子どもたちが将来、自らの力で未来を描き、行動していくためには、どのような教育が必要でしょうか。名古屋市では現在、未来を担う子どもたちの「キャリア教育」を支援する取り組みを進めています。
市独自の「キャリアタイム」の取り組みが行われた名古屋市立山田高等学校を訪れ、その様子を取材しました。
キャリアタイムってなに?

キャリアタイムとは、実社会で活躍する本物のヒト・モノ・コトとの出会いや日ごろの授業などを通じて、子どもたちが自分の「好き」や「できる」を大切にしながら、人生の多様な選択肢のなかで、自分らしい生き方を実現する力を身に付ける時間のこと。名古屋市独自のキャリア教育の時間です。
キャリアタイムでは、「進学先の相談に乗る」「面接対策をする」といった直接的な進学支援を行うだけではありません。実践的な学びの機会を設けることで将来の選択肢を広げ、社会的に自立するために必要な能力や考え方を育んでいきます。

また、名古屋市には、キャリアタイムを進める上で大きな特徴があります。それは、「キャリアナビゲーター」と呼ばれる専門家がすべての市立中学校、高等学校および特別支援学校に常勤で配置されている点です。各学校に配置されたキャリアナビゲーターは、教員と協働しながら、生徒のキャリア教育を支援するプログラムを企画・実施しています。
キャリアナビゲーターってどんな人?
キャリアナビゲーターとは、キャリアコンサルタントの国家資格を有する専門家のこと。キャリタイムの企画・実施はもちろん、生徒の個別支援、教職員向け研修、保護者向け講演会など、多岐にわたる活動を行います。
生徒たちが「やりたい」と思うことを見つけ、それを自立的に追求していく過程をサポートするのがキャリアナビゲーターの役割。カウンセリングのスキルを活かし、「なぜそれをしたいのか」「他にどのような選択肢が考えられるのか」といった問いを投げかけ、生徒とともに将来の可能性について深く考えていきます。

山田高校のキャリア教育
山田高校のキャリアナビゲーターを務める渡邊江李賀さんは、「自分自身と社会の未来を自ら描き行動できる人へ」をテーマに、同校の3年間の探究プログラムを作成。他人の視点に立って物事を捉える力や、粘り強く考える力、根拠をもって選び抜く力といった、社会人に必要不可欠な能力が習得できるような探究プログラムの企画・実施などを行っています。

渡邊さんは、「生徒一人ひとりの個性を生かし、さまざまな分野の学習や進路の選択が出来るように、その選択肢の幅を広げられるような専門的な指導・支援をしていきたい」と話します。
どんな授業が行われるの?
11月下旬、キャリアタイムの授業が実施される山田高校を訪れました。
山田高校では、1年生から3年生まで、それぞれの学年に合わせた3年間のカリキュラムが設定されています。学期ごとに「進路探究」と「課題探究」のプログラムが用意され、生徒たちは段階的に自身の興味や関心を深めていきます。

1年生では、1学期のうちに「社会・学問理解」をテーマに、卒業生である大学生との座談会や学問理解ワーク、適性診断などを通して、広い視野で自身の適性や興味を探ります。そして2、3学期には、「山高魅力アッププロジェクト」として、身近な学校生活の課題解決に挑戦。
2年生になると、志望校の具体的な検討・決定に向けた探究や、防災や医療など地域社会が抱える課題に焦点を当てた問題解決に取り組みます。3年生では、進路実現に向けた具体的な行動計画を立て、自分自身の関心に基づいたテーマで主体的に探究していきます。
これらのプログラムでは、外部から社会人アドバイザーや大学生サポーターなどを招き、より実践的で具体的なアドバイスを聞くことが出来る点もポイントです。
「山高魅力アッププロジェクト」を見学
1年生の「山高魅力アッププロジェクト」の時間では、生徒たちが主体的に学校生活の課題解決に取り組む様子が見られました。

教室内では各グループが集まり、話し合いを始めるなか、社会人アドバイザー・大学生サポーターが各グループの様子を見てまわりながら具体的なアドバイスを行います。
例えば、「学校をきれいにすること」を課題としたグループでは、「学校が汚いとなぜ問題か」「きれいにすると何が良いのか」といった問いを立て、アンケート調査を通して実態を把握しようとしていました。

アドバイザーから「時間帯や場所などにフォーカスを当て、具体的なイメージができるように」といった助言を受け、「掃除の時間に音楽をかけるとどうか」「もっとも身近で汚いのは教室内のロッカーなのでは」など、具体的な議論を展開。生徒用、教員用それぞれにアンケートを作成し、データを収集するなど、生徒たちが自主的に行動している様子が見られました。

他にも、「勉強と部活の両立」や「学校の治安をよくするためには」、「授業中の態度を改善するには」といったテーマで話し合うグループもあり、自分たちの視点で学校生活の課題を探究し、解決策を考えようとする前向きな姿勢が印象的でした。
生徒たちの声
授業後の生徒からは、このような前向きな声が挙がりました。アドバイザーからの具体的なアドバイスは、自分たちだけでは気づけなかった視点や考え方を教えてくれる、新鮮で分かりやすいものだったようです。
意見を主張するのではなく、アンケートなどを通して他の生徒や教員の声をふまえたうえで、周りを巻き込んで解決策の提案ができるような発表を目指したい、という前向きな意欲も聞くことができました。
将来のことや社会の課題について、日常生活ではあまり意識していなかったと話す生徒たちも、キャリアタイムでの活動を「楽しい」と感じている様子。また、普段あまり話さないクラスメイトと交流するなど、人間関係を深めるきっかけにもつながっていることがわかりました。
この取り組みを通じて、「自分たちが社会を変える」という意識を持ち、その一歩を踏み出す体験をしてもらえたら、と渡邊さんは話していました。
取材・文 きずなネット編集部
キャリアタイムの詳細はこちら




