お子さんの中学受験や高校受験を見据えて、または学力強化のために学習塾を検討される親御さんも多いのではないでしょうか。ただ、一言で学習塾といっても集団塾や個別指導塾などさまざまなタイプの塾があります。ここでは塾を選ぶ際のポイントを、大手進学塾で7年間講師をつとめる発達の専門家が解説します。
HSC(Highly Sencitive Child)の傾向をもつ子や過敏な子が塾を選ぶ際に確認したい点もご紹介しているので、参考にしてみてください。
カウンセラー:いしづかみほさん
目標達成のため、どのルートをどんな人と進むのかはとても重要です。ただ、もし選択を間違っても「いつでも選び直しはできる」というくらいの感覚で塾選びはしていただきたいものです。ほとんどの塾が入塾前には体験授業を実施していますので、ぜひ試してみてください。
集団塾と個別指導塾の違いとは?
集団授業をする塾と個別指導をする塾、それぞれの特徴はおおむね以下の通りです。
集団授業の塾の特徴
- 人数は5~15名、多くても20名まで
- 3教科受講、5教科受講という単位で指導してもらえる
- おおむね学校の学習進度に合わせてカリキュラムが決まっている
- 月謝は個別指導よりも安い
個別指導塾の特徴
- 主に生徒2人に先生が1人つくといった1対2の指導が主流(1対1、1対3もある)
- 1科目80~90分の授業を週1回
- 教科を限定して学べる
- 決まったカリキュラムはなく、本人の状況と家族の要望などを踏まえて内容を決める
- 多くの塾で欠席した時の振替を行っている
- 基本的に先生を指名することはできない。ただし「女性の先生がいい」「きびしく指導してもらいたい」などの要望を伝えると、ある程度応えてくれる塾もある
- 月謝は少し高め
必ずしもすべての塾にあてはまるわけではありませんので、ご自分の地域の塾に直接パンフレットをもらいに行く、もしくはホームページなどを確認し、詳細については担当の先生から説明を受けてください。
この基本をおさえつつ、お子さんに合った塾を選ぶポイントをお伝えいたします。
集団授業の塾が向いている子は?
集団授業の塾をおすすめするのは、以下のようなニーズや特徴のあるお子さんです。
- 学校の授業内容をある程度理解していて、そのサポートとして塾を利用したい
- まんべんなく全部の教科を学習したい
- たくさん人がいても落ち着いて授業を受けられる
- 教科などの得意、苦手をあんまり気にしない
- みんなと一緒にいることで楽しい気持ちになる
- 持ち物の準備片付けや、プリント、手紙などを管理できる
など
必ずしもこれに当てはまらなくても、本人が「集団授業がいい」と言うならその気持ちを尊重してあげてよいでしょう。コストを抑えられることも、集団授業の魅力のひとつです。
学校とは違ったコミュニティがある、というのもお子さんにとってはとても意義深いことだと思います。
個別指導塾が向いている子は?
個別指導をおすすめするのは、以下のようなニーズや特徴のあるお子さんです。
- 自分から先生に質問がしづらい
- 先生にたくさん質問したい
- 学校のノートをほとんど書かない
- こだわりが強い(わかるまで、解けるまでやり切りたいなど)
- 苦手科目を克服したい、得意科目を伸ばしたいなど、目的がはっきりしている
- 言葉遣いや言葉選びに敏感
- 持ち物の準備片付けや、プリント、手紙などの管理が苦手
など
個別指導の強みは、なんといっても先生の目が集団塾以上に行き届くという点。塾の授業時間を最大限活かすことを考えると、手先の不器用さがある、ノートに書くことが苦手などといったお子さんは、個別指導の方が効率的です。
学校とは違う指導を求めて塾に通う方が多いので、近年は個別指導へのニーズが高まっているようです。
過敏な子は、個別指導がよい??
私たちは、視覚や聴覚、体感覚など、日々さまざまな感覚刺激を受け取り、脳内で処理をしています。特定の感覚刺激が不快を伴うレベルで感じられてしまう状態を、「感覚過敏」といいます。
塾を選ぶ際、感覚の過敏、特に聴覚過敏がある子の場合は配慮が必要です。個別指導のブースの配置次第では、集団の授業を受ける時以上に集中力が妨げられる可能性もあります。
個別ブースは常に、他の先生の声や生徒の声が近くから聞こえる状態です。聴覚過敏のお子さんには多くの音の情報が脳に届いており、そのために集中しづらくなったり、疲れてしまったりします。
対して集団の授業は、閉鎖されたひとつの教室で同じ解説を受けます。先生の声や話す内容がひとつで、耳に入る情報は限定的です。
どちらが集中できるかはケースバイケースです。
お子さんに話を聞き、担当の先生からも情報を共有してもらい、お子さんにとってどのような形が良いのかを相談しましょう。
聴覚過敏とは…
人は知らず知らずのうちに、耳から入ってくる音の刺激を脳の中でボリューム調節しています。目の前で話している相手の声を最大ボリュームで、周囲の物音や人の話し声はボリュームを下げて、といった具合に取捨選択をしているのです。
聴覚過敏とは、耳に入ってくる音のボリューム調節がうまくいかず、すべての音が同じ大きさで聞こえてしまうこと。程度の差こそあれ、こうした聴覚の過敏を持っている人は少なくありません。
HSCの子に適した塾は?
HSC(Highly Sencitive Child)とは、「人一倍敏感な子ども」という意味です。他の人から見たら「そんなの気にしなくてもよいのでは?」と思うようなことを気にしたり、過敏に反応したりしてしまいます。
HSCについて、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
HSCとは?特徴と対策は?敏感で繊細な子どもは5人に1人!
HSCの特徴は、以下の通りです。
プロセスの処理が深い
少しの情報から多くのことを察し、周囲の空気を敏感に察知するちからがあります。先々のことを瞬時に考えてしまうので、不安になったり慎重になったりしやすいのが特徴です。
刺激を強く受けやすい
暑い寒いといった環境の変化に弱く、痛みにも敏感です。音やにおい、肌に触れる感覚にも敏感です。
感情的な反応が強い
他の子が怒られていると自分も怒られているように感じたり、みんなが楽しそうだと驚くほどハイテンションになったりします。ポジティブな感情にもネガティブな感情にも、強く反応します。
微妙な刺激に対する共感と敏感さを持っている
他人の感情のちょっとした変化にとても敏感です。服装や髪型、持ち物を変えたなどにもすぐ気がつきます。
HSCの子は、こういった性質を生まれながらに持っています。集団授業だと負担が大きいことが多いので、個別指導を選ぶことをおすすめします。本人がどうしても集団を希望するならば、クラス人数が5名程度の塾を選ぶようにすると良いでしょう。
塾選び、押さえたいポイント
集団でも個別でも、塾を選ぶ際にぜひ押さえておいていただきたいのが、以下のポイントです。
- 受付窓口の先生や責任者の先生と話をしてみる。
- 教室の中や実際の授業を見せてもらう。
- 体験入塾をさせてもらう。
- 通塾経路や時間帯を確認してみる。
夏期講習や冬期講習を利用すると、一定期間通いながら様子を見ることができるのでおすすめです。
お子さんと一緒に実際に足を運び、感じたことや思ったことを話し合いましょう。
最後に
塾選びの最大のポイントは、「そこに通う本人がどう感じているか」。
そして、状況の変化に応じてアップデートをし続けることを念頭に置いておくことです。
集団になじめないと思っていたお子さんも、成長するにつれて人がたくさんいる中でも落ち着いていられるようになることもあります。そうなれば、個別指導から集団授業に切り替えてもよいでしょう。
集団授業を受けてきたお子さんも「苦手科目だけ集中的にやりたい」となったら個別指導に切り替えてもよいです。集団授業を受けながら1教科は個別指導も併用で受けるなど組み合わせる方法もおすすめです。
一度通うと決めた塾も、合わなければ辞めていいのです。
集団授業か個別指導かは、「そもそも、どうして塾に行こうと思った?」というところに立ち戻ってみると、シンプルに答えが出たりするものですよ。
文:いしづかみほ
大手進学塾の講師を経て、不登校、発達症、虐待とネグレクト、愛着障害等々の教育相談と学習指導、カウンセリングを20年にわたり行ってきた。漫画家。イラストレーター。カウンセラーでセラピスト。
著書「マンガでわかる!発達症との向き合い方」(impress Quick Books)
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