愛知県の高校入試シーズンがやってきました。
高校授業料が“実質無償”となる中、「公立王国」と言われてきた愛知県の状況に変化はあるのでしょうか。秀英予備校で、愛知県の高校入試指導を統括する中津充さん（48）と平田拓也さん（37）に聞きました。
私立一般入試日程の変更点
秀英予備校の中津充さん（右）と平田拓也さん（左）
Q:愛知県の私立高校の一般入試は1月21～23日の3日間に集中します。
大きな変化は、男子最難関の東海の日程が1日目から2日目に移ったことです。
昨年度（2025年度）は、東海、滝、名古屋、愛工大名電、愛知といった難関校が1日目に集中しました。「東海にはギリギリ」という受験生が名古屋などに流れたとみられ、東海の志願者が減りました。
今年度（2026年度）は2日目になったことで、東海の志願者が増えて倍率も上がるでしょう。一方で受験生にとっても、東海と滝、あるいは東海と名古屋などの併願ができるメリットがあります。
私立は東海・名城大附属などに変化
秀英予備校の中津充さん
もう1つ大きく変わるのが、名城大附属です。これまで普通科（4つのクラス)と総合学科に分かれていましたが、今年度から総合学科の募集をなくし、普通科も一本化します。総合学科を目指していた受験生にとってはハードルが上がるでしょう。
名城大附属の特進は、中京大中京の特進とほぼ同レベルでした。名城大附属と中京大中京の入試は同じ日なので、今年度の受験生がどちらを選ぶのか、注目しています。
また、名古屋女子が共学の「名古屋葵」になります。男子にとっては私立の選択肢が増えます。
「公立王国」に変化の兆しも
Q:愛知県は「公立王国」といわれますが、高校授業料の実質無償化の流れで変わっているのでしょうか。
授業料については、所得制限も撤廃され、公立・私立とも実質無償化となります。ただ制服や修学旅行などの諸費用で、私立と公立との差はまだあります。
私立の志望者が増えているのは間違いありません。愛知県による第1回進路希望状況調査（9月10日時点）では、公立高校の希望者は67.8%で、前年度から1.8ポイント減となり、過去最低でした。
一方、私立高校の希望者は19.8%で、前年度から2.2ポイント増となり、過去最高でした。
費用の差が縮まっていることに加え、私立は環境設備や生徒対応への取り組み、附属高校なら大学への内部進学もできるといった評価が私立人気を後押ししています。
それでも、なお7割近くが公立を希望しているわけで、「公立王国」ではなくなったとは言えないでしょう。
2025年度以降、明和や刈谷などの有名公立校が次々と中高一貫になっています。1次導入校では3年後に中学入学者が高校生になり、高校入試の定員が減ることになります。そうなると倍率はどうなるのか、私立にどれぐらいシフトしていくのか気になりますね。
読解力が試される公立入試問題
愛知県立高校の学力検査
Q:愛知県の公立入試の特徴は2校受けられることですが、どちらかに合格すれば入学するのが原則です。
愛知県の公立は、私立の合否結果を見てから出願できます。
「無償化」で私立のハードルが下がっていることもあり、私立の難関校や特進に合格したら、公立はチャレンジの1校に絞るという受験生が増えるのではないでしょうか。
Q:公立の入試問題の傾向と対策は？
どの科目も「読解力」が重視されているといえます。
英語の長文読解は時間内にしっかり読み切ることが必要で、一部しか捉えられていないと間違えてしまいます。
リスニングでは昨年度、時刻表と会話を組み合わせた問題が出ました。ただ聞くだけでなく、視覚的な情報も読み取ることが求められます。
2025年度の愛知県公立高校の英語リスニング問題。時刻表と会話が組み合わされた（愛知県教委提供）
数学は前回、平均点が上がりました。その中でも差がつくのが、最後の大問3です。大問3は例年、中3の2学期に習う範囲を中心に出題されています。限られた期間で練習を積めるかどうかが勝負です。
国語は2年前がとても難しかったのですが、昨年度は平均点が上がりました。文章を表面的に捉えるのではなく、全体を客観的に把握すること。そして本文と選択肢を精査し、消去法で絞っていくトレーニングが必要です。
理科は、すべての分野からバランスよく出題されます。苦手分野を作らないことが大事です。実験や考察の長い説明から答えを導く問題や、知識があやふやだと間違えてしまう問題があるので注意してください。
社会は、教科書の範囲を超える出題はないのですが、ほぼ初見の写真やグラフなどの資料が出てきます。自分が知っている知識と資料を照らし合わせ、解答を導き出す必要があります。
2025年度の愛知県公立高校の社会の問題。ポスターやグラフなどが出た（愛知県教委提供）
また、大問5・6は中3後半で習う公民から政治分野と経済分野の問題が出ました。2つ（または3つ）ともできて1点(または2点)という「完答問題」が半数を超えることにも注意が必要です。
内申点と学力検査の比重に変化も
Q:公立入試で大きいのは「内申点」と聞きます。音楽や美術、保健体育などが苦手で内申点が伸びない生徒もいると思うのですが。
2023年度から入試制度が変わり、各高校が合格者を決める方式が3通りから5通りになりました。内申点よりも学力検査の比重が高くなる方式を選択する高校が増えています。
この方式では、学力検査の得点が2倍されて最高220点になり、これに評定得点（90点満点）を加えた合計点で合否を決めています。このため、学力検査で逆転できる可能性が高くなっているのです。
受験生へのアドバイス
Q:いよいよ本番を迎える生徒へのアドバイスを。
この時期はそれぞれの中学校で面談があり、私立の受験校が決まります。
まずは受験校の過去問を解きましょう。
難関校は難問が多いですが、まずは得点率よりも出題傾向や出題の順番を確認し、やり直しまでしっかりすることが大事です。
第1志望校なら過去問をもう1回解いて時間配分と得点率をはかり、類題でトレーニングしましょう。
また、これからの時期は新しい問題集に手を付けるのではなく、今まで使ってきた問題集を解き直し、自信を持って本番に臨むことをお勧めします。
保護者へのアドバイス
秀英予備校の平田拓也さん
Q:保護者へのアドバイスを。
まず大事なのは「体調管理」です。
高校入試は1年で最も寒い時期です。体調がすぐれない時に勉強を続けても効率的ではないので、「早めに休んで体調を整えて」と声をかけてあげてください。
お子さんがリビングで過ごしていると、ついつい「勉強しないの」とか「いつまでテレビをつけているの」などと言いたくなるかも知れません。
見えている時、いろいろ言いたくなってしまうのが親心ですよね。
塾生の保護者の方には、「どうしても気になったら、お子さんに直接ではなく、私たち講師に言ってください。私たちからお子さんにアドバイスやフォローをします」と伝えています。
家庭は、お子さんにとって一番の居場所です。家族は「第一の応援者」であってほしいと思います。
お子さんが集中しやすい雰囲気づくりも重要です。自分の部屋などで勉強しているところに、テレビやゲームなどの音が聞こえると誘惑になります。
あと2カ月だけは、テレビの音を小さくしたり、家族みんなで読書の時間にしたりするなどして、家庭の学習環境を一緒に作ってあげてください。
アンケートに寄せられた保護者の声
高校受験について、12月1日から10日まで、きずなネットでアンケートを実施しました。
86件の回答のうち、第1志望を「県内の公立高校」としたのは55、「県内の私立高校」としたのは25でした。
塾・予備校に「通っている」と答えたのは50、「通っていない」は36でした。
受験校を選ぶ時に重視することで（複数回答可）、最も多かったのは「通学にかかる距離・時間」の65。次いで「校風や教育方針」の43、「大学への進学実績」の36でした。
高校受験の心配事を尋ねたところ(複数回答可)、最も多かったのは「子どもの内申点」の41でした。次いで多かったのは「子どもの勉強がはかどらない」の37。また「塾にお金がかかる」「進学後にお金がかかる」が合わせて59と、お金の心配も多くありました。
高校受験について思うことを自由記述で尋ねたところ、「子どもの希望と先生の推薦する学校の違いに悩んだ」「私は大学への進学実績を気にしていますが、子どもはそこを重視しなくて、意見が合わなくて困っています」「子どもが内申を気にして、ビクビクしながら中学生活を送っているのが不憫でならない」といった声が寄せられました。
この記事は、メ～テレのホームページで2025年12月13日に掲載された記事を転載しています。
