子どもの偏食が激しくて、せっかく作った食事を食べてくれないと悲しいですよね。また、栄養の偏りも気になってしまいます。なぜ食べないのか、その原因は1つではないかもしれません。そして、しつけや説得によって解消・改善されるものでもありません。ここでは、偏食の原因と具体的な対策について、発達を専門とするカウンセラーのいしづかみほさんに聞きました。
カウンセラー:いしづかみほさん
偏食は病ではありません。「そうするには何かわけがある」という視点を持って子どもをよく観察し理解することが、問題を解決する糸口となります。「食べるって楽しい!」と思えるように。この記事が、必要な方の元に届きますように。
食べない子ども、どこから偏食?
偏食とは、「ある特定のメニューしか食べない」または、「ある食材を絶対に食べない」というもの。好き嫌いとの判別は非常に難しいところです。
一般的に、好き嫌いは年齢とともにある程度解消されます。私たちにも「子どもの頃には食べられなかったけれど、成長したら食べられるようになった」という体験がありませんか?これは、偏食ではなく好き嫌いだったということです。
それを偏食と呼ぶか否かの問題はさておき、子どもの食事の様子を見ていて、以下のような点が気になるママも多いのではないでしょうか。
- 野菜を口に入れない
- お肉を食べない
- 白いご飯しか食べない
- お菓子は食べるのに食事をきちんととらない
「栄養はちゃんととれているのかな」「体調不良につながらないのかな」「わがままな子になってしまわないかな」など。どうしても気になってしまいますよね。こうした場合、その状態を解消したいと頭を悩ませるママは、あなただけではないはずです。
偏食の原因と対策
食事の偏りの原因として考えられることは、ひとつではありません。以下のようなことも考えられます。
- 触覚防衛反応
- 味覚や触覚の過敏
- 食器・食具がうまく使えない
- おなかがすいていない
- かみ合わせや発達によるもの
子どもたちの一回一回の食事の様子をよく見ることはもちろんのこと。一日の生活リズムはどうなっているのか、どんなタイミングで何を口にしているのかも観察しましょう。そして、お話ができるお子さんであれば、聞き取りをしてみましょう。
「どうして食べないのかな?」という点にとらわれ過ぎず、お子さんの「好き」を一緒に見つけていくような気持ちで取り組むと良いですね。
触覚防衛反応
自然界には毒や腐敗したものが存在しています。苦みや酸っぱさは、そうした危険物のサインとして私たちの身体に刻み込まれています。
子どもが苦みのある野菜や酸っぱいものを好まないのは、それらを避ける人間本来の原始的な反射のためです。
子どもには、こうした生命維持のための原始的な反射が強く現れがちなのです。苦みや酸っぱさを嫌がるのは、むしろ自然なことととらえましょう。
どうしてもその食材、食べないといけないものですか?
どうしてもその調理法でないといけませんか?
ちょっとひと呼吸して、考えてみましょう。
触覚防衛反応への対策
こうした原始的な反射は「何を食べているのか」ということに意識を向けるよう促すことで、次第に薄れていきます。
原材料は何か、口に入れるとどんな味がするのかなど、食べるものの情報を分かち合いながら食事をすると良いですよ。大人がそれを美味しそうに食べているのを見るという経験も、食に関する情報の蓄積としてとても意味のあることです。
味覚や触覚の過敏
「キャベツを嚙む時に、キュッキュってなるのがイヤだ」というお子さんがいました。「なるほど、キュッキュってなるね!」と、その表現に感心したものです。
つい先日も、「フライドポテト、どこのお店のものが好き?」という話題になりました。
「カリカリに揚がった細めのものがいい」、「少し太めでほくほくのものが好き」、「カリカリよりも、しなっとしているものが好み」、「皮つきは苦手」、「ケチャップはつける派つけない派」など、大人でもこれだけ好みが分かれていたのです。
舌ざわりや歯ざわりといったものは、他の感覚と同様、人それぞれ感じ方が大きく異なるものです。「自分にとって心地よいもの、受け容れられるものであっても、相手にとってそうであるとは限らない」という意識を持ちましょう。
これが、子どもが食べないことの理解への第一歩です。
味覚や触覚過敏への対策
もしもそれを食べて欲しいと思うなら、味付け、切り方、調理法などを工夫してみるのもよいですね。子どもに監督をしてもらい、リクエストに応えながら調理をするのも楽しいかもしれません。
もちろん、一緒にお料理するのもおススメです。子どもが自分の好みの形に切ったり味付けをしたりすれば、それを参考に、ママやパパも子どもたちの味覚を知ることができますね。
食器・食具がうまく使えない
意外な盲点になっているのが、食器や食具を使うのが苦手ということ。
- 子どもが麺類や汁物を食べたがらない。
- スプーンやフォークで食べられるメニューは好んでも、お箸を使う時には食がすすまない。
などは、食器・食具を使うことが苦手というサインかもしれません。
細かいものをつまんだりすくったりして口まで運ぶという動作は、子どもにとっては難しいもの。力の入れ具合を感じ取る感覚である「固有覚」や、物との距離感をつかむための「立体視」がうまくできているかどうかなど、身体の感覚や手指の器用さと関わっています。
食器や食具がうまく使えない場合の対策
道具を使って食事をとるということは、子どもたちにとっては新しいスキルを獲得するということ。焦らず、ゆっくり、鍛えていきましょう。
食器・食具に限らず、生活のいろいろな場面で道具を使います。身体のあちこちをトントンと叩いたり、いろんな感触のものに触れる遊びを日常に取り入れたり。触覚刺激をたくさん入れてあげることも、感覚を鍛える時に有効です。
直接に食事に関わるようには見えないことも、実は深いところでつながっていたりするのです。
おなかがすいていない
空腹は最良の調味料とはいいますが、間食を与えなければ食事をきちんと食べるかというとそうとは限りません。むしろ、一回の食事量の少ない子どもたちには、間食は必要です。その、間食の内容を見直してみましょう。
おやつはおにぎり!というご家庭がありました。幼稚園や学校から帰ってきてすぐ「おなかすいた」 と子どもが言うので、夕飯までのつなぎとして、おにぎりを用意していたそうです。
一日3食、私たちは自分の生活リズムに合わせて食事の時間を設定しているもの。しかしそれは、子どもの「おなかすいた」の時間と必ずしも重なっているわけではないはずです。
おなかがすいていないときの対策
「食事の時間の見直しは難しい」、「家族みんなの予定を考えるとこの時間にするしかない」ということもあるでしょう。
ならばなおのこと、子どもたちが一回の食事でまんべんなく栄養素をとり入れ、好き嫌いなくある程度の量を食べる、ということを期待しすぎないこと。同時に「なんとか食べさせなければ」という気持ちも手放しましょう。
一回一回の食事も大切ですが、子どもたちの食の履歴を、一日単位、一週間単位、半年、一年で見てみましょう。ポイントは、どんな時に「食べた」か、という視点を忘れないことです。
かみ合わせや発達によるもの
少し硬いものや、大きめのものを食べたがらない場合、かみ合わせがうまくいっていないということも考えられます。
さらにADHDなど発達の原因があると、他の刺激に反応して食事に集中できず、食がすすまないという可能性もあります。
一度も口にしたことのない食べ物は絶対に無理、という特性を持つ子どももいます。
また、意外に多いのが「子どもはきっとこういうものが好き」という大人の思い込みに、子どもがはまらないパターンです。ハンバーグ、ラーメン、ポテト、オムライス、コーン、ケチャップ…全ての子どもが好きなわけではないはずです。
かみ合わせや発達への対策
どんなケースも、まずは子どもたちの様子を見て、話を聞くことから原因が見えてくるもの。原因がわかれば対処もできます。
偏食は、しつけや説得で解決できることではありません。その原因をつかみ、解消することによって改善されるものなのです。
食=愛情?食べないときの考え方
子どもの食事について、まんべんなく食べさせたい、栄養バランスが気になる、と考えるのはもっともなことだと思います。
けれど、食べないわが子を前にした時に、言い聞かせたり、怒鳴ったり、食べ物を与えず空腹にしたり、泣きながら言い合いをしたり・・・そこまでして、食の偏りを治さなくてはならないのでしょうか?
ママが子どもの偏食を過度に問題視してしまう原因のひとつ。それは「親にとって食を与えるという行為が、愛情を与えることと密接に結びついている」ということです。これが過剰になると、「食の拒絶」=「愛情の拒絶」として、大人の側の自己批判、自己攻撃の元となってしまうケースも。それがゆくゆく、子どもへの非難のはじまりへとつながることもあるのです。
子どもが食べたかどうか、食事の内容が気になるあまり、食卓の雰囲気が最悪になっていた!なんてことはありませんか?わが家は、ありましたよ。
食への意欲をかき立てる要素のひとつに、楽しい食卓、安心する食卓、という項目を入れてみませんか?そのためにできることは何なのか、考えてみるのです。
偏食に関しては、子どもたちが健康に元気に毎日を過ごせるように!とがんばるママほど、苦しくなったり悩んだりしてしまいがち。
ママは、がんばる自分をいったん休ませてあげましょう。そして、子ども自身に備わっている、健康であろうとする力、成長する力を信じましょう。変化しない子どもはいないのです。
最後に
そもそも好き嫌いや偏ることって、なぜダメなのでしょうか。好きなものもあり、嫌いなものもある。その中間に位置しているものなんて、さらにたくさんありますよね。
そして、その好き嫌いは人によって違うものですし、親子だからといって同じとは限らないもの。
ただし、その偏りが著しい場合、健康を害したり人間関係を難しくしたりすることがあるので、適切な対処が必要となります。
極端な偏食で悩んでいる場合には、地域の子育て相談窓口や保健センター、発達療育センターなどに話を聞いてもらうことをおすすめします。
大事なのは「ひとりで悩まない」ということです。
文:いしづかみほ
大手進学塾の講師を経て、不登校、発達症、虐待とネグレクト、愛着障害等々の教育相談と学習指導、カウンセリングを20年にわたり行ってきた。漫画家。イラストレーター。カウンセラーでセラピスト。
著書「マンガでわかる!発達症との向き合い方」(impress Quick Books)
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