バレーボール女子日本代表として、北京、ロンドン、リオデジャネイロ、東京と4回のオリンピックに出場し、2021年に現役を引退した荒木絵里香さん。第一線で活躍してきたトップアスリートでありながら、2014年には長女を出産し、競技と子育てを両立してきた「ママアスリート」でもあります。
輝かしい経歴の裏で、実は子育てや自身のキャリアについて悩んだこともあったという荒木さん。そんな荒木さんに家族のことやキャリアについて聞きました。

荒木絵里香(あらき・えりか)さん
1984年生まれ、岡山県出身。北京、ロンドン、リオデジャネイロ、東京と4大会連続でオリンピックに出場。ロンドンオリンピックではキャプテンとして銅メダル獲得に貢献し、東京オリンピック後の2021年に現役引退。現在は、女子バレーボールチーム「クインシーズ刈谷」のチームコーディネーターや日本オリンピック委員会(JOC)理事、バレーボール解説者など、幅広く活躍している。
妊娠・出産前から周りに相談
――娘さんが生まれて引退するまでの7年間、競技と子育てを両立しながら、大変な日々を送っていたことと思います。
2014年1月に娘が生まれ、その半年後にチーム(当時所属していた上尾メディックス)に復帰しました。もともと子どもが生まれる前から、家族には子どもを持ちたいということ、そして、チームにはチームを離れるということを伝えていて、周りもそれを後押ししてくれました。とても恵まれていたと思います。
復帰してからは、もう毎日が怒涛のように過ぎていきました。毎週のように試合で遠征し、日本代表に入ると海外に行く機会が増え、家を数か月離れることも。娘のお世話や送り迎えなどは、近くに住む私の母親に手伝ってもらいながら、何とか続けることが出来ました。
スポーツ選手という仕事柄、試合や練習の時だけでなく、常に体調管理に気を配らなくてはいけません。娘がまだ小さい時、一緒に寝てあげたいけど、「そうすると、翌日のコンディションに影響が出るかもしれない」という時は、別々の部屋で寝るようにするなど、選手とママのスイッチの切り替えは難しかったです。
――2021年に現役を引退し、家族で過ごす時間は増えましたか?
選手時代はチーム優先で動いていましたが、今では一緒に過ごす時間が増えました。「クインシーズ刈谷」のチームコーディネーターをしているので、試合などの時には家を空けることになるのですが、家族と協力しながら回しています。
娘は今小学5年生で、だんだんと自分の意見を主張するようになってきましたね。歌ったり、踊ったりすることが好きで、ダンスも習っています。好きなことにはとことん夢中になるけど、逆に興味のないことは全くやろうとしない。バレーボールも「やってみる?」と聞いたことがあるんですが、「やらない」って(笑)。私としてはスポーツでも、ダンスでも、何でもいいので、娘が夢中になれるものを見付けたら、それを全力でサポートしたいと考えています。
――娘さんは、バレーボールにはあまり興味がないんですね。
もっと小さい頃は、娘にとってバレーボールは「ママを奪うもの」という認識だったみたいです。私が遠征などでいない日には、カレンダーに自分で×を付け、会える日には〇を付けていたのを今でも覚えています。幼いなりに我慢していたんですよね。
最近はだんだん「試合を見てみたい」と言うようになってきて、一緒に男子日本代表の試合を見に行ったこともあります。
私自身がそうだったように、スポーツを通じて学べることってたくさんあります。何かに夢中になったり、練習を続けることで出来なかったことが出来るようになったり。勝つとうれしいし、負けると悔しい。そんな感情も含めて、娘にも経験してもらいたいですね。
娘の言った「7年間を取り戻す」
――子育てでは、どんなことを大切にしていますか?
現役時代はどうしても一緒に過ごす時間が短かったので、その分、「濃い時間を過ごそう」と心掛けていました。私が引退した時、娘は7歳で、私にこんなことを言ったんです。「私は生まれてから7年間ずっとママが近くにいなかった。この後の7年間で取り戻すからね」って。
だから、娘が14歳になるまでは少し仕事を抑えて、娘と過ごす時間を優先したいと考えています。成長していくにつれて自分で出来ることが多くなり、きっと友達と過ごす時間も増えていくだろうし、今は娘との時間を楽しんでいます。
私自身、スポーツを通じて、いろいろな国に行き、たくさんの経験をしてきました。だから、娘にもいろいろな世界を見せ、経験させてあげたいと、この間はフィリピン・セブ島にある英会話学校で1週間の親子留学をして来たんです。英語の勉強だけでなく、街に出て現地の人たちの暮らしを肌で感じたりして。今は分からなくても、後から振り返った時、何か残っていたらいいなと思っています。
PTA役員としてトイレ掃除も
――子育てについて、周りの人に相談したり、話したりすることはありますか?
今、小学校のPTA役員をしているので、そのつながりで知り合いのママさんが増えました。PTAでは環境委員長として、月2回、学校のトイレ掃除に行っています。PTAの集まりもあって、正直ちょっと大変ではあるんですが、学校に行く機会が増え、娘が普段どんな風に学校で過ごしているかを近くで見ることが出来ています。そういう意味では、やってみて良かったですね。
私と同世代の選手たちも今はママになって、会う度に子どもの話で盛り上がっています。つい最近も(大山)加奈や(木村)沙織とランチをして、ひたすらしゃべっていました(笑)。ほかにも、大友愛さんや(栗原)恵など、学生の頃から一緒にプレーしてきた仲間たちと、今でもこうやってつながっていられるのは本当に幸せだし、「バレーをやっていてよかった!」と思う瞬間です。
取材・文:きずなネットよみものWeb編集部

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