もし小・中学校で不登校になったとしたら、卒業後、どんな道を選べばいいのか――。親子で卒業後の進路に頭を悩ませることも多いでしょう。全日制はもちろん、定時制や通信制などの高校への進学を選ぶ人もいれば、専門学校などへの進学を検討したり、就職を考えたりする人もいると思います。
実は、不登校生徒の卒業後の選択肢の1つとして、夜間中学があります。2025年春、名古屋市中村区に開校した夜間中学・名古屋市立なごやか中学校とはどんな場所なのか、11月上旬、取材に訪れました。
夜間中学ってどんなところ?
夜間中学とは、さまざまな理由で義務教育を修了できなかった、もしくは十分に学校に通えなかった人が、無償(※1)で義務教育レベルの内容を学べる学校です。不登校などの事情で学校に通えなかった人や、外国籍で本国での義務教育を受けていない人など、国籍を問わず義務教育の年齢(満15歳以上)を過ぎた人を対象(※2)としています。もちろん、すでに社会に出て、働いている人も大歓迎です。

2025年4月、名古屋市は夜間中学である名古屋市立なごやか中学校を笹島小学校・中学校内に設置しました。現在、月~金の週5日、17時30分~21時まで、40分×4コマの授業を行っています。途中に給食の時間もあります。
どんなことが学べるの?
授業内容は基本的には昼間の中学校と同じです。ただし、生徒がより理解しやすいように、カリキュラムに工夫がなされています。例えば、生徒の学習レベルに合わせ、国語・数学・英語は「スタンダードコース」と「ベーシックコース」に分かれて学びます。取材時にも、苦手な教科は小学校で習う基礎的な内容までさかのぼって指導するなど、個々のレベルに合わせてサポートしている様子が見られました。

また、外国籍や外国にルーツをもつ生徒など、日本語があまり得意でない場合は、授業前や授業の時間を使って、日本語を学ぶこともできます。また、タブレット端末が1人1台配布されており、翻訳ツールの使用も可能です。
さまざまな学校行事も積極的に行っています。2025年度はレクリエーション大会や運動会、日帰りの修学旅行や校外学習なども実施されました。取材時は、ちょうど修学旅行を控えているタイミングだったので、持ち物や集合場所を確認しながら、楽しみにしている生徒たちの姿が見られました。

教員や生徒はどんな人たち?
なごやか中学校の教員は、名古屋市の中学校教諭です。また、日本語の学習やタブレットの使い方をサポートしてくれるボランティアもいます。

生徒たちは年齢、国籍、そして通うことになった経緯もさまざま。現在、約50人のうち、およそ7割が10~20代ですが、30代以上も在籍していて、最高齢の生徒はなんと80代だそう。また、約半数が外国籍の生徒です。
基本的に生徒が在籍したい年次からスタートすることができ、入学前の面談で学校と生徒で話し合って決めています。ゼロから学び直したいのか、通えていないところから復習したいのか、できるだけ長くゆっくりと学びたいのか――。生徒本人の意思を尊重しており、最長で6年間の在籍が可能です。
「基礎的な学力を身につけたい」「学校生活を経験したい」「日本語力を向上させたい」。生徒たちは、それぞれの目標をもって通っています。中でも、夜間中学を卒業した後、「高卒」の資格取得を目指すため、高卒認定試験や定時制・通信制高校などへの進学を目指す生徒が多いと言います。
「生徒のモチベーションが高い」
主幹教諭を務める服部樹さんは着任当初、「生徒のモチベーションの高さに圧倒された」と語ります。それまで勤務していた一般の中学校にも向上心の高い生徒はいましたが、なごやか中学校では自ら質問したり、自分なりに学習を積み重ねたりする生徒が多いそう。「社会経験がある生徒も多く、『大人の観点』からの発言に感心することもあります」
一方で学校になじめなかったり、勉強がうまくいかなったりした経験をもつ生徒も少なくないので、どんなことでも話しやすい環境づくりに気を配っているそうです。
「先生が怖いとか、間違えるのが恥ずかしいとか、学校というのは、本来そんな思いをしなくても良い場所なんだと伝えたい。まずは自分が壁を取っ払い、みんながのびのびと話せるような声かけを意識しています」
そんな姿勢が生徒にも伝わっているのか、授業中も温かい雰囲気で、それぞれが自分のペースで発言していました。

開校から8か月経ち、教員と生徒、そして、生徒同士の関係も築かれてきたようで、「誕生日に生徒からサプライズでケーキをプレゼントしてもらいました。教室でケーキをもらうなんて、18年の教員生活でも初めての経験。夜間中学ならではの心温まる出来事ですよね」と服部さんは目を細めました。

教職員一同、授業や行事など、これからさらに生徒に寄り添ったものに、つくり上げていきたいと意気込んでいます。さらに、佐村明生校長は、「不登校生徒の卒業後の進路選択の1つとして、もっと多くの人に夜間中学の存在を知ってほしい」と語ります。
「不登校を経て、定時制や通信制の高校に進学するケースが多くありますが、学習やコミュニケーションの面で不安を抱える人も多いのではないでしょうか。定時制・通信制に通う前に、夜間中学で学ぶことで、そうした不安が軽減されるかもしれません。卒業後の進路の選択肢として、夜間中学という選択肢があることを知ってもらいたいですね」
取材・文 きずなネット編集部
名古屋市立なごやか中学校の詳細はこちら
※1 日本スポーツ振興センター災害共済(460円)などがかかります。
※2 名古屋市立なごやか中学校は、愛知県内在住、名古屋市もしくは名古屋市と連携協定を結んだ市町村の住民が対象です。詳しくは、お住まいの市町村教育委員会に確認してください




