核家族から友だち家族へ。長久手で考えた、これからの子育てのカタチ

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テーマ:子育て

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名古屋市と豊田市の間に位置する愛知県長久手市。豊かな自然や商業施設の充実など、その住みやすい環境を求めて子育て世代の転入者が増えています。
今回は、長久手市出身のコミュニティデザイナー・山崎亮さんをファシリテーターに迎え、長久手市で暮らす子育て世代と座談会を開催。子育ての悩みや課題を共有するとともに、地域のあり方などについて意見交換することで、コミュニティへの新たな視点を持つきっかけに。
座談会を企画した中部電力からは、ICT戦略室の奥村香保里と中電シーティーアイの荒木岳文が参加。子育てしやすいまちづくりに向けて、民間企業として担う役割など多くの気づきを得てきました。

子どもが2010年から20%増!日本一若いまち・長久手

山崎

僕は今、関西に住んでいますが、長久手中学校卒業で、実家は長久手市にあります。今では「日本で一番若いまち」や「子育てしやすいまち」ともいわれていますが、当時はこれほど長久手に子どもが増え、整備されたまちになるとは想像もしていませんでした。
それではお一人ずつ、自己紹介を兼ねて子育ての状況や率直な思いをお聴かせください。

長久手市は子育て世代の転入が多く、2018年には児童数(0歳~17歳)が2010年の20%以上も増えた

鈴木

幼い頃は名古屋で育ち、中学校を卒業後、両親とともに長久手へ。当時の長久手は未開発地域ばかりで「田舎に来たな」という印象でした(笑)。名古屋の企業に就職して長久手を離れたのですが、長女が生まれたことを機に実家の隣地に家を建てました。今は親の助けを借りながら育児をしています。

小学生の娘と息子を育てる鈴木さん

春山

私は兵庫県出身で、夫は石川県出身。夫の勤務地が豊田市だったことから長久手に住むことになりました。近くに知人や身内もいない共働きの核家族ですが、親の都合で子どものやりたいことを制限させたくないというのが信念です。ただ、仕事の都合で習い事の送迎ができないことも多く、ファミリー・サポート事業(※)を活用したり、ママ友にお願いしたりと試行錯誤しています。

(※)ながくてファミリー・サポート事業とは、子育てを援助してほしい人と子育てを援助したい人が会員となって、子どもを預かる子育て相互支援事業。

小学生の娘と8ヶ月の息子を育てる春山さん

隣の瀬戸市出身で、結婚して長久手に住み始めて5年になります。印象としては、県外や市外からの転入者が多いということ。そのせいか、横のつながりを求めているお母さんが多いので、イベントに足を運ぶとすぐに友だちの輪が広がり、悩み事を共有できるのはありがたいです。

3歳の息子を育てる表さん

エリアごとに異なる、長久手の子育て環境

山崎

今、長久手市は人口の増加、なかでも子育て世代の転入が顕著ですが、子育ての悩みや望みについてお聴かせください。

鈴木

今住んでいる東小校区という長久手の東側にあたるエリアは、長久手の全体的な傾向とは裏腹に子どもの数が少なく、公園に行っても誰もいないような状態です。息子が小学校に入学した時、放課後子ども教室は16時50分まで、児童館は日曜日休館など、放課後や週末、夏休みなど長期休暇時の遊び場が少ないと感じました。

春山

私も同じ東小校区なのですが、300世帯ほどの新興住宅地に住んでいるので子どもの数は多く、さらに住宅地開発が進んでいます。ただ、東小校区とひと括りにいっても広域にわたっていて徒歩圏内ではないので、子ども同士が日常的に交流するということは難しいかもしれないですね。

山崎

子どもの数が増えているといわれる長久手ですが、エリアによって差が大きいのですね。

私が住んでいるのは北小校区なのですが、マンションが建ち1,000世帯近くが入居を始めています。子どもも多く、息子が小学校に入学する頃には学区の再編成があるかもしれないという噂も。なかには、マンモス校を敬遠して私立小学校の受験を検討しているというお母さんもいます。私の周囲は教育熱心なお母さんが多いという印象なのですが、モンテッソーリのように特徴的な教育方針やプログラムを取り入れる園など、多様な施設が増えることを望みます。

「教育の選択肢がほしい」と話す表さん

山崎

僕は幼い頃、モンテッソーリ教育を導入している園に通っていました。園長先生の自宅の離れのようなスペースで、先生1人と子ども15人くらいで過ごしていました。多様化するニーズに応えるという視点で考えると、もちろん公的なサービスや設備が整うことも大切ですが、例えば僕が通っていた園の園長先生のように、子育てが一段落した世代が空いた部屋を使い、近所の子どもを集めて教室を開くなど、自分にできることを個別に取り組むような形が増えてもよいのかもしれませんね。

モンテッソーリ教育の影響を受けた山崎さん

市民が先生になって教え合う場がある

山崎

長久手に住んでいて、子育てがしやすいと感じる風土やしくみはありますか?

鈴木

子どもが参加できるレクリエーションや短期の教室などが充実しています。毎月発行される広報紙を見ながら、子どもとチェックするのが楽しみです。

地域共生ステーションという場所があり、さまざまな講座やイベントが開催されています。かしこまった教室ばかりではなく、趣味の延長でやっている講師の方なども多いので、新しいジャンルに出会える楽しさがあります。私の友人もベビータッチや整膚が得意だったので、広報紙に掲載して受講生を募集していました。

山崎

実は、僕の母も地域共生ステーションで高齢者向けの交流サロンのようなものを開いています。自由度の高い場所を行政が提供し、地域の人ができることを持ち寄って、互いに支え合いながら人生を豊かにする。そういう意識が浸透し、実践されていることも、子どもを育てる環境づくりの後ろ盾になっているのかもしれませんね。

市民と地元話で話を弾ませる山崎さん

市民が採点!長久手の子育て環境は平均85点

山崎

それぞれの視点から見て、長久手市の子育て環境は100点満点で採点すると何点くらいですか?

春山

私は60点です。急激に子どもが増えているので、待機児童の問題など少し追いついていない部分もあるのかなと感じます。また社会全体にいえることですが、思いきり遊びたい子どもにとって、例えば公園でボール遊びや花火を禁止するなど制約が多すぎる。子どもが多い長久手市から変えていけるとよいのかなと感じます。

今、ペダルやブレーキのない幼児向けの自転車が流行っていて、息子も夢中なのですが、乗って遊べる公園が全然ないですね。

山崎

確かに子どもの好奇心や活動を抑制するような公園のルールが増えていますよね。国の法律ではそこまで細かく禁止事項を決めていないはずですが、自治体が安全面や周囲への影響を考えて禁止していることが多い。だから地域の人たちと協力して行政に訴えかけて変えていけばいいと思います。「ここは思いきりボールで遊べる公園にしたいから、フェンスをつくってください」とか。北欧をはじめとしたヨーロッパ圏では、そのような住民主導による地域のしくみづくりが当然のこととして実践されています。鈴木さんは何点くらいですか?

鈴木

90点から95点くらい。多様な世帯が増えていく中で、児童館や保育園などにおける日曜日の対応など、さらにきめ細やかなサービスがあれば100点満点になると思います。

「ここの不便さを知らずに住み始めていたら60点かも」と鈴木さん

私は息子が未就園児ですし、まだそれほど大きな問題に直面していないということもあり、98点かな。ただ、小学校入学という現実を考えると、大規模化が極端に進んでしまうことで、いじめや偏差値の問題など、悩みが出てくると思います。

春山

私は長女が生まれたばかりの頃、乳児を連れていける場所が少ないと感じたのですが、遊びに行く時は児童館などへ行っていますか?

確かに市内には少ないので、隣の瀬戸市や名古屋市千種区にある児童館へ行くことも。他の地域の児童館には保育士の方がいて相談に乗ってくれたり、子どもを見ていただいている間にお母さん同士で会話ができたりという点で助かっています。

春山

長久手市にも気軽に相談できるような、専門的な知識を持ったスタッフの方が常駐する施設が増えるといいですよね。

「助けてと言えないお母さんもいる」と春山さん

山崎

行政を動かそうとすると、体力も時間もお金もかかってしまう可能性があります。まずは、自分たちでできることから着手してみるということが、実は近道だということも。これから重要になってくるのは、自分たちの地域のことは自分たちで決めて、変えていくしくみづくり。いわば、「民主主義の練習の場」をたくさんつくっていくことです。親たちがみんなで話し合いながらルールを変え、住みやすいまちづくりに取り組む姿を見て育った子どもは、きっと意識が変わり、自分たちの力でまちをつくっていける大人に成長するのではないでしょうか。

「長久手から変えていきたい」という意見も

50年越しの恩返しも? 長期的な関係を構築

山崎

今後、さらに長久手を子育てしやすいまちへとアップデートするためには、どのようなことが必要だと思いますか?

春山

長女が小学校に入学した時、保育園や幼稚園の時と違い、急に親と先生との関係が希薄になった気がしました。情報のやりとりはもっぱらプリントですが、低学年だと持って帰ってこないことも。学校の情報などを閲覧できるアプリとかがあるといいですね。

今は親同士でプリントを確認し合うという春山さん

鈴木

交通手段が充実するといいなと感じます。習い事へ行く時や遊びに行く時も、できれば電子マネーカードなどを渡して自力で行かせたいのですが、そもそも駅まで行くバスが少ない。

春山

確かにバスの本数が少なすぎますよね。習い事はみんな自家用車で送迎している。働いていると送迎できないことも多いから、高齢者向けのワンコインタクシーのようなしくみを、子育て世代も利用できるようにしてほしい。

山崎

仲のよいお母さんと協力して、10人くらいのグループでやってみてはどうでしょうか。「誰か送迎、お願いできませんか?」と呼びかけてみる。働いている人は申し訳ないという気持ちになるかもしれませんが、逆に高齢者になった時など、社会経験を活かしてお返しができるかもしれない。50年越しくらいの長いスパンで恩返しすればいいというような感覚で人づき合いできるといいですね。

近隣家族と連携していた山崎さんの体験談も

価値観の合う友だち家族と大家族的な関係に

鈴木

長久手市は今、地域の自治会などにも働きかけて行政と市民が互いに支え合っていこうと活動を促している。公的な部分と市民が自らできる部分をうまくミックスしながら、世代を問わず誰にとっても生活しやすい状況が続くといいなと感じます。

山崎

そうですね。核家族で暮らしていくためには、子育て世代の時から仲間をつくり、高齢者になった時までの過ごし方をイメージしておくことも大切かもしれません。
この考え方は高齢者の孤立問題にも通じる側面で、血縁ではない友だち同士でも家族的に暮らしたり、つながったりできる可能性があるのではないかという視点です。
その手始めとして、例えば5世帯くらいで気の合う家族仲間をつくり、一緒にご飯を食べたり、助け合ったりすることで、かつての大家族的な関係性を友だち家族という形に置き換えていく。子育てという同じ課題を持つ同世代が、周りにたくさんいるというこの地域の利点を活かしつつ、そういう小さなコミュニティがいろんな所に生まれてくることが、これからの時代を豊かに生き抜く一つの方法なのかもしれません。

座談会は子育て家族に人気の長久手のカフェ「Photovel Cafe」で開催しました

Profile

春山由加里さん
会社員の夫、小学校2年生の長女、8ヶ月の長男と暮らす4人家族。兵庫県出身で、夫の勤務先が豊田市だったことから8年前に長久手に転入。自身も名古屋市の企業で正社員として勤務する共働き世帯。
鈴木啓介さん
長久手にある実家の隣地で妻、小学校4年生の娘、1年生の息子と暮らす。長女の小学校入学と同時に名古屋市内の勤務先を退職し、専業主夫として子育てに携わる。現在は再就職し、母のサポートを受けながら妻と共働き。
表 麻子さん
瀬戸市出身で、名古屋市の企業に勤める夫との結婚を機に5年前に長久手へ。現在は専業主婦として3歳5ヶ月の息子の育児に専念。幼稚園入園後は里親など、育児と並行して自宅でできる活動を検討中。
studio-L代表 山崎亮さん
愛知県生まれ。地域の課題を住民自らが解決し、まちを変えるためのコミュニティデザインに取り組む。長久手市の若手職員と市民が一緒になってまちの課題を解決し、まちの可能性を広げる「なでラボ」のワークショップ運営、サポートにも携わる。

参加した中部電力社員のコメント

ICT戦略室 奥村香保里
長久手での生活に満足している一方で、参加者の方々の課題意識の高さを実感しました。抱えている課題の中には、知人や友人との小さな支え合いなど、人とのつながりによって解決できるものも多い。中部電力としては、日常的に人が集まれるような場の提供など、つながりを生むきっかけづくりをしていきたいと感じました。
中電シーティーアイ 荒木岳文
住民参画を望む行政側からのメッセージを参加者の皆さんがしっかり感じ取りながら、市民と行政がよい関係性を築いているという印象を受けました。市民と行政とのつながりに、我々のような地域に根付いた民間企業が加わることで、理想のコミュニティを形づくるモデルケースになることを願っています。

文/花野静恵

撮影/松井なおみ

撮影協力/Photovel Cafe(長久手市)

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まとめる

子育て最前線での対話とまなびをふりかえり、解決アイデアを考える

子育てしやすい中部地方を目指し、当事者や専門家との対話を続けてきた中部電力。活動から得た学びを活かすため、アイデアを出し合いました。

テーマ:子育て

テーマ「子育て」は中部電力のこんなメンバーで
取り組んでいます

「きずなネット」のサービス開発・運用に取り組むメンバーを中心に、
子育てに向き合う皆さまの声を直接聞いてみたい!と立ち上がりました。

きずなネットとは

学校などからの連絡を保護者さまの携帯電話にお届けするサービスです。中部地方では80万人以上が利用しています。

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