2026年の大学入試は「安全志向」「実学志向」「文高理低」……。大手予備校の河合塾(名古屋市)が10月の模試をもとにまとめた志望動向で、こんな傾向がうかがえるといいます。河合塾教育研究開発本部の近藤治・主席研究員(64)に、今シーズンのトレンドと受験生へのアドバイスを聞きました。
文系志望者が増加
2025年1月の大学入学共通テスト(名古屋大学)
Q:前回の2025年度の傾向は「文理均衡」でしたが、今シーズンは違うそうですね。
まず、受験人口(18歳)は前年とほぼ変わらず、大学の入学定員も前年並みです。
その中で、文系志望者は前年比102%と増え、理系志望者が98%と減りました。文系の中でも「法・政治」「経済・経営・商」の分野で志望者が増えています。
国は理系人材を増やそうとしていて、大学でも理系学部・学科が増えていますが、今シーズンの受験生の志望傾向は逆になっています。
増える「年内入試」
河合塾教育研究開発本部の近藤治・主席研究員
Q:近年は「年内入試」といわれる総合型・学校推薦型選抜が増えていますね。
総合型・学校推薦型は、いまや私立大入学者の6割を占めています。国公立大では3割弱ほどですが、後期日程を廃止して総合・推薦枠を増やす傾向にあります。
これらは9月にエントリーが始まり、いまは最終盤です。まだ集計できていませんが、志願者は前年より増えているはずです。
総合型・学校推薦型を巡っては、今回、ルールの見直しがありました。これまで「学科試験は2月1日以降」というルールがあったのですが、文部科学省が、年内に実施する総合型・学校推薦型選抜で学科試験をすることを認めました。ただし、小論文や面接などと組み合わせることが条件です。
もともと近畿圏の私立大で「年内入試」の学科試験が広がっていたのですが、2024年に首都圏の東洋大などが始めたことで議論を呼びました。来シーズンから本格的に広がるのではないかと思われます。
「年内入試」は楽なのか
名古屋大の2次試験(2025年2月)
Q:募集人数も増え、合格が早く決まるので、受験生にとって楽ですね。
必ずしもそうとは言えません。
年内の学科試験が認められたことで、課外活動の実績や小論文、面接対策に加え、教科対策もしないといけなくなります。
合格できればいいのですが、もしだめだったら翌年2~3月の一般入試を受けなければいけません。そうなってしまうと「早期化」ではなく「長期化」です。
また、難関国立大や難関私立大は一般選抜の比率が圧倒的に高いことを忘れてはいけません。
総合型・学校推薦型はあくまで「第1志望」として受けるもので、合格したら入学するのが原則です。「受験勉強がしんどいから早くやめたい」という考えで受験することはお勧めしません。
国立大「難関」離れの傾向
国立「難関10大学」志望者の前年比(前期日程)。多くで前年を下回っている(河合塾提供)
Q:国公立大学で注目していることは?
工学部で、「学科」を「コース」に再編する動きがあります。
信州大は、工学部を5学科から1学科10コースにします。兵庫県立大も工学部3学科を1学科5コースにします。「学科」では学ぶ分野が細分化されていますが、「コース」だと幅広い分野を横断的に学べます。
例えば、自動車は機械工学科のイメージがありますが、実際は電子部品の固まりといってもいいでしょう。「社会人になって自分は何をしたいのか」を逆算し、それに必要な知識をコース制で身につけてほしいという狙いがあります。
公立大学では、「地域」という名前をつけた学部・学科の新設が目立ちます。福井県立大の地域政策学部や、長野大の地域経営学部などです。「地域を支える人材を育てる」という公立大学のミッションに沿ったものと言えるでしょう。
Q:国立大の志望状況は?
旧7帝大に東京科学、一橋、神戸を加えた「難関10大学」を志望する現役生が減っています。
前期日程の志望者をみると、東京大が前年比92%、京都大が95%、東京科学大が95%、東北大が97%と、「難関中の難関」で減少が目立ちます。
昨シーズンは新学習指導要領に対応した初めての入試でしたが、難関大にチャレンジする傾向が強く感じられました。しかし、2年目の今シーズンは特に現役生に「安全志向」がみられます。
「年内入試」が増えていることとあわせ、「(負担を)軽く」「(合格を)早く」という風潮が強まっているのではないでしょうか。
初志を貫徹し、浪人してでも難関大を目指す層はもちろん多いです。しかし、「もうちょっとがんばれば難関国立大に届く」という層で、私大専願に流れる人が多いように見受けられます。
就職を視野に「実学志向」か
Q:安全志向とともに「実学志向」がみられるそうですが。
世の中は物価高ですが、景気が悪いわけではなく、就職も売り手市場です。
国立の難関10大学のうち、社会科学系学部が多い一橋大の志望者だけ前年比112%と大きく増えているのも、就職を意識した「実学志向」の表れではないかと思います。
興味深いのは、佐賀大が新設する「コスメティックサイエンス学環」です。
国立大はどちらかというと研究主体のイメージですが、この学部は化粧品業界への就職を強く意識しています。志望者の倍率(前期日程)は5.4倍と医学部よりも高く、しかも県外からの志望者が大半を占めています。
一方、医療系は国公立・私立とも歯学部を除いて志望者が減っています。安全志向が強まっていることが背景にあるのかも知れません。
私立大は二極化進む
私立難関大の志望者(一般+共通テスト方式)の前年比。多くで前年を上回る(河合塾提供)
Q:私立大の状況はどうでしょう。
特に大規模な私立大で、新学部・学科の設置が目立ちます。
立教大が環境学部を新設し、共通テスト利用は18.1倍、一般でも6倍前後の人気です。
学習院大は学習院女子大と統合し、共学化した国際文化交流学部の志望者は、前年の2倍近くになっています。
関西では、立命館大がデザイン・アート学部を新設します。共通テスト利用の志望者は43倍、一般でも4.7倍です。近畿大は看護学部を新設し、共通テスト利用の倍率は69.3倍、一般は9.1倍です。
大規模な私立大がさらに大きくなる一方で、中規模・小規模の私立大が厳しさを増す二極化が進んでいます。
その1つの表れが、共通テストの利用取りやめです。
9月末時点の調査で、全国の10私立大学が共通テスト利用をやめると決めました。共通テストを利用する大学は、基本的に共通テストの受験会場を用意しなければいけません。そのコストに対して志願者が少なく、割に合わなくなっているのです。
Q:東海地方の大学の状況も教えてください。
学部・学科の再編や定員の増減などで大きな変化はありません。
岐阜県飛騨市古川町に、私立の「コー・イノベーション大学」が新設されます。飛騨地方で初めての4年制大学で、地域の課題を解決する「地域共創」を掲げています。1学部1学科で入学定員は120人ですが、模試の調査では、地元以外の受験生からも注目を集めています。
東海地方の特徴として、全国よりも国立志向が強いことが挙げられます。
前期日程でみると、名古屋大が前年比101%、名古屋工業大が102%、愛知教育大が104%、岐阜大が103%、三重大が101%といずれも増えています。
女子の進学先は多様化
2019年度と2025年度の女子の志望傾向。工学系などが占める率が上がり、文・人文学系などが下がっている(河合塾提供)
Q:近年は女子の進学先が多様化しているそうですが、今シーズンは?
やはり理工系を志望する女子が増えています。
男女を合わせた志望者でみると、国公立大の理学系は前年比98%ですが、女子に限れば101%で、中でも物理系は111%にのぼります。工学系も全体は前年並みですが、機械・航空系を志望する女子は前年比107%です。
理系だけでなく、法・政治系を志望する女子も前年比106%と増えています。これは私立大でも同じ傾向です。
今回、女子の志望傾向を6年前の2019年度と比較してみました。
女子全体に占める工学系の志望者は、2019年度は5.5%でしたが、2025年度は8.2%に上がっています。また、経済・経営・商学系は2019年度が11.8%でしたが、2025年度は15.3%に増えています。
一方、文・人文学系は2019年度が29.4%だったのに、2025年度は24.8%に減りました。生活科学系も2019年度の5.5%から2025年度は3.0%に減り、工学系に差をつけられています。こうしたことからも、女子の志望分野が多様化していることがわかります。
共通テストの見通しは
共通テスト・センター試験の平均得点率の推移。2025年の平均点はセンター試験の頃に近い(河合塾提供)
Q:大学入学共通テスト(本試験)は1月17、18日です。過去2年の平均点は比較的高かったそうですが、今回の見通しは?
共通テストは2年目の2022年度が非常に難しかったのですが、2023~2025年度にかけて平均点が上がっています。
「今回は難しくなるのでは」と考える人もいるかも知れませんが、前身の大学入試センター試験の時代を含めた長いスパンで見ると、ここ数年の平均点はセンター試験と同じぐらいなのです。
2025年に始まった「情報」の平均点はとても高かったので、やや難しくなる可能性がありますが、全体としてそこまで難化するとは思いません。
ただ、今回の共通テストから、新学習指導要領に即した問題が本格的に出てきます。初年度の2025年度は、新要領で学んでいない浪人生に配慮した出題でした。これは受験生と保護者ともに意識してほしいことです。
受験生へのアドバイス
「共通テストの難化を過度に恐れないで」と話す近藤治さん
これから本番を迎える受験生へのアドバイスを。
共通テストが難しくなることを過度に恐れる必要はありません。もし平均点が下がったら、それはあなたができなかっただけではなくて、みんなできなかったんだと考えましょう。
大事なのは、自分が全体のどの位置にいるかを、冷静に分析することです。共通テストの翌日に自己採点をしっかりして、出願先を再確認しましょう。
私立大では、共通テスト利用の志望者が増えていて、一般入試の志望者が減っています。一般入試が狙い目かも知れません。ただ共通テストが難化すると一気に状況が変わることも忘れないでください。
受験生は、志望校が課す科目がどう変わるかに目が向きがちですが、定員の増減も合否に大きく関わります。志望校の定員は、よく確認しておいた方がいいでしょう。
アンケート結果によると
大学受験について、12月1日から10日まで、きずなネットでアンケートを実施しました。
72の回答のうち、第1志望が「東海地方の国公立大学」は22、「東海地方の私立大学」は21と、東海地方の大学が過半数を占めました。
塾・予備校に通っているのは35、通っていないのは36とほぼ並びました。
志望校を決める時に重視することを複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「校風・教育内容」の45でした。次いで多かったのは「就職の実績」の35。さらに「自宅から通えること」の25、「学費や奨学金」の23、「知名度」の21と続きました。
大学受験について思うことを自由記述で書いてもらったところ、「お金がかかる」ということに加え、入学しない大学に納めた入学金について「納得できない」「返還を義務付けてほしい」という声が複数寄せられました。
また、多様な受験方法があることについて、「日程調整が大変」「親が把握していないと難しいと感じる」「もっとわかりやすく受験できないものか」といった声もありました。
この記事は、メ~テレのホームページで2025年12月14日に掲載された記事を転載しています。


