熱中症予防|危険な「水分補給」とは?【医師解説】

熱中症予防|危険な「水分補給」とは?【医師解説】

この時期になると「熱中症予防に水分補給を」と、よく言われます。娘の通っていた小学校でも、水筒の持参をお願いするプリントが配られていました。
しかし、先生からの説明では「水筒の中身は水かお茶のみ」と。子供達が「スポーツドリンクは?」と聞くと「ジュースだからNG」と言われてしまったそうです。
熱中症を予防するためには、水分だけではなく、塩分(ナトリウムやカリウム)を同時に補充する必要があります。今回は、熱中症予防のための塩分補給の重要性について解説していきます。

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生
済生会横浜市東部病院小児肝臟消化器科部長。小児科専門医・指導医、肝臓専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
診療を続けていく中で、“コーチング”と“神経言語プログラミング(NLP)”と出会い、2020年3月米国 NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年全米NLP協会公認NLPトレーナーとなる。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。
「子供の一番星を輝かせる父親実践塾」Voicyにて毎朝6時から放送中。

なぜ、塩分補給が必要?

1999年にプエルトリコで行われた実験があります。運動中に子供達に好きなときに好きなだけ水分摂取をして良いと説明しました。

1999年にプエルトリコで行われた実験があります。運動中に子供達に好きなときに好きなだけ水分摂取をして良いと説明しました。

Aグループ:普通の水を提供
Bグループ:スポーツドリンクを提供

すると、Bグループのスポーツドリンクを与えられた子供達の方がたくさんの水分を飲んでいました。さらに飲んだ量とおしっこで排泄した量を比べると、Aグループの子供達は、飲んだ量よりもおしっこの量の方が多かったそう。
つまり、Aグループの普通の水を飲んだ子供達は、脱水が改善するどころか、むしろ脱水を進行させていることがわかりました。

汗からは水分と塩分が失われますが、このときに塩分を含まないお茶や水を飲むと、血液の塩分濃度が薄まります。人間の体には、血液の中の塩分濃度を一定に保とうとする働きがあります。そのため、薄まった血液を正常に戻すためにおしっこから水分を排泄して調整します。塩分は体の中の水分を維持する機能があるため、塩分が不足すると水分を体の中に保持できません。そのため、おしっことして体の外に排泄されてしまいます。だから、飲んだ水分以上におしっことして、水分が失われてしまうのです。
塩分は人間の体の機能を正常に維持する働きがありますので、塩分が不足すると、けいれん、意識障害を起こし、ひどいと亡くなってしまうこともあります。

熱中症の起きやすい環境は?

汗がしょっぱいのは、塩分=塩化ナトリウムが含まれているから。(正確にはカリウムなど、ナトリウム以外の成分も含まれます)同じように汗をかいていても、熱中症になりやすい時、なりにくい時があります。その理由には、汗に含まれる塩分濃度が関係しています。
汗の塩分濃度は何に影響されるのでしょうか。答えは「発汗速度」と「暑さに馴れているか=暑熱馴化」です。
汗腺で最初につくられた汗は、ほぼ血液と同じ塩分濃度です。そして、細い管(導管)を通って皮膚から汗として分泌され、導管を通る間に塩分が血液の中に再度吸収されます。じんわりと汗をかくような状況(発汗速度が低い)では、導管でたくさんの塩分を再吸収することができます。したがって、汗の中の塩分濃度は低くなります。
一方で、短い時間に大量の汗をかくような状況(発汗速度が高い)では、導管での塩分の吸収が間に合いません。十分な量の塩分を吸収する前に皮膚から汗が分泌されてしまいます。したがって、汗の中のナトリウム濃度は高くなります。
さらに暑さに馴れる(暑熱馴化)と、アルドステロンというホルモンの影響で、導管から塩分を再吸収する効率が上がります。したがって、暑熱馴化が進むと、汗の塩分濃度は低くなります。
つまり、暑さに馴れていない時期に大量の汗をかくことがあると、大量に汗から塩分が失われ、熱中症になりやすいということです。

子供はどれくらいの汗をかく?

2016年6月、体育の授業45分間にかいた汗の量を測る実験をしました

2016年6月、体育の授業45分間にかいた汗の量を測る実験をしました。
実験に協力をしてくれたのは、私が勤務する病院そばの横浜市立下末吉小学校の5年生の児童27名(男子15名、女子12名)。その日の天候は曇り、気温 26.4℃、湿度 60%、暑さ指数(WBGT)27℃と、それほど暑い日ではありません。それにも関わらず、全体平均289.0g(男児318.3g 、女児249.2g)の汗の量でした。この汗の量から失われる塩分(ナトリウム)量を計算すると、梅干し1個分、みそ汁1杯分、スポーツドリンク1000ml分になります。
これが7月、8月の晴天で、気温、湿度、暑さ指数(WBGT)がもっと高ければ、さらに汗の量は増え、失われる塩分量も増えます。
毎年5月・6月の夏日に、運動会や遠足などの行事で熱中症が発症したというニュースを耳にします。暑さ本番が来る前に熱中症を発症する理由は、①暑さに馴れていない時期に大量に汗をかくような行動をするから、②汗から失われた水分と「塩分」を補充していないから、です。

水筒の中身はスポーツドリンクを

熱中症を予防するためには、水分だけではなく、塩分(ナトリウムやカリウム)を同時に補充する必要があります

熱中症を予防するためには、水分だけではなく、塩分(ナトリウムやカリウム)を同時に補充する必要があります。暑くて汗をたくさんかくような環境にいるときに、塩分が含まれない水やお茶などを飲み続けると、体の中の塩分と水分が不足した低ナトリウム性脱水を起こし、それが熱中症の原因となります。

娘の通っていた小学校では「水筒の中身は水かお茶のみ」と言われたため、養護教諭の先生達へ「熱中症予防に水、お茶は百害あって一利なし」という話をしました。先生達から帰ってきた回答は、「スポーツドリンクや経口補水液を許可すると、際限がなくなり、ジュースでもなんでも持ってきて良いことになってしまう。だから、許可できない。」という趣旨の言葉。非常に残念でした。
娘から話を聞いて、学校に熱中症の話をしてから10年近く経ちますが、未だに水筒の中身を水かお茶に制限している学校があると聞きます。これはむしろ、熱中症をつくり出しているようなものであり、非常に危険な指導です。
熱中症とは、体を冷やすための水分と体の機能を維持するための塩分が失われることによって起ります。水筒の中身は水やお茶でなく、スポーツドリンクなどのイオン飲料や経口補水液で、水分と塩分補給をおこなうようにしましょう。

文:十河 剛

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