6年間のひきこもり生活を経て、「こわか」(名古屋市子ども・若者総合相談センター)に出合い、今では仕事をしながら、ひとり暮らしをするNさん。出勤前に、こわかが運営する支援施設「若者シェアガレージ」に寄ってくれたNさんのこれまでを聞くインタビュー後編です。
ひきこもりからの第1歩
Nさん(写真左)と、相談員の小林さん(写真右)
――ひきこもり生活から動き出す際、こわかの相談員とどんな話をしたのですか?
仕事のことを主に相談していたのですが(前編参照)、仕事の話だけでなくて、昔好きだった昆虫採集の話もしました。そこからまた採集に行くようになり、今は週末に実家に戻り、父の車で一緒に出掛けています。卵を見つけて自分の部屋で育てて、ふ化させて標本にしています。
父とは、ひきこもりの時期には関係が冷え切っていました。当時、家に唯一あったリビングのパソコンを取り上げるというひどいことをされて。ゲームやアニメを見ていたパソコンだったので、これをきっかけに生理的嫌悪すら感じるようになりました。でも、関係を改善したい気持ちもあって。昆虫採集の趣味のおかげで、今はいい関係になれたのかなと思います。
――ひとり暮らしは昨年から始められたのですね
ひきこもっているころからずっとひとり暮らしをしたかったんです。その頃、自分は両親と離れた方がいい、1人になった方がいいと思っていました。今はそこまで両親と関係が悪いわけではないですが、仕事を続ける中で、周りの人が背中を押してくれて、実現しました。
やりたいことが生きる原動力に
――ほかに何か目標はありますか?
やりたいことリストを作っていて、やりたいことがたくさんあるんです。1つだけ挙げるとすると、スカイダイビング。バンジージャンプは何回か行ったので、いつかスカイダイビングをやりたいです。
すでに実現したこととしては、ICL(眼内コンタクトレンズ)の手術をしました。ずっと眼鏡をかけて生活しなければいけないのが面倒だったので、やれてよかったです。ただ、この手術でお金を使ってしまったので、またお金を貯めて、ほかの目標を順番にかなえていきたいですね。やりたいことが、生きる原動力になっています。
――気持ちを言葉にしたり、愚痴を言ったり、相談したりすることは出来るようになりましたか?
ひきこもりの時期から、ずっと両親には「感謝を伝えたい」と思っていたけど、出来ませんでした。なので、最初は、「ごめんなさい」「ありがとう」「いただきます」と言うところから始めました。これまでは人への相談、自己表現が出来なかったのが、悲しい、さみしい、怒っている、ということを言葉にしたり、徐々に自分の意見が言えるようになったりしました。
でも、またいつかひきこもることがあるかもしれない、と恐れている部分はあります。今はひとり暮らしだし、周りの人に頼っている部分も多いけれど、いつか自分でなんとかしなくちゃいけない時が来ると思います。
そのために、ストレス管理をするようにしています。何もしない時間や、白湯を飲む、15分の昼寝をするなどのルーティンを作っています。
――ひきこもりの期間は、Nさんにとってどんな経験だったのでしょうか?
後ろ向きにも前向きにも捉えてないのですが……。いったん社会から距離をとる時間でした。ひきこもりがあったから、「こうしなきゃいけない」「正社員じゃないとダメ」というところから離れられたのかなと思います。こうやって自分の経験を伝えられたら、もしかしたら少し前向きに考えられるのかな、と思ったりもしています。
最後に
取材が終わり、「体も細いんで震えがちなのもありますね」と、少しだけ緊張がゆるんだ様子のNさん。借り物ではない、等身大の言葉で語ってくれた様子がとても印象的でした。「シェアガレージ、助かるんでまた来ますね」と話して、仕事に向かって行きました。
名古屋市在住・在学の18歳~25歳が利用できる食料や生活物資の提供拠点。名古屋市の公的な事業で、企業や個人からの寄付も受け付けています。
https://cowaka.net/share-garage
名古屋市子ども・若者総合相談センター
名古屋市に住む0~39歳とその保護者を対象にしたなんでも相談窓口。不登校、家族関係、友人とのことや仕事のこと、一緒に考えたり、より専門的な窓口を一緒に探したりします。初回は予約が必要。
https://cowaka.net/