呼吸をすると、ゼイゼイ、ヒューヒューと音がする。子供が大きくなっていく過程で、1度は聞くことがあると思います。こういった異常な音を喘鳴(ぜんめい)と呼び、病院を受診した方が良いのか迷う人もいるかもしれません。
喘鳴には大きく分けて、息を吸う時に出る「吸気性喘鳴(きゅうきせいぜんめい)」と、息を吐く時に出る「呼気性喘鳴(こきせいぜんめい)」、そして、のどに原因がある「咽頭喘鳴(いんとうぜんめい)」の3つに分けられ、緊急性のあるものとないものがあります。ここでは、喘鳴の種類と原因、注意したいポイントを解説していきます。
息を吸う時に聞こえる喘鳴
息を吸う時の喘鳴を「吸気性喘鳴」と言います。息を吸う際、声帯周辺から気管までのどこかに、空気の通り道が狭くなる場所が出来ることで起こります。
狭くなっている部分を空気が通過する時に速度が増し、その周囲の組織が振動して、ゼイゼイ、ヒューヒューと音がします。主な原因として、クループ症候群や気道異物、血管腫、血管輪などがあります。それぞれについて、解説します。
クループ症候群
主にウィルス感染が原因で声帯の近くにある「喉頭(こうとう)」に炎症が起こり、ゼイゼイとした呼吸になります。声がかすれることもあります。
重症化すると、気道が閉塞して窒息する可能性もあるため、注意が必要です。オットセイの鳴き声のような特徴的な咳が出るため、診察室の外からそのような咳が聞こえると、優先的に診察しています。
通常、夜間や早朝に症状が悪化するケースが多いです。私の娘も4、5歳の頃に数回、クループ症候群にかかったことがありますが、ゼイゼイという呼吸音で気付くことが出来ました。
血管腫
本来幅広く伸びていくはずの血管が変化し、異常な塊をつくってしまう病気です。血管腫が気道内に出来ると気道が狭くなり、息を吸う時にゼイゼイという音が出ます。
以前、私が診断した子の中には、救急外来で喘息性気管支炎と診断されていたケースもありました。改めて保護者に話を聞いてみると、生まれた直後からゼイゼイという音が続いているとのこと。医師の側に思い込みがあると、きちんと診断されないことがあります。
血管輪
大動脈弓(だいどうみゃくきゅう)や、そこから枝分かれした動脈が気管や食道を取り囲み、それらを圧迫して狭くなることで、喘鳴が現れたり、飲み込みづらくなったりする病気です。新生児期から乳幼児期までに生じることが多いです。
私が研修医だった頃、突然亡くなった赤ちゃんがいました。亡くなった後にCT画像を放射線科の医師が見返したところ、血管輪だったことが分かった事例もありました。
気道異物
子供が誤って物を吸い込んだり、飲み込んだりして、気道を塞いで喘鳴を引き起こすことがあります。0~3歳では、主にピーナッツや節分の豆など、ナッツ・豆類といった食べ物に注意が必要です。ほかにも、グミやキャンディ、リンゴやブドウなどの果物、野菜など、口に入るサイズのものは何でも事故の原因になります。
4歳以降では、歯の詰め物や小さなおもちゃ(ビー玉、プラモデル部品)など、食べ物以外の原因も多く報告されています。シールがのどに引っかかり、喘鳴の原因になったケースもありました。
異物が完全に気道を閉塞してしまうと、窒息の恐れだけでなく、脳に重篤な障害を残すこともあるため、注意が必要です。
息を吐く時に聞こえる喘鳴
息を吐く時に聞こえる喘鳴を「呼気性喘鳴」と言います。ウィルス感染やアレルギーなどにより、気管支・細気管支が炎症を起こして細くなることがあります。
そうすると、息を吐く時に空気が狭い部分を通過し、ゼイゼイ、ヒューヒューといった音が出ます。主な原因には、次のようなものがあります。
急性気管支炎、急性細気管支炎、急性気管支肺炎
RSウィルス、ヒトメタニューモウィルスなどのウィルス感染が原因となって発症します。RSウィルスについては、乳幼児の突然死の原因となることもあり、注意が必要です。
気管支喘息、喘息性気管支炎
ウィルス感染だけでなく、ホコリやタバコの煙などが原因で発作を起こすこともあります。
気管支異物
ナッツや豆などが誤って気管に入り、気管支まで落ち込んでしまうと、呼気性喘鳴の原因になります。
鼻やのどに原因がある喘鳴
鼻やのどに原因がある喘鳴を「咽頭喘鳴」と言います。鼻水がのどに流れ込んだり、痰がのどに絡んだりして、呼吸の時にゼロゼロといった音がするようになります。
この場合は、特に緊急性はありません。赤ちゃんは痰を吐き出すのが下手なので、胃の中にある食べ物と一緒に痰を吐き出すことで、症状がおさまるケースもあります。
RSウィルス感染症に注意
呼気性喘鳴の原因であるRSウィルスは感染力が強く、保育所などで発生すると一気に感染が広がっていきます。
大人がかかった場合は鼻かぜ程度で済んでしまうのですが、早産児や慢性肺疾患、先天性心疾患を持った子が感染すると重症化するケースがあるため、注意が必要です。以前は冬場に流行するとされていましたが、今は夏場でも流行しています。
そして最近、このRSウィルスによる不整脈が、乳幼児の突然死の原因となることが分かってきました。さらに、この不整脈による突然死は、RSウィルス感染の症状の重症度とは関係ありません。
子供のゼイゼイ、ヒューヒューといった呼吸音、喘鳴に対して正しい知識を身につけて、注意していきましょう。
文:十河剛

筆者:十河剛 (そごうつよし)
済生会横浜市東部病院小児肝臟消化器科部長。小児科専門医・指導医、肝臓専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
診療を続けていく中で、“コーチング”と“神経言語プログラミング(NLP)”と出会い、2020年3月米国 NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年全米NLP協会公認NLPトレーナーとなる。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。
「子供の一番星を輝かせる父親実践塾」Voicyにて毎朝6時から放送中。
動画セミナー『子供の天才性をハグくむ叱らなくても子供が勝手に動く究極の親子コミュニケーション術』