子どもの人見知りは成長の証。実際のところその通りなのですが、人見知りがあまりにも激しいと、お出かけしづらい、家に人を呼びづらい、実家に行くのもちょっと気を遣う、といったことになりがちですよね。
そこで、今回は子どもの人見知りの原因と時期、ママやパパができる対処法について発達の専門家が解説します。
カウンセラー:いしづかみほさん
人見知りするにはそれ相応の理由があります。相手への配慮を優先する前に、子どもの気持ちを第一に、対応してあげてください。私たち大人も、初めて会う人や久しぶりに会う人に対して緊張感を抱きますよね。人見知りは、素直に自覚した方がよいですし、正直に表現してもよいのでは、と考えています。
人見知りとは?その原因は?
子どもの人見知りは、
- 記憶や識別能力、視力の発達
- 愛着形成
という、2つの面での成長とともにあらわれます。
原因1:記憶や識別能力、視力の発達
子どもは成長とともに、ママの顔やにおい、抱っこされた時の感覚などを記憶していきます。そして、記憶にない人を識別できるようになります。
そうすると、記憶にない人を見知らぬ人と判断し、ママから離れるのを嫌がったり安心・安全を求めて泣き出したりするのです。
また、これまでぼんやりとしていた世界が、視力の発達によりはっきりと見えてきます。顔の識別はもちろんのこと、表情も見分けることができるようになり、笑顔の時とこわばった表情の時とで人の感情が違う、ということも理解し始めます。
原因2:愛着形成
愛着(アタッチメント)理論という言葉をご存知でしょうか?
母子間の生物学的結びつきが情緒の結びつき(=愛着)に発展するという理論です。
子どもが「おなかがへった」「おむつが汚れた」「抱っこして」などの不快や不安を訴え、それに養育者(主にママ)が応えることによって、不安が解消され安心や安全が確保される。この繰り返しが、情緒の結びつきになります。
「この人は困った時に助けてくれる!」という外界に対する信頼と、「こうすればこの人は助けてくれる!」という自分自身についての万能感を得る。これが、愛着形成の基盤です。
この愛着は、まずは主に子どものお世話をすることになるママとの間に形成されます。
ママは、子どもの不快感や不安感を解消するために応答し、安全を守るために環境を整えます。これを繰り返すことで、ママは子どもにとっての安全基地となっていきます。
しっかりとした安全基地が出来上がると、子どもは、身近な家族や親族、よく会う人たちとの間に次の愛着を形成。その輪が広がっていく段階で、人見知りは起こります。
知らない人やあまり面識のない人に会って不安になっても、安全基地であるママがいるから大丈夫。怖くて泣いてしまっても、ママという安全基地にいったん戻り安心を確保してからまた、トライをすればいい。これを繰り返し、初めて会う人にも、必要以上に警戒しなくても大丈夫ということを知っていくのです。
人見知りの時期は、ママという安全基地を基点に、ママ以外・家族以外の人たちとの愛着の形成にトライしている時期。子どもたちが、人との親密度や距離感を体得している時期だと理解していきましょう。
ひどい時期は、いつからいつまで?
一般に、人見知りが始まるのは生後6ヵ月くらいからです。ただし、これは相当に個人差のあるもの。生後2ヵ月くらいから始まる子もいれば、2歳が過ぎる頃に始まる子もいます。人見知りのない子もいます。
認知や感覚の個人差だけでなく、家族構成や家庭環境といった外的要素、本人の気質といったものも関わってくるので、個人差はあって当然。いつからいつまで?ということを気にし過ぎず、子どもの状態を見て、その都度対応をしていってあげることが重要です。
ほとんどの子どもが、2歳前後には人見知りが落ち着くと言われます。
理由のひとつは、子どもが、人と出会う体験を繰り返し、「初めて出会う人でも大丈夫、安心」という体験をある程度積み重ねるため。
もうひとつは、子どもの言語能力が発達し、大人の側も、突然抱っこしたり撫でたりせず、言葉でのコミュニケーションをとることが多くなってくるためです。
感覚過敏やHSCということも
人見知りのような反応を見せているけれど、原因がまったく違うところにある場合もあります。それが、感覚過敏やHSC(Highly Sensitive Child)の子どもです。
HSCについては、HSCとは?特徴と対策は?敏感で繊細な子どもは5人に1人!の記事を参考にしてみてください。
感覚過敏とは、音や光、匂い触れるものや温度など、周りから入ってくる刺激を人一倍キャッチしやすく敏感なこと。生活をする上で困難を感じやすくなる傾向があります。
感覚が過敏な子どもの中でも特に、触覚(肌に触れる感覚)の過敏を持っている子は、触れる布の質の違いや、抱っこされるときの圧力、触られる手の感触や体温がママと違うことなどが、不快の原因になっている可能性も。
揺れることに不安を感じる「重力不安」のある子どもは、そもそも抱き上げられること自体に慣れることが難しいことも。慣れない姿勢を嫌がる「姿勢不安」の子どもは、「いつもの抱っこのされ方」じゃないダメ、といった具合です。
感覚過敏は、がまんや根性論でどうにかなるものではありません。子どもに不快で苦しい体験を積み重ねさせてしまう前に、周囲の大人に理解を求めましょう。本人の受け入れやすい方法で親密なコミュニケーションができるよう工夫できるとよいですね。
具体的な方法としては、触れる布の質が原因であれば、普段使っているおくるみやタオルでくるんで抱っこしてあげる、重力不安があるなら立って抱っこせずに座った状態でする、などです。
人見知りの子に親ができること
人見知りは成長の証、と思っていても心がざわついてしまう。なんとか泣き止ませたくなる。子どもの笑顔を見るために、あやしたりくすぐったりしてしまう。そうした衝動は、多くの方が感じられるものではないでしょうか。
私自身の体験で、友人が出産のお祝いに来てくれた時のことです。生後2ヶ月だった息子は友人に抱っこされると眉間にしわを寄せました。「ねえ、不愉快そうな顔をしているよ?」と、抱っこした彼女は笑いながら言ってくれましたが、ちょっと申し訳ないような気持ちになりました。
一方で、何ヶ月になっても人見知りをしない子どもに出会ったことがあります。どこに行っても、誰に会ってもだいたいご機嫌でニコニコ。周囲の大人たちに「いい子ね」「人見知りしないのね」と声をかけられていたその子どもとママを見て、「楽そうで良さそう」と、漠然とうらやましく思ったこともありました。
この2つの体験を通して気づいたのは、「人と会ったら笑顔」「にこやかな対応が望ましい」など、そう言って育てられて形作られた自分自身の固定観念があるということ。「人見知りは改善しなくてはならないもの」とする、ひとつの要因になっていたということです。
また、親としてしつけができていないと思われたくないという気持ちもあったように思います。
しかし、大切なのは「子どもはどう感じているか」という視点を忘れないこと。
「相手はどう感じているか」「相手からどう見られるか」ということを気にするのと同じくらいか、それ以上の熱量で、「わが子はどう感じているか」「わが子にはどう見えるのか」を気にかけてみましょう。
自分自身の内面よりも、他者への配慮を優先しがちな方は要注意。それを、わが子にまで強要しないようにしましょう。
子どもには子どものペースがあります。自分にも自分のペースがあります。
良好な関係を築きたいという気持ちは大切ですが、そのために自分の気持ちや子どもの気持ちをおざなりにしないようにしましょう。
親自身がリラックスすることも大切
子どもが大人の緊張感を敏感に察知していることもあります。そんな時には、「人見知りしたらどうしよう」「笑ってくれないかな」といった考えをいったん横に置きましょう。まずは大人同士がリラックスしてコミュニケーションをとることに注力します。
大人同士の楽な様子、穏やかな空気感を、子どもたちはちゃんとキャッチするものです。ママやパパが笑顔で話していると、「この人はママやパパが笑顔で話す安全な相手なんだ」と、子どもも理解します。
親子で体験を増やす
また、知らない人と出会う機会や、家族以外の人と会ったり行動したりする機会を増やすことで、体験の蓄積をすることもおすすめです。
出かけた先で大号泣ということが続くと、出かけること自体に抵抗が出てきますよね。そんな時は、近場から。近所の散歩からでもよいでしょう。
子どもにとって、自分自身にとって、無理のないように、新しい人や新しい場所との出会いの体験を積み重ねていけるとよいですね。
親が理解や配慮を求める
子どもが泣いているのに、相手に気を遣って人見知りしている子を抱っこさせたままにするのは、よいことではありません。
よくあるのが、「慣れない相手でもずっと抱っこしていればいつか泣き止む、慣れる」と考え、子どもが壮絶に泣いているのに抱っこさせたまま、という話。これは本当にやめてください。抱っこされる子どももですが、抱っこする側の大人の愛着も傷つきます。どうして相手に抱っこしてもらわなくてはならない状況を除いては、無理をしないことが大切です。
まずは、人見知りの時期であることを相手に伝えましょう。すべての人が人見知りについて詳しく知っているわけではありません。しつけが足りないわけでもなく、性格に問題があるわけでもないということを理解してもらいます。感覚過敏があるならば、それについても伝えましょう。
わかってくれる人が周囲に増えると、ママやパパの気持ちも楽になります。
我慢よりも、工夫や努力をしていきましょう。
注意する点
人見知りが激しい子への対応として、注意していただきたい点がひとつだけあります。
人見知りと言っても、以下のような子どもの状態が見られる時には、一度専門の機関に相談にいかれることをおすすめします。
- 表情が乏しく、感情の起伏がないように感じられる
- ママやパパとも目線を合わせない
- 名前を呼んでも反応がない
このような場合は、地域の発達センターやかかりつけのお医者さんなどに相談してください。
最後に
「いつも笑顔で、どんな人とでも最初から仲良く」というゴールを設定しがちな私たち。けれど、安全基地が盤石であれば、自然と子どもは次の島へと旅をするものです。そしてその始まりは、順風満帆でなくても大丈夫です。そうした結果、仲良くできる相手もいれば、できない相手もいる。それって、自然なことですよね。
人見知りはそもそも、人の身体に組み込まれた防衛本能。体験の蓄積と愛着の形成があれば、自然とおさまってゆくものです。良いとか悪いとか考えすぎずに、「ああ、今はそういう時なのだな」と、子どもの状態を見守ってあげてください。
文:いしづかみほ
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