近年、小中学校・高校で探究学習の時間が始まり、「自分で考えることの大切さ」が今まで以上に注目されています。ただ、「自分で考える」と言っても、一体何をすればいいのか分からない人も多いのではないでしょうか?
前編の記事では、キャリア教育に詳しい専門家に、子どもが主体となって考えるための親の関わり方を解説しました。今回の記事では、子どものやりたいことを見つけ、その気持ちを伸ばすために必要な「自己効力感」の育て方をお伝えします。
武居秀俊(たけい・ひでとし)
人材系の会社で営業や研修を担当、ヘッドハンティング会社のキャリアコンサルタントを経て、東京の都立高校で世界史教員として勤務。その後独立し、現在は企業向けに経営支援や採用支援を行うほか、中学生~大学生向けにキャリア支援プログラムを提供している。
子どもの自己効力感を育む
子どもがやりたいことを見つけ、その気持ちを伸ばすために必要なのは、子どもの「自己効力感」を育てることです。自己効力感とは、「自分なら出来る」「きっと上手くいく」と、自分自身を信じること。これは、自分自身を認めて受け入れる「自己肯定感」とは区別されます。
自己効力感を育てた事例
かつて都立高校の教員をしていた頃、軟式野球部の顧問を任されました。配属当時、10数名の「普通の子」が集まったチームでしたが、後に東京都準優勝を果たすまでになりました。
その際、徹底的に行っていたのは、生徒と1対1の対話で、信頼関係を構築すること。その上で、「何があるから、軟式野球部に入ったのか」「自分はここで何をしたいのか」を聞いて、チームとして彼らに期待すること伝えていました。例えば、「バントが得意だから、バントにこだわりたい」と言う生徒に対しては、その役割を与えて、やり切るようにさせる。こうしたことを1人1人に対して丁寧に行ったのです。
さらに、部員みんなで課外活動を行い、カレーライスを作ってもらったこともありました。遠方に合宿に行く費用がない中での苦肉の策だったのですが、とても手際がいい子、包丁さばきの上手い子など、共同作業をする中で仲間の意外な一面を知れて、部員同士の距離がグッと縮まったのを実感しました。
仲間を知ることで「心理的安全性」、つまり、「ここなら安心して発言・行動できる」という気持ちが高まり、みんなが言いたいことを言い合い、のびのびとプレーをするようになる。すると、一気にチームが強くなっていきました。
家庭で出来る、自己効力感の育て方
人は、自分に役割があることで、「ここにいていいんだ」「自分は誰かの役に立っている」という気持ちになります。先ほどの軟式野球部での事例では、チーム内で役割を与えましたが、家庭内でも、ぜひ子どもに役割を与えてみてください。
お手伝いをさせる
子どもに役割を与えるために、具体的な方法としておすすめしたいのが、お手伝いをさせることです。家庭内においても「誰かの役に立っている」という実感を持てると、自己効力感が育まれます。
料理をする、お風呂掃除をするなど、どんなことでも構いません。家庭内でのお手伝いを通して、例えば料理なら、「野菜を切ったり、混ぜたりするのは苦手だけど、盛り付けは得意だな」など、自分はこれが得意・苦手、好き・嫌いということが分かってきます。得意や好きを見つけるのと同じくらい、苦手・嫌いを見つけるのも大切で、まずやってみることで自分自身の強みが分かってきますよ。
同時に、家庭内で「心理的安全性」をつくることも必要です。「心理的安全性」は、≒で「心理的柔軟性」でもあります。前編の記事でお伝えした、子どもの話を聞く時に「決めつけない」と言うのは、心理的安全性の醸成にもつながります。
決めたことをやり切らせる
子どもにお手伝いや、何らかの役割を任せたら、最後まで責任をもってやり切らせることも大切です。そして、約束通り出来ない時があれば、事前にそれを申告する、出来ない理由を明確に伝えるなど、ルールを作るようにしましょう。
与えた役割に無理があれば、それを変更することも必要です。決めたことを最後までやり切る経験が、子どもの自信を育て、自分自身を知るきっかけにもなるはずです。
例えば、私自身はプロ棋士を目指して将棋にのめり込んでいたことがありました。結果として、プロにはなれませんでしたが、この経験を通じて「自分は、1人1人と対等に公平に向き合うことが好きなんだ」ということに気づき、教育の世界に進むことが出来ました。
お笑い芸人を目指していた人が、夢破れて会社員になり、その話術を活かして営業でトップセールスになったという話もあります。 何かをやり切った経験は、その後の人生においてムダになることはありません。ぜひそんな体験をする機会を、お子さんに与えてあげてください。
大人の役割は「環境」を作ること
アメリカ・スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「プランド・ハップンスタンス(Planned Happenstance)理論」というものがあります。これは、変化の激しい現代社会において、キャリアの8割は偶然の出来事によって形成されるという考え方です。
恐らく、これを読んでいる親世代のみなさんも、子どもの頃に思い描いていたキャリアを歩んでいるという人はごく少数なのではないでしょうか。目まぐるしく変わる社会の中で、当初考えていたキャリアとは違った方向に進むことは珍しくありません。そのため、予期せぬ偶然も積極的に自身のキャリア形成に活かしていくことが求められます。
親や教師の役割は、子どもの進路や将来の夢を決めることではありません。それを子どもが「主体」で決められるように「環境」をつくってあげることです。
あくまで、決めるのは子ども本人。ついつい、口を出し、手を出したくなってしまいますが、子どもを信じて見守り、自分自身でキャリアを形成できる力を身につけられるよう、サポートしていってあげてください。
文・聞き手:きずなネット編集部