2歳前後になるとトイレトレーニングを始める子が増えてきますよね。トイレトレーニングはいつから始めるのがよいのでしょうか。また、時期が来ても子供が嫌がって進めないことも多いもの。
トイレトレーニングを始める時期や進め方について。また、子供が嫌がる時の対処法を、発達を専門とするカウンセラーのいしづかみほさんに聞きました。
カウンセラー:いしづかみほさん
私の母は弟の夜のおむつ外しについて「本人から何か言ってくるまでしない」と決めていたそう。そして、「おむつが外れていないとは思えないほど、口は達者」と言われていた弟は、5歳の誕生日を迎えたある日、母に言いました。「お母さん、もう大丈夫なのでおむつを外してください」と。このくらいのんびりと構えることができたなら、気持ちとしては楽かもしれませんが、なかなかそうはいかないのも現実です。ここではトイレトレーニングについて、感覚統合(※)と心の発達の面からお話させていただきます。
※「感覚統合」については、落ち着きがない子供の原因と対応!性格もしつけも関係ない?の記事を参考にしてみてください。
トイレトレーニングはいつから?
一般的には、おおむね2歳前後には尿意を自覚できるようになってきます。
その頃がトイレトレーニングを始めるのに適した時期と言えるでしょう。
トイレトレーニングを始める時期を決めるポイントは、本人が「尿意」を感じられているかどうかということ。尿意とはつまり、「おしっこがたまった」という膀胱の感覚です。(ちなみに便意は直腸の感覚です)
トレーニングを始める前に、お子さんの排尿の間隔を観察しましょう。
- 排尿間隔が90~120分
- 排尿リズムがわりと一定
という二つの条件をクリアしたら、内臓的にはトイレトレーニングを始める準備ができている、ということ。トイレに誘ってみましょう!
膀胱にためられる尿の量は、成長に応じて発達します。
排尿の感覚が90~120分に延びてきた頃が、おむつを外すタイミングです。
なかなか時間があかない場合には、決まった時間に寝て起きるといった生活リズムを整えるところから見直してみてください。
「おしっこしたい感じする?」「おしっこが出る感じする?」という問いかけに、子供たちが「うん」と言えた時が始め時なのです。
だた、これには個人差がありますので注意が必要です。
「おしっこがしたい感じ」というのがどういう感覚なのかがまだわからない、ということも考えられます。その場合には、おしっこがしたい感じがあるかという問いに「うん」と答えられなくても、トイレに誘ってみましょう。おしっこをしてみて初めて、「これが、ママが言っている『おしっこをしたい感じ』なのか!」と、子供自身が体験を通して理解できるようになるのです。
トイトレを嫌がるのはなぜ?
「そろそろ始め時かな…」と思ってトイレに連れて行っても、嫌がって座ってくれないこともよくありますよね。
子どもがトイレを嫌がるのには、いくつかの理由があります。
【子どもがトイレを嫌がる理由】
- 座った感触が嫌だ
- うまく座れず失敗してしまう
- トイレの空間に慣れない
嫌がる理由①~触覚防衛反応
便座の感触がいやだ、というお子さんがいました。
太ももやひざ裏に、ぺとっとくっつく感触が気持ち悪いのだそうです。
触覚が過敏な子供たちにとっては、本人が受け容れられるような皮膚感覚の便座カバーを使うなどして対応してあげましょう。
こうした皮膚に触れたものに対する原始的な反応を、触覚防衛反応といいます。
触覚の原始的な反応は主に二つあり、ひとつは触れたものを体内に取り込む「取り込み行動」。もうひとつは触れたものが有害なものである場合に起きる「防衛行動」です。
触れたものが不快で、どうにも受け容れることが難しいという時には、原始系の回路が優位にはたらいている状態と言えます。
原始系の回路は、「これはなんだろう」「どうしてこうなるのだろう」と考え情報を処理する識別系の回路が発達するにつれてブレーキがかかるようになります。
皮膚感覚に過敏な子供には、識別系の回路を育てるアプローチが有効です。
具体的には、おむつ替えの時に、お尻や太もも、ひざ裏や足の先までをさするなど、ボディタッチを存分にしておきましょう。また「おむつをかえるよ」「ズボンを脱がせるよ」と、声をかけることも、とても大切です。
これから自分に何が起こるのか、ということを認識することは、識別系の回路のスイッチを入れる重要なポイントなのです。
嫌がる理由②~重力不安
前庭覚(平衡感覚)系のつまずきから重力不安があり、姿勢がうまくとれないため、おしっこをする時に失敗しがち、というお子さんもいます。
姿勢が定まらないのでどうしてもそちらに意識がひっぱられ、うっかりトイレの周りや衣服を汚してしまうのです。
重力不安が原因でありながら、不注意や不器用が原因の不成功体験と、大人も本人も感じてしまうパターンです。
重力不安は、トイトレグッズを整えることや前庭覚(平衡感覚)を鍛えることで解消できます。
準備するトイトレグッズや前庭覚(平衡感覚)の鍛え方は、後ほどご紹介します。
嫌がる理由③~感覚過敏
「トイレが暗くて怖い」
「狭い空間が苦手」
「においがいやだ」
こうした理由でトイレにどうもなじめない…という子供もいます。
その場合には、
- 環境を変える工夫をする
- 扉を開けておいてあげる
- 清潔を保ち、消臭剤やアロマを使ってにおい対策をする
などの環境に対する配慮をしてあげましょう。
感覚過敏をなんとか克服し、自宅のトイレには入れるようになっても、不慣れな場所ではいやだということもあるでしょう。自宅にいる時のリラックスした感じを思い出せるにおい袋や人形を持たせたり、トイレの時に歌う歌を一緒に歌ったりと、工夫をしてあげるとよいですね。
トイトレを進めるには、まず準備
嫌がる子供を、無理にトイレに連れて行ってもトイトレは成功しないかもしれません。
トイトレを始める前に、子供が嫌がる原因を少しでも取り除いてあげましょう。
トイトレグッズを揃える
さて、トレーニングを始める前に揃えておきたいのが、
- 子供用便座(足が浮いている状態が不安な子は、つかまる取っ手の付いているものがおすすめ)
- 踏み台
です。
便座に乗るのもひと苦労、座ってからも不安定、では、排尿をするという行為以外にも気をつけなくてはならないことが多く大変です。
トイトレを始める前に、この2つはぜひ準備してあげたいところです。
トイレは子供にとってあまりなじみのない場所。
お気に入りの色、お気に入りのキャラクターのものを取り入れてあげるなど、工夫をしてあげると良いでしょう。
触覚過敏の子供の場合には、素材選びにも配慮して選んであげましょう。
後ほど詳しく解説します。
さて、準備万端で、子供の排尿間隔も適度にあいてリズムも一定。
でも、いくら誘ってもトイレに行ってくれない、もしくはトイレを嫌がるといったことがあった場合は、どうしたらよいのでしょうか。
ここで大切なのは、「無理強いしない」ということ。トイレに行きたがらないとしたら、そこには必ず、なんらかの理由があるのです。
触覚や前庭覚(平衡感覚)を鍛える
直接関係ないように思えても、前述のように、触覚や前庭覚(平衡感覚)が、トイレトレーニングがうまく進まない原因になっていることがあります。
トイトレに必要な触覚や前庭覚を鍛える遊びをいくつか紹介しますので、ぜひ日常に取り入れてください。
手のひらやひじなどにタッチ
まずは、お子さんの手の平やひじ、足の先やひざ、ひざ裏をそっと触ったり、しっかりと触ったり、指の先でつんつんとつついたりしてみましょう。
ポイントは、
- 声をかけてから
- 目に見える範囲を触る
ということ。
「なにをしているのかな?」と声をかけ、耳で聴き、目で見ることで、識別系のスイッチをオンにすることができます。
大人の側からだけでなく、子供がする側になって交代で、楽しみながらやってみましょう。おなかをさする、くすぐりごっこなども、触覚を鍛えるのに良い遊びです。
指で絵を描く、水を触る
指で直に絵の具を塗る(フィンガーペイント)、砂に絵を描く、粘土や水を触ることもおすすめです。
硬い、やわらかい、冷たい、温かい、滑らか、ざらつく、などなど、たくさんの感触を味わい楽しむ機会を作っていただければと思います。
身体をダイナミックに揺らす遊び
次に、重力不安には、前庭覚を鍛える遊びを。
大人の膝の上に子供を乗せてガタガタ揺らしてあげたり、飛行機(大人が仰向けに寝転び、天井に向けた足の上に子供を乗せてあげる)のかっこうをしたり、お布団の上をゴロゴロと転がったり。トランポリンやバランスボールを使った遊びも有効です。
心の発達にも配慮を
エリクソン(1902-1994)という、発達心理学者・精神分析家がいます。
彼が提唱した「心理社会的発達理論」では、発達段階が8つに分けられており、成長・健康に向かうプラスの力が、退行・病理に向かうマイナスの力を上回ると、活力(徳)が得られると言われています。
1歳半~3歳は、プラスの力である「自律性」と、マイナスの力である「恥・疑惑」のふたつの力が拮抗している時期。
そして、プラスの力がマイナスの力を上回ると、「意思・意欲」を得られ、次の発達段階に進むそうです。
トイレトレーニングはまさにこの時期のプロセス。
大切にしたいのは、「自分はできている」「できるようになるプロセスを積んでいる」という「自律性」のプラスの力。失敗した時に叱られたり責められたりすることが続くと、「失敗することは恥ずかしいことだ」「自分は大丈夫なのだろうか」という「恥・疑惑」のマイナスの力が上回ることにつながってしまいます。
「失敗はダメなことや責められることではない。自分が新しいスキルを手に入れるために起きている出来事にすぎない」という感覚を大切に。こうしたひとつひとつの体験から、活力(徳)である「意思・意欲」を身につけられたら素晴らしいと思います。
最後に
トイレトレーニングについては、
本人の準備ができているか
が、大前提であるということ。
そして、
- 責めない
- 無理強いしない
- 本人の受け容れられる範囲でする
というルールを、大人の側が守ること。
大人の側の都合でトレーニングを始めるならばなおのこと、たくさんの配慮と工夫をする心づもりで取り組んでください。
触覚や前庭覚を鍛える遊びをともに楽しみながら、ゆるやかに進めていきましょう。
文:いしづかみほ
大手進学塾の講師を経て、不登校、発達症、虐待とネグレクト、愛着障害等々の教育相談と学習指導、カウンセリングを20年にわたり行ってきた。漫画家。イラストレーター。カウンセラーでセラピスト。
著書「マンガでわかる!発達症との向き合い方」(impress Quick Books)
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