給食マニアの中学校教師と生徒による、どちらが給食を「おいしく食べるか」という闘いを描く学園コメディ「おいしい給食」。シリーズ第4弾となる新作映画『おいしい給食 炎の修学旅行』が、2025年10月24日に全国公開を迎えます。
今回は、給食をこよなく愛する教師・甘利田幸男(あまりだ・ゆきお)を演じる市原隼人さんに、本作の見どころはもちろん、給食・食育、子どもたちへの想いについても、話を聞きました。

俳優 市原隼人(いちはら・はやと)さん
1987年生まれ、神奈川県出身。2001年に映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演デビュー。以降、ドラマ『WATER BOYS2』『ROOKIES』NHK大河『鎌倉殿の13人』『べらぼう』、映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』『ヤクザと家族』など数多くの作品に出演。2019年よりドラマ・映画『おいしい給食』シリーズで主演を務め、給食マニアの教師役として体を張った独特の演技を見せ、注目を集めている。
好きなものを好きと胸を張る教師
――ドラマ3シーズン、映画は本作で4作目の大人気シリーズ。最新作の見どころを教えてください。
給食のために学校に来ているといっても過言ではない教師・甘利田幸男が、学校を飛び出して、青森・岩手へ修学旅行に向かいます。給食好きの男が給食以外のものを食べると、どんな話になるんだろうと思いましたが、これほどの珍道中はないというくらい、本当に唯一無二のコメディになりました。
給食では火を使った料理が出てこないので、青森のせんべい汁のような熱々のものを食べるのは初めてでした。岩手のわんこそばでは、よく知っているものでも食べ方が変わるだけで、一緒に食べる相手のことをいつも以上に愛おしく感じました。
今まで以上にパワーアップして、とにかくいろんなものに振り回されまくっている、そんな甘利田先生をご覧いただき、ぜひみなさまの活力にしていただきたいですし、大いに笑って欲しいと思っています。
――甘利田先生の魅力はどんなところにあると感じていますか?
シリーズを続けていくなかで思うのは、甘利田先生は変わらないということ。今の時代、環境やニーズに合わせて変化することを求められがちですが、甘利田幸男という男は常に変わらない。その「変わらないでい続ける」ことの難しさを感じながらも、常に中立であり続ける。だからこそ、子どもに対しても、誰に対しても変わらない。私にとって理想の男です。
恥ずかしい思いをしても、滑稽な姿を見せても、笑われても、好きなものを好きと胸を張って生きる。生徒との勝負に負けても、「明日こそは」と人生を楽しもうとする。そんな甘利田先生が第4弾でもちゃんと存在しています。
アドリブ満載 給食シーンの舞台裏
――定番の給食シーンは、振り切った演技が注目されていますね。
生徒も一緒にいる教室の中で撮っているのですが、こんなに恥ずかしいことはないと思うぐらい長回しで撮られています。給食を食べるシーンだけで、丸1日かかり、ひたすら食べ続けるので、汁物やパンがあると、お腹がいっぱいになってしまうので怖いんですよ。給食を食べているだけなのに、夢中になりすぎて意識が飛んだことがあります(笑)
甘利田の動きは、ほぼ全てアドリブ。どう食べるか、どんなリアクションをするか、ナレーションの抑揚など、台本には書かれていないので、自分で考えて演じています。前日はいろいろ悩んで寝られないですね……。
――生徒役の子どもたちとは、どのように関わっていましたか?
私は、この作品は子どもたちが主役だと思っていて、撮影前に、「この作品を誰に向けて作るべきか」「何を伝えたいのか」という話をしました。これまでの視聴者の方から、「学校に行く勇気が湧いた」「家族の会話が増えた」など、たくさんの反響をいただいていて。そういったお声を子どもたちにも伝えて、自分たちが演じることの意味を考えてほしいと思いました。
そして、何より本気で取り組まないと、本気で泣けないし、本気で悔しがれない。最後に本気で笑うことも出来ない。だからこそ、自分自身が余力を残さず懸命に取り組む姿を子どもたちにも見せなければと、接していました。
撮影中はみんな本当に一生懸命で、でも撮影が終わると子どもらしい姿に戻る。そのメリハリが素晴らしくて。子どもたちが純粋に楽しんで、純粋に努力できる場を心がけています。そんな子どもたちの生き生きとしている姿も、ぜひ劇場でお楽しみいただきたいです。
給食は世代を超えつながるツール
――この作品を通して、給食や食育についてどんなことを感じてもらいたいですか?
まずは純粋に、おいしく楽しんでいただきたいです。給食は親から離れて初めて誰かと食べる会食。その中で、道徳や社会性など、いろんなことを学べる場だと思うんです。
子どもの頃は「揚げパンが出るといいな」「ソフト麺うれしいな」とただ純粋に思っていましたが、大人になって考えてみると、子どもの健康面はもちろん、地域経済や地産地消など、日本が残していきたい産業や食文化がたくさん詰まっていると感じました。
食というのは心身ともに支えてくれる大事なもの。そして、食べること自体を楽しんでもいいはずです。給食はおいしく食べるべきであり、何があっても子どものための給食でなければならない。そのためにはおいしく食べることが正解なんだよ、ということを伝え続けています。
――作品は80・90年代が舞台ですが、世代を超えて共感できる部分はありますか?
給食は四世代を超えてもつながれるツールだと思うんです。ABCスープ、揚げパン、カレーなど、普遍的なメニューについてみんなで話せる。世代の離れた子どもたちとも、同じ給食メニューの話で盛り上がれる。給食を通して人と人とがつながれることを、現場でも実感しました。
学校は1つの通過点
――最後に、きずなネットを利用している子育て世代のみなさんに、メッセージをお願いします。
私は常に「現時点は通過点」というテーマを持って人生を生きています。たとえば学校では、「なんでこの子はこれが出来ないんだろう?」と心配になることがたくさんあると思いますが、最初は出来なくて当たり前だと思っています。
学校は終着点ではなく、1つの通過点。恥ずかしい思いをしても、失敗をしてもいい場所です。そこでいろんなことを学んで成長していく。その積み重ねを、子どもと一緒に共闘できる大人でありたいと、私はいつも思っています。
学校でも会社でも、先生や上司が変われば、やり方も答えも変わってしまう。何が正解かわからない世の中で、お子さんと一緒に信じられるものを見つけていけたらうれしいですよね。
常に「これでいいのかな」と問い続けることが、人生を楽しむ生き方の1つだと思います。子どもとの向き合い方にも、新たな発見があるはずです。そして何より、誰かが笑ったら一緒に笑える人でありたい。そんな人間愛にあふれた関係が、やっぱりいいなと思います。
取材・文:きずなネットよみものWeb編集部
写真:太田昌宏(スタジオアッシュ)
『おいしい給食 炎の修学旅行』
2025年10月24日(金)全国公開
監督:綾部真弥
出演:市原隼人、武田玲奈、田澤泰粋ほか
配給:AMG エンタテインメント
公式サイト
©2025「おいしい給食」製作委員会