「弱さ」の先にある本物の「強さ」とは

「弱さ」の先にある本物の「強さ」とは

以前に、あるTV番組で、「弱いロボット」が特集されていました。高性能なロボットがもてはやされ、強いこと賢いことが良いとされがち中で、現れた「弱いロボット」。これは、私たちにたくさんのメッセージを与えてくれているように思います。

筆者:山下由修

  • 静岡市内小・中学校で勤務 、清水江尻小学校校長として、県内初のコミュニテイ・スクールの創設・運営
  • 大里中学校校長として、フレックス制勤務体制の確立、校内フリースクールの開設、プロジェクト型校内組織運営に着手
  • 2019一般社団法人シヅクリを創設、静岡を人材育成に奔走中

一般社団法人シヅクリ
『シヅクリ』という名前は、「子」ども成長、教「師」・大人に成長、高い「志」、「静」岡の未来に尽力したいという思いを込めています。
シヅクリプロジェクトに関わる全ての子どもたちや先生方、地域の方々が、自分の本当に大切にしたいことを真ん中に置いて、皆で地域の未来を創造することを目指しています。

「弱いロボット」って知ってる?

TVの特集番組で取り上げられていた「弱いロボット」は、白く小さな体をゆらゆらさせながら、たどたどしく読み聞かせをしてくれます。

TVの特集番組で取り上げられていた「弱いロボット」は、白く小さな体をゆらゆらさせながら、たどたどしく読み聞かせをしてくれます。
「むかしむかしあるところにね、
おじいさんとおばあさんがすんでいたんだよ。
おばあさんが川でせんたくをしていると?
えーと、なにがながれてきたんだっけ?」
アナウンサーは身を乗り出すようにして、ロボットを見つめて話しかけます。
「桃だよ、桃…」
「あっ!そうだった、桃だった」
と、ロボットは嬉しそうにつぶやきます。
これは、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授らが開発した「トーキング・ボーンズ」という、つい助けてあげたくなる「弱いロボット」です。
岡田教授はこのように解説していました。
「子どもたちは、このロボットに出会うと、とても生き生きとした表情を見せてくれます。お話を忘れてしまったロボットを一生懸命助けてあげようとします。ポンコツなところが、子どもの強みや工夫、優しさを引きすんです。これが完全無欠なロボットだったら、子どもたちはあまりかかわろうとしないでしょう」と。

その他にも、自分ではゴミを拾えないけれど、まわりの子どもたちの手助けを上手に引き出しながら結果としてゴミを拾い集めてしまうロボットが紹介されていました。
岡田教授は、「ロボットから『ゴミを見つけました。そのゴミを拾ってください』と言われると少しカチンとくるでしょう? しかし、ロボットがゴミを見つけて、モジモジと拾ってほしそうにしていたら拾ってあげたくなります。行動経済学では、“ナッジ(Nudge)”という用語が使われ、ヒジで軽く小突いて行動を促す動作のことを言います。
言葉であれこれ指示するよりも、無言で行動のきっかけを作った方が人は動くようです。」と紹介していました。

孫と父と妻 誰との会話が楽しい?

孫は3歳、話ができるようになり、たくさんおしゃべりするのですが、伝えたいことが言葉の数を追い越してしまいます。
父は91歳、伝えたいことが言葉にならず、笑顔とともに会話がしぼんでしまいます。

私は懸命に、孫の言いたいことを類推します。言いよどむ孫の言葉を、前後の行動から読み取ろうと集中します。それによって「もっと遊びたいんだな」などと、その真意を探ります。

私は頭をフル回転させて、父の伝えたいストーリーを組み立てます。物忘れした父の言葉を過去の出来事と結びつけて解釈してみます。「昔の壇上での演説が蘇っているんだろうなあ」などとつながりを考えます。

孫や父との会話は、こちらの受け止め方が問われます。問うことによって考え、問われることによってたくさんの発見があります。
言葉一つ一つが大きな意味を持ち、解釈次第で内容がまったく変わってくるのです。丁寧に会話の余白を埋めていくことで、通じ合った感覚がなんとも嬉しいのです。

大きな声では言えませんが、完全無欠で過不足のない妻の言葉は右から左に抜けていきます。「今すぐに片づけしなさいと言いたいんだろうなあ」と、伝えたいことがすぐに浮かんでしまうのです。
私たちは会話をするとき、やりとりの中で相手の反応を引き出し、必要に応じて言葉を補うといったコミュニケーションの取り方をしています。それによって話の焦点を絞って共感に至っていくのがコミュニケーションの成り立ち方ともいえるでしょう。
そう考えると、最初から意味が完全に決まった言葉を投げられると受け取る方は一方的に命令されたような気持ちになるのかもしれません。
弱いロボットや孫や父のように未熟さや不完全さの中にこそ、創造な対話が成立しやすいということも言えます。
相手に助けを求めたり、お互いが確認したりしながら、一緒に会話を生み出していくようなやり取りは、楽しく、とても豊かな時間に思えます。

弱さを強さにしたホモサピエンス

250~200万年前のアフリカで類人より脳が大型化したホモ属が出現しました。自然の驚異や肉食動物の危険を回避するため、強い力や優れた運動能力を獲得した種、鋭い歯や爪を携えたり、硬い皮膚や再生能力を磨いたりした種もありました。
しかし、私たちの祖先であるホモ・サピエンス以外のホモ族は絶滅してしまいます。
では、ホモ・サビエンスの繁栄をもたらしたのは何でしょうか。
その要因は、「弱さ」を受け入れたことだと思われます。ホモ・サピエンスは「弱さ」を補うために、創意工夫を繰り返し、発見や発明を次世代に継承していく進化の道を選んだのです。
社会を形成し、互いの「弱さ」を補い合いながら、言葉をはじめとする優れたコミュニケーション能力を身に着けていくのです。
つまり、人類の進化は、「弱さ」から生まれているということになります。

完全無欠な人などいません。皆どこかに傷を持ち、弱さを持って生きています。そんな自分の「弱さ」に向き合い、一歩進んだとき、大切な支えがあること、大事な人に囲まれていることに気付きます。
苦しみと向き合う力、前を向いて生きていく力、希望、そうしたものは、弱さの中で見つかり、「弱さを認めること」から「本当の強さ」が生まれ出てくるのかもしれません。

孫が大の字になってお昼寝しています。ずっと見ていても飽きない寝顔です。

孫が大の字になってお昼寝しています。ずっと見ていても飽きない寝顔です。
父が新聞片手に居眠りをしています。その当たり前の風景がやすらぎを与えてくれます。
ただそこにいるだけでいい。ただそれだけで嬉しいのです。
孫が別れ際に「また、あそぼうね」と手を振ります。
明るい光が差し込む日の出を見ているような気分になります。「またね」と手を振り返します。
父が食事の後で「お前がいると楽しいよ」とつぶやきます。
紅色に染まる夕日を思い出します。「ありがとう」と心の中で返します。
かけがえのない人の「弱さ」に寄り添いながら、自分の「弱さ」に足を止めてみる、そんな日常の先に、温かな日差しが降り注ぐのかもしれません。

文:山下由修

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