社会人から僧侶に!地域で機能する新しい「お寺」をつくる

社会人から僧侶に!地域で機能する新しい「お寺」をつくる

~「人と社会をつなぐお仕事」シリーズvol.9永正寺 副住職 中村建岳さん~

たくさんの職業がある中で、なぜその仕事に情熱を燃やすのでしょうか。「人と社会をつなぐお仕事」シリーズでは、インタビューを通して地域社会・コミュニティを支える人にスポットを当てていきます。働くことを通して、人と人、人と社会をつなぎ、むすびあわせることを目指します。

第9回目は、愛知県江南市の永正寺 副住職の中村建岳さん。大学卒業後、病院で総務・経理職に就いたのち、県内の寺院で3年間を積みます。その後、叔父さんが住職を勤める永正寺に副住職として入りました。親戚だったとはいえ、全く関係のない世界から仏の道に進んだ中村さん。「お寺を使って地域のつながり、助け合う社会を作っていきたい」という中村さんに、COE LOG編集部がお話を伺いました。

中村さんのこれまでのキャリア

中村さんが副住職を勤める永正寺(高屋山永正寺・こうおくさんえいしょうじ)は1504年に開創された、臨済宗妙心寺派の寺院です。

中村さんが副住職を勤める永正寺(高屋山永正寺・こうおくさんえいしょうじ)は1504年に開創された、臨済宗妙心寺派の寺院です。約25年前から現在の住職が「葬儀改革」を始め、地域で機能する新しい「お寺」のあり方を目指しています。
子どもの頃の夢は、学校の先生や政治家だったという中村さん。根底にあったのは「どうしたら平和な世の中になるのか」という思いだったそう。両親の影響もあり大学は教育系大学へ。卒業時、教員採用試験を受けましたが、第2次ベビーブーム生まれで応募者が多く高倍率だったこともあり、残念な結果に。そのまま就職試験を受け、病院の事務職に就きました。
約10年勤めた病院では、その年齢では異例の総務部長に。ゆくゆくは病院運営を担うという、大きな期待をかけられていた時に転機が訪れました。
叔父さんが住職を勤める永正寺に跡継ぎがいないことで、中村さんに声がかかったのです。
経理の視点で見ても、病院にはさまざまな制約があり、息苦しさを感じていたこともありました。宗教法人であるお寺は自由度が高い組織。その中でも、叔父さんが住職を務める永正寺は、コンサートや朝市、葬儀改革など、全国に先駆けてさまざまな取り組みをおこなっていたことも魅力でした。
また、大学時代に自身も苦しんだ経験から「心の問題」に興味を持ち、産業カウンセラーの資格も取得していました。宗教者こそまさに「心の問題」の専門家と考え、約10年勤めた病院を辞め、僧侶になることを決意。約3年間の修行を経て、永正寺の副住職に就きました。

「お寺」のイメージを覆す!

お寺に関して、みなさんが持っているイメージはどのようなものでしょうか。

お寺に関して、みなさんが持っているイメージはどのようなものでしょうか。もともとのお寺は、葬儀、法要を行うだけの場所ではありません。縁日やお芝居、法話会などのイベントが行われ、人で賑わうことで「門前町」ができ、戸籍を管理する役所機能を担っていた施設でもありました。
しかし、今ではすっかり「お寺は死んでからお世話になるところ」に。そんな、お寺のイメージを覆すべく、地域で機能するお寺の在り方を目指し、さまざまな取り組みを行っています。
1年前から、町で話題のミニカーに乗ってお参りにでかけています。排気ガス0で地球にやさしい超小型電気自動車は、言わばSDGs。永正寺としてPR活動の一端を担います。

また、日本初の仏像となる上下左右斜めどこから見ても自分の方を向いて見守っていただける仏像「永正八方釈迦如来(えいしょうはっぽうしゃかにょらい)」を、2017年9月に開眼しました。

ほかにも、4月8日のお釈迦さまの誕生日を国民的行事にしようと、名古屋・栄でホットケーキを配ってPRするなど。

ほかにも、4月8日のお釈迦さまの誕生日を国民的行事にしようと、名古屋・栄でホットケーキを配ってPRするなど。
メディアに取り上げられるお寺として、地域ではより親しまれ、知名度も向上しています。
6年前に立ち上げた、地域情報サイト「江南しえなん」では、さまざまな地域情報を配信。毎日コツコツ更新を続けることで閲覧者は増えていき、今では毎日1,000人以上が訪れるサイトに成長しました。

お寺がもつ、無限の可能性

永正寺の取り組みは、最近のことだけではありません。

永正寺の取り組みは、最近のことだけではありません。今でこそさまざまなイベントを行うお寺が増えていますが、永正寺では30年前からコンサートなどのイベントに取り組んできました。世界のトップ5に入るといわれるチェコ・フィルの首席ソリスト、ハーピストの方の演奏会をおこなったこともあります。
ほかにも、お寺での婚活イベント、一人暮らしの方のためのランチ会、落語会、八日縁市など、さまざまな取り組みを行っています。
現在は、コロナ禍での制約や、本堂の解体新築工事で、本堂でのイベントはできていませんが、敷地内には「蔵ホール」という70名規模のスペースを新設。ヨガ、コーラス、音楽教室、バランスボールなど、文化センター・サークル活動などの場になっています。
2023年11月に完成予定の新本堂は、言わば「200席の和風のオペラハウス」。「オペラハウス」ならぬ「オテラハウス(お寺ハウス)」で、更に大きく機能が高まっていきます。

一般的に、お寺で本堂などの施設を造るときには、檀信徒の皆さんに一軒当たり何十万円と寄附金を割り当てる半強制的な協力をお願いをすることがあります。
永正寺の「蔵ホール」については寄付金ゼロの自己資金で建設。現在、新築中の新本堂についても、協力自体も金額も任意のお願いに。来年の完成に向けて、足りない分については、借入分を永正寺の活動によって返済していきます。
以前の職場であった医療機関は、ほとんど全てのことを国が決めた保険制度に則って行われていたため、取り組みに自由度がありませんでした。それと比較すれば、まさにお寺の活動は無限の可能性があるといってもよいと感じています。

永正寺の代名詞「葬儀改革」

お布施や寄付、葬儀費用に関してネガティブな感情を持たれている人もいるかもしれません。そんなお寺の課題に対して、以前から取り組んでいるのが「葬儀改革」です。時代の流れを受けて、葬儀が自宅葬からホール葬に移行しています。
しかし、行き過ぎた合理化で、グリーフケア(喪失による悲嘆のケア)の意義を、損なわれてしまうことがあるように感じています。
そこで、永正寺の葬儀改革では、明朗会計で費用を相場の4分の1~3分の1程度に抑えることを実現しました。遺された家族の新しい生活について、心と経済的観点の両面で寄り添うことこそお寺のあり方だという考えです。

お墓に関しても、少子化による跡継ぎ問題など、私たちの社会生活スタイルの変化によって、お墓の維持管理が難しくなるご家庭も多くなっています。

お墓に関しても、少子化による跡継ぎ問題など、私たちの社会生活スタイルの変化によって、お墓の維持管理が難しくなるご家庭も多くなっています。それらの対応として、全国各地では、不特定多数の方の遺骨をひとつにまとめて納骨する「合祀墓(ごうしぼ)」や、ロッカー型やマンション型の「納骨堂」、海に遺骨をまく「散骨」、樹木の近くに納める「樹木葬」などが、新しい形として広がっています。これらに関しては、それぞれに問題があり、今までのお墓のあり方とは馴染まないこともあります。
これに対して、永正寺では、従来のお墓のあり方を損なわない形で個別に納骨が可能なオリジナル「永代供養集合墓」を造りました。今は口コミで見学依頼が途切れない状況で、まさに求められている「新しいお墓のカタチ」という実感です。
このように、葬儀・お墓といったお寺の旧来の役割に関しては、現代に合った在り方を模索。「守るべきものは守り、時代に合わせて変えるべきものは変える」姿勢で取り組んでいます。

助け合える地域社会を目指して

これまでさまざまな取り組みを紹介してきましたが、最も意義深い活動として感じているのが、平日毎朝7時30分から行われている「ラジオ体操」です。
ちょうどこの時刻は小学校の通学班の子が集合する時間。ラジオ体操に集まる30名弱の大人たちが子どもたちを見守ります。ペットを連れてきて遊んだり、世間話をしたり、「最近、あの人来ないけど?」と心配したり。始めて10年以上になりますが、すっかり朝の風景として定着しました。
今の時代、地域社会の付き合いが希薄化し、隣近所でもほとんど交流がなくなりつつあります。近くに住む人たちが顔見知りになって、心地よく暮らしていける地域社会を。いざという時に助け合える「顔馴染み社会」を作ることが目標です。

失敗はない、動き続けるだけ

「よくそんなに、いろいろなことをやれるね」と驚かれますが、私自身は「失敗はない」と思っています。

「よくそんなに、いろいろなことをやれるね」と驚かれますが、私自身は「失敗はない」と思っています。成功するまでやり続けるだけ。自分にしかできないことに、これからも取り組んでいきたいと思っています。
今後は、近隣の市や地元鉄道会社に働きかけ、仏様巡りなどの地域を巻き込んだイベントなども試案中。永正寺だけでなく、江南市や周辺エリアも含めて街の魅力を高め、地域の活性化につなげていきたいです。

【お話を伺った方の紹介】
永正寺 副住職 中村建岳(なかむらけんがく)さん

中村建岳(なかむらけんがく)さん

僧侶が回答者をつとめるお悩み相談サイト「hasunoha(ハスノハ)」で、実際のお悩みに答えています。2019年には「H1法話グランプリ」にも出場。人前で話すことは苦手ですが、自分なりに大きな挑戦をしました!まだまだ、やりたいことがたくさんあります。

文・聞き手:COELOG編集部

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