、「自分のことは自分で決めたい」という欲求を持っています。これは、「心理的リアクタンス」と呼ばれ、選択や行動の自由が制限された時に、抵抗や反発感情が生まれるという現象です。
大人も子どもも、人から命令されたことよりも、自発的にやろうと決めて行動する方がやる気が出ますし、成果も発揮できますよね。
子どもが将来つきたい仕事、やりたいことを見つけるために最も大切なのは、子どもが「主体」であるということです。つまり、子どもが自分でやると決めて、やりきること。このような機会を日常の中でたくさんつくっていきましょう。
これに対し、親や周りの大人が先回りして何でもやってあげると、子どもが主体的に考えたり、動いたりする機会を奪ってしまいかねません。子どもが主体的に考え、動く機会をつくるために、家庭で出来ることがたくさんあります。
普段の会話で「問い」を立てる
子どもが自分で考える癖をつけるためには、毎日の会話の中で「問い」を立ててあげるようにしましょう。
日ごろから、子どもに質問を投げかけることを意識して、例えば学校から帰って来たら、「今日は愉(たの)しめた?」と聞くのも1つです。楽しかったことや嬉しかったことだけでなく、嫌なこともあったかもしれません。それらの質問から、自分で答えを考えて、相手に伝えるというのも、主体的に考えるアクションです。
他にも、どこかへ出かけた時や気になるニュースを見聞きした時など、それに対して子どもが何を感じ、どう思ったか、積極的に聞くようにしましょう。
この「問い」を立てる時に気を付けて欲しいことが2つあります。
決めつけない
子どもが話すことに対して、「いつものアレね」「またその話ね」「いつもあなたは〇〇ね」など、話を先回りして、決めつけるのはやめましょう。話している途中に相手から「決めつけられている」と感じると、子どもは話す気を失ってしまいます。
子どもは日々成長しています。「1日経てば別の人」という気持ちで、子どもの話に対して好奇心と興味を持って、最後まで聞いてあげるようにしてください。実はこれ、簡単そうに見えてとても難しいことです。無意識のうちに自分の思い込みの枠に当てはめ、話を聞いているようで、全く聞いていないという人も少なくありません。
まずは会話の中で、「今、決めつけてしまった!」と気づくだけでも、改善の第1歩です。親子間だけでなく夫婦間の会話の中でも、決めつけないで最後まで聞くことは、必要かもしれませんね。
「なぜ?」ではなく、「何があるからそう思ったの?」
相手の話を聞く時に「なぜ?」「なんで?」と質問を繰り返すと、状況によっては言われた側が責められているような気になります。すると、相手が委縮したり、言い訳してしまったりする場合もあるので、こんな風に言い換えるといいかもしれません。
→「何があったから、〇〇をなくしてしまったと思う?」
→「何があるから、□□に行きたいと思うの?」
出来るだけ話しやすい雰囲気をつくるためには、「何があるからそう思ったの?」と聞いて、子どもの気持ちをなるべく中立的に深堀りするようにしてみてください。
学校ではできない学びを家庭で!
「履修主義」と「修得主義」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
今の義務教育では履修主義になってしまうことが多いです(北欧は習得主義なので、例えば小学校1年生から自主留年ができる仕組みです)。
履修主義、習得主義のどちらにもメリット・デメリットはありますが、キャリア教育という観点からは、受け身になりがちな履修主義は向いていないと言えるのではないでしょうか。
現在、小中学校と高校で実施されている「探究学習」は、さまざまな物事に対し、「どうしてなんだろう?」という問いを立てて、その疑問や課題を解決する力をつける、子どもが「主体」の学びです。
ただ、普段から考える癖がついていないと、「自分で考えましょう」と言われても、どうすればいいのか分からなくなってしまいます。だからこそ、日々の親子間の会話の中で「問い」を立てることを意識するようにしてください。
特別な経験をさせたり、特別な場所に連れていったりしなくても、子どもがやりたいことを見つけ、考えるきっかけをつくることは出来ます。
後編では、子どものやりたいことを見つけて伸ばすために必要な「自己効力感」の育て方をお伝えします。
文・聞き手:きずなネット編集部