【不登校のリアル】体験した親だから分かる、葛藤と「再登校」の壁<前編>

【不登校のリアル】体験した親だから分かる、葛藤と「再登校」の壁<前編>

もし自分の子が不登校になったら、親はどう向き合えばいいのでしょうか。お子さんが中学1年生から不登校になり、現在はそれを乗り越えて学校生活を楽しんでいるという富永愛梨さん。

きずなネットでは、そんな富永さんにインタビューを行い、子どもの不登校に悩む親のリアルな声を聞きました。前編では、息子さんの行きしぶり、不登校から再登校まで、そして、親としての葛藤についてお伝えします。

富永さん

富永愛梨(とみなが・えり)さん

心理カウンセラー・NLP上級スキルマスター。不登校だった息子の心と体を回復させたい一心で、NLP心理学を学ぶ。現在は不登校や行きしぶりに悩む親子の支援を行っており、のべ3000人を超えるサポート実績を持つ。著書に「不登校の子が元気になる言葉 つらくなる言葉」(青春出版社)Official X

不登校の始まり

富永さんと息子さん富永さんと息子さん

現在大学2年生の息子は、中学1年生の夏休み明けから不登校になりました。毎朝とても苦しそうな顔で、「もう生きているのが嫌だ……。死んだ方がマシだ」と涙を流し、ベッドから起き上がれなくなりました。

息子は突然学校に行けなくなったわけではありません。最初のきっかけは小学4年生の3学期のある日、中学受験のために通っていた塾の講師に叱責されたことです。その日を境に塾へ通えなくなり、家にいても塾のことを考えると震えが止まらず泣き出すように。

さらに、頭痛や腰痛、腹痛、めまい、立ちくらみ、吐き気、アトピーの悪化など、さまざまな身体症状が出始めるようになりました。

息子の身体症状は日が経つごとに悪化していき、毎日頭痛薬が手放せない状態になりました。頭痛薬を飲ませずに少しでも苦しむ息子を楽にしてあげたい。藁(わら)にもすがる思いで、息子を治してくれる病院を探しまわり、やっとたどり着いた大学病院で「起立性調節障害(※)」と診断を受けました。

※起立性調節障害:自律神経の働きの不調で、体を起こした時に体や脳への血流が低下し、さまざまな症状が現れる病気

起立性調節障害が早く良くなるように、自身でいろいろと調べて、自律神経の機能調査や鍼治療、整体、カイロプラクティック、漢方、サプリメントなど良いと言われるものは何でも試してみましたが、抜本的な解決方法は何も見つかりませんでした。

今までは好奇心旺盛で、塾にも、水泳にも、前向きに通っていたのに、青白い顔でグッタリしている息子の姿にいったい何が起きているのかと不安でたまらない毎日を過ごしていたのです。

今までは好奇心旺盛で、塾にも水泳にも、前向きに通っていたのに、青白い顔でグッタリしている息子の姿にいったい何が起きているのかと不安でたまらない毎日を過ごしていたのです。その変化はすさまじく、塾をやめても息子の体調はなかなか戻りませんでした。

中学校に進学すると、しばらくの間は体調が回復していました。しかし、教師から「君は成績が優秀だから、このまま頑張れ」と言われたことをきっかけに、再び体調不良を訴えるように。よかれと思って言った励ましの言葉が、塾での出来事をフラッシュバックさせてしまったようです。

そして、中学1年生の夏休みが終わり、2学期の始業式には頑張って登校しましたが、その翌日には学校を休みました。そこからは行ったり行かなかったりが続き、9月中旬から完全に登校できなくなってしまったのです。

まさかうちの子が不登校になるとは、思いもしないこと。不登校を克服するにはどうしたら良いのか分からず、スクールカウンセラーさんに相談したところ、児童精神科を勧められ受診をしましたが、何の解決策も見つけることは出来ませんでした。

「再登校」からが本番

不登校だった子どもが再び登校するようになるのは1つの大きな節目ですが、そのまま毎日行けるようになるわけではありません。

不登校だった子どもが再び登校するようになるのは1つの大きな節目ですが、そのまま毎日行けるようになるわけではありません。むしろ、登校するようになってからが正念場。再登校は、これから始まる長い長いマラソンのスタート地点なのです。

例えば、息子の場合は不登校の時の方が勉強時間をとれていました。不登校がいいと言っているわけではなく、再登校し始めると学校に行くだけでも疲れてしまい、勉強に取り組む余裕がなくなってしまったのです。

また、疲れからイライラして家族に八つ当たりすることも多くなり、不機嫌なままゲームやYouTubeなどに没頭。私は電子機器依存になることを恐れ、口うるさく言ってしまうのですが、そうすればするほど、子どもはさらに依存していきました。

私は電子機器依存になることを恐れ、口うるさく言ってしまうのですが、そうすればするほど、子どもはさらに依存していきました。

電子機器を取り上げたことで、何度か殴られてケガをしたこともあります。もともとは優しい性格の子なので、ケガをさせた後にハッと我に返り、私のケガを手当してくれるのですが、そのおかげで息子は包帯を巻くのが上手くなりました。

息子が不登校になったことで、夫からは「お前の育て方が悪いからだ」と責められました。また、夫は「不登校になるような弱い子は社会に出たらやっていけない」「いい大学に行かなければ、いい会社に入れないのに、本当に要領が悪いな」と、息子のことも責めました。不登校になったわが子を受け入れられない夫はずっと不機嫌で、私や息子に暴言を吐くことも多く、本気で離婚を考えるようになりました。

そんな中、「家族のために、私が出来ることはないか」を自問自答していると、突然私の頭に、息子と夫の笑顔が浮かんできました。そして、「この笑顔をもう一度取り戻したい!」「そのために本気で頑張ろう!」と思ったのです。

「学校行かなくていい」は本当?

不登校になると、よく「学校なんて行かなくてもいいよ」と言う人がいます。富永さん

不登校になると、よく「学校なんて行かなくてもいいよ」と言う人がいます。しかし、この言葉を安易に子どもへ伝えてしまうのはとても危険だと思います。なぜなら、「学校の価値」を下げてしまうからです。子どものためを思って言った言葉が、学校に登校することの優先順位を下げてしまいかねません。

子どもが登校できない時は、「学校に行く準備がまだ出来てないんだね。心や体が元気になったら、すぐにまた学校に通えるようになるよ」と言って、子どもの心に寄り添うようにしていました。

息子が元気に登校できるようになった頃、「遅刻や早退、欠席を繰り返しながら、どうして学校に通い続けることが出来たの?」と質問したことがあります。息子は「学校に行かなきゃっていう使命感だよ」と答えました。

人によって、いろいろな考え方があるかもしれません。ただ、わが家の場合は「学校なんて行かなくてもいいよ」という言葉を言わなかったことで、登校できるようになったと思っています。

 不登校の子に、親が出来ること

出口の見つからない日々の中、もがいた末に私がたどり着いたのは心理学でした。

出口の見つからない日々の中、もがいた末に私がたどり着いたのは心理学でした。わが子を幸せにしたいという思いから一心不乱に学び、子どもへの関わり方を変えたのです。そして、息子と同じか、それ以上に夫への関わり方も変えました。この経験を活かし、私はカウンセラーとなり、現在は不登校や行きしぶりの子どもに悩んでいる親御さんの相談にも乗っています。

心や体が弱っている子どもは「もう学校に行きたくない」「学校をやめたい」など、親が心配になるような言葉を口にします。しかし、それを真に受ける必要はありません。心身が回復すると、子どもは自然と学校に行きたくなります。元気になってから、本当はどうしたいのか、子ども自身が決めたらいいのです。

周りの大人は、「今はそう言っているけど、次の瞬間はどうなるか分からない」という、達観した感覚を持つことが大切だと思います。


後編では、富永さんがどのように子どもとの関わり方を変えたのかを聞いています。

文・取材:きずなネットよみもの編集部

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