子育て中の方に向けたサービスを提供してきましたが、そもそも私たちは子育ての現状を理解しているのだろうか?
そんな問題意識から注目したキーワードのひとつが、子どもの自主性を尊重する教育として注目される「イエナプラン」。
この独自の教育法についてのイベントがあると聞き、中部電力の栗林修と𠮷川由紀が、東京・巣鴨で実施されたイベント「教育のミライ-オランダの教室からby PLAYFUL」に参加しました。
「イエナプラン」で知られるオランダと、「対話の国」デンマークの教育事情を知り、あたらしい子育ての潮流を肌で感じた様子をレポートします。
海外で出会った「生きる力」を学ぶ教育
イベントのスピーカーは、ヒミツキチ森学園代表の宮下千峰(ちほ)さん。
スピーカーを務める宮下千峰さん
大学卒業後、就職困難者向け就労サービスを提供する会社に勤務していましたが、マニュアルに沿った日本の教育そのものに疑問を感じてデンマークを訪れます。そこで出会った「生きる力」を学ぶ本物の教育を日本でも実現すべく、会社を辞め、ヒミツキチ森学園の発起人となりました。
イベントでは、宮下さんが視察したオランダとデンマークの教育現場について語られました。「世界一子どもが幸せな国」と呼ばれるオランダは、公立も私立も学費はほぼ無料。校区制はなく、通う学校を自由に選択できます。
会場のRYOZAN PARK 巣鴨は満席に
従来の教育方法とは異なる「オルタナティブ教育(注)」を10人にひとりが受けていて、その種類もさまざま。小学校でも落第や飛び級があったり、一斉入学ではなかったりなど日本とは大きく異なります。
(注)オルタナティブ教育:代替教育ともいい、学校教育法で規定されていない教育法のこと。オルタナティブ(alternative)は、「もう1つの」という意味を持つことから 「第3の学校」と呼ばれることもある。
ドイツで発祥、オランダで普及したイエナプラン
オランダで普及している教育のひとつが「イエナプラン」です。イエナプランは1924年、ドイツのイエナ大学でペーター・ペーターゼン教授によって始められ、オランダで普及しました。
助け合いや学び合いが生まれやすい異学年混合クラスで、どの席で何を学ぶかは自分次第。
4歳から11歳の子どもによる異学年混合クラス
先生が今日の学習内容を伝えると、必要と思う子どもだけが前に集まり、他の子どもは思い思いに自分の学びに取り組みます。
イエナプランでは時間割を作るのも自分自身
理科や社会という区別をしない総合学習「ワールドオリエンテーション」も「イエナのハート」と言われる重要な要素です。
本物に触れながら、教科の枠を超えて学びを深めていく
ここでは本物を使うことが重視されます。たとえば、リンゴの話をする時に用いられるのは、リンゴが描かれたカードではなく本物のリンゴ。また、リンゴに対して生まれる多くの問いを、「数について考えるなら算数」「育て方を知りたいなら理科」と科目に分けることはありません。
対話と学習、遊び、催しを繰り返すバランスのとれた活動計画や、自分で時間割を作って振り返り、翌週に生かすという「計画とリフレクション」もイエナプランの特徴です。
グループ対話で参加者同士の交流も
宮下さんからの事例紹介の間には、参加者数名でグループを作って行う対話の時間が2回、約15分ずつ持たれました。栗林と𠮷川も、5名のグループに参加して対話。1回目の対話では、オランダの教育についての感想を語り合いました。
学生、主婦、フリーランス…多様な参加者とともに対話
イエナプランで学んだ子どもたちは、将来の選択肢の幅が広がり、イノベーティブな人材が増えそうだ。大人にも取り入れてはどうか(栗林)
イエナプランについて意見を述べる栗林
自分で考える習慣がつくことで、指示待ちではない大人になれそう(𠮷川)
オランダの教育について感想を述べる𠮷川
と、初めて本格的にふれたオランダの教育について感想を述べました。
また、子どもの教育だけに留まらず、各参加者の現在の環境においても参考になるとの声が目立ちました。
子どもの力を信じて待つ、デンマークの教育
次に宮下さんが語ったのはデンマークの教育。「対話の国」とも言われるデンマークでは、子どもたちによる話し合いが重視されます。
あらゆる場面で「あなたはどう思う?」が重視される
多数決をして反対意見の人を置きざりにすることはなく、対話によってより良い着地点を探します。
また、自分が何をしたいのかを考える時間と環境が守られ、大人が必要以上に干渉しないため、自主性が養われます。
生徒が遠足の行き先を決めるという事例に会場からは驚きの声も
オールラウンダーを育てるよりチームの相互作用を重視する、個性を尊重するという姿勢も特徴です。
「Good Teacher=Lazy」子どもの力を信じて待つ、という教育方針は、オランダとデンマークに共通して感じられる点として挙げられました。
ふたつの国の教育現場のリアルな姿に聞き入る二人
「傾聴」の大切さに気付く
この後、2回目の対話の時間が設けられ、日本の教育の未来について先ほどと同じメンバーで意見が交わされました。栗林と𠮷川の輪の中には、オランダの教育現場を見てきたという学生も。
会場には教育現場で働く参加者の姿も
理想的な環境のように聞こえるが、いじめなどはないのか?(𠮷川)
と実際の状況について質問。また、自身も小学生2人の親として、子どもを持つ女性とは、母親の目線で共感する点も多かったとか。
相手の意見を尊重することはやはり大切。今後はいろいろな場所で、もっと傾聴を心掛けたい。(栗林)
2020年に新しい理念の学校を開校予定
宮下さんらが設立を進めるヒミツキチ森学園は、神奈川県逗子・葉山・横須賀エリアに今までにない理念をもつ小学校として2020年に開校予定。オランダのイエナプラン教育とデンマークの教育の指針を参考にしながら、日本の学習指導要領や価値観と融合した教育、「自分のどまんなかで生きる」をテーマに、子どもたちが自分の人生を生きる力を育む学校を目指しています。
ヒミツキチ森学園では開校に向けて説明会や勉強会を実施中
日本の教育にイエナプランをどう生かすか
多様な参加者との対話で、さまざまな考えを共有できた有意義な時間。イベント終了後も会場のあちこちで、活発に意見交換が行われました。
終了後、宮下さんに質問する参加者が目立った
ふたつの国の先進的な教育にふれ、業種の異なる参加者と対話することで、「共創」のヒントを体感することができました。
また、スピーカーの講演と参加者の対話という飽きのこないイベント構成も魅力的で、今後自分たちで実施するイベントで、教育法についてみなさんに聞いてみたいと思いました。
文:豊野貴子 撮影:合田和弘