個人差はあるものの、一般的に反抗期は小学校高学年~高校生になるまでの時期といわれています。
声をかけても返事をしなかったり、いつも不機嫌そうにしていたり。怒鳴る、暴れる、家を飛び出る、部屋に引きこもる、といったこともあるかもしれません。
このような行動は、親にとっての反発・反抗と捉えられがちです。
ここでは、反抗期の子どもに何が起こっているのか、どう関わっていくべきかを、発達の面から解説していきます。
カウンセラー:いしづかみほ
反抗期は、子どもにとって必要な変化が起きている時期です。
ぶつかり合いやゴタゴタは、親である自分自身が成長し、愛を伝えるチャンスととらえてみましょう。
反抗期の子どもに起きていること
「反抗期」という言葉を、子どもの発達心理の研究家や専門家は使いません。
この時期を専門家たちは「思春期」と呼びます。
親にとって「反発」「反抗」と思われる行動をとっているから、その時期が「反抗期」と呼ばれてしまうのです。
たしかに、子どものためにと注意や心配をしたのに、無視・反発といった態度や突然の感情爆発が返ってくると、ショックですし腹も立ちますよね。
ただこれは、思春期特有の「情緒や行動が不安定になっている状態」で、反抗的に見えているだけということも少なくないものです。
本人もはっきりとは理由が分からず、気持ちが不安定になりがちな反抗期。
この時期、いったい子どもには何が起きているのでしょうか。
脳のホルモンバランスの変化
脳は、基本的には生命を維持するために作られた器官です。
脳の働きは成長に伴い変化します。
具体的には、生命維持や自己防衛を最優先にする原始的な反応を、状況を把握し理解する識別系のはたらきが抑えるようになります。
子どもの仕上げ歯磨きや耳かきを例に考えてみましょう。
幼児期に、仕上げ歯磨きや耳かきを拒絶する子も珍しくはないですよね。それは幼児期の自己防衛反応が強く出ていることが原因です。
成長とともに拒絶しなくなるのは、仕上げ歯磨きや耳かきに命の危険はないと理解し受け容れられるようになるためです。
けれど、思春期は脳のホルモンバランスが乱れるため(性ホルモンの影響と考えられています)、再び、自己防御反応などの原始的な反応が現れやすくなります。
原始的な反応をつかさどる部分が、冷静に物事を把握するはたらきの部分よりも活発に動くようになり、バランスが崩れるのです。
そのため、ちょっとしたことでも怒ったり泣いたり、興奮しやすくなります。
自我を確立するための葛藤
エリクソンの提唱した発達課題の観点からいうと、反抗期にあたるこの時期はアイデンティティを確立するタイミングと言われています。「自分とは何者か」「自分は何になりたいのか」「自分とは」ということを考える時期。この過程で葛藤が生まれ悩むわけです。
発達課題をクリアすることで自分自身の価値を感じ、アイデンティティを確立することができるようになると言われています。
家族以外の人との愛着形成
愛着とは、人と人との情緒的な結びつきのこと。
愛着形成とは、自分は大丈夫という自信と、世界は自分に反応してくれるという信頼が生まれ、その両方が確固たるものになることです。
クラスや部活動、習い事や塾、趣味や遊び友だちなど、関わる人や所属する集団が劇的に拡がる思春期は、家族以外の人との愛着形成の真っ最中です。
また、心の安全基地である母親をはじめとした家族のもとを離れても、他者からの承認が無くても、自信と信頼を失わずにいられる状態になるというプロセスの最中でもあります。
多様な価値観との出会い
人間関係が広がると、多くの情報と刺激を受け取る機会が増えます。そして、自分自身や自分の家族のことを客観的に見る力も育ってきます。
そのため、これまで当たり前だと思っていた価値観や判断基準、不文律(暗黙のルールのようなもの)が、実はわが家特有のものだったと気づくことにもつながります。
次章からは、反抗期の子どもへの具体的な対応策をご紹介します。
対応1:脳をクールダウンさせる
まず「子どもには必要な変化が起きている」と理解をしましょう。
子どものふるまいばかりに目が行くと、「反抗された」「何にも話してくれない」「自分の何が気に入らないのかしら」という思いが先行しがちです。
しかし、お子さんは不安定極まりない成長の真っただ中にいるということを忘れないでください。
実は私たち大人の脳も、そうした子どもの状態に呼応して、原始的な反応が強くなり、「反抗期やばい!」「即対応!即鎮圧!」と、過剰に警戒しがちな状態になります。
子どもをクールダウンさせる前に、まずは自分自身のクールダウンが必要と心得ましょう。
ここで言うクールダウンとは、感情を抑え込むことではありません。あくまでも、脳を落ち着かせることです。
脳を落ち着かせるには、日頃からクールダウンできる方法をいくつか見つけておくとよいでしょう。音楽を聴く、一定のリズムで身体を動かす、アロマを嗅ぐなど、それぞれに合ったクールダウンの方法があるはずです。
子どもをクールダウンさせるには、本人の受け入れられる強さで身体全体に圧をかけることもおすすめです。これを、圧迫刺激といいます。
中高生ともなると、ハグをして落ち着かせるというのはなかなか難しいかもしれません。大きめのクッションをぎゅうっと抱きしめる、などでも圧迫刺激を入れることはできます。ぜひ、トライしてみてください。
対応2:感情を名付ける&手放す
脳をクールダウンしたところで、わたしたちの感情はどうしたらよいのでしょうか。
ネガティブな感情にしろ、ポジティブな感情にしろ、感情を持つことそれ自体には問題ありません。
むしろ湧いてきた感情を積極的に感じることはとても大切です。
感情が湧いてくるには、なんらかの原因があります。その原因を解消しないまま湧いてきた感情だけ抑え込んでも、なんの解決にもならないのです。
積極的に感じるには、その感情を言葉にする、つまり「名付ける」ことをしてみてください。
脳の原始的な反応に名前を付けると、識別系のはたらきが活性化します。
また感情をしっかりと味わい、味わい切ったら手放しましょう。
「手放す」と意識することが大切です。
一般的にネガティブと認定されている感情は、抑え込まれがちです。
感情を抑え込むことは、長い目で見てあまりよいことではありません。
例えば、人から不快なことを言われて腹を立てているのに、顔では笑って受け流す…
泣きたい気持ちなのになんでもないふりをする…、など。
このようなことが癖になると、自分の本当の感情がわかりにくくなっていきます。一時的には問題を乗り越えたよう見えるかもしれません。しかし、うれしさや楽しさが実感できなくなったり、不安や苦しさといったSOSがキャッチしにくくなったりなどの問題が出てくることもあります。
感情は、抑え込まずに積極的に感じ、その都度手放していきましょう。
対応3:当たり前を褒める
脳と感情については以上のような方法を試していただけるとよいと思います。
では、行動についてはどんなアプローチができるでしょうか?
反抗期の子どもへの対応として大切なのは、できている行動の方にも目を向ける、ということです。
子どもの行動を、
- ①今できている好ましい行動
- ②減らしたい好ましくない行動
- ③してはいけない行動
にわけてみましょう。
小さい頃にはできなかったけれど、今できるようになっていることはどのくらいありますか?毎日やっていること、身についているがゆえに当たり前判定されているいい行いは、どのくらいあるでしょうか。
一方、②や③のような、私たち親自身にとって受け容れ難い行動はどのくらいありますか?命を危険にさらすような行動はないでしょうか。
こうして分類してみると、中高生のわが子に対しては、どうしても②や③に当てはまる行動に目が行きがちになっていることに気づくはずです。
①に分類される、褒めていなかった、認めていなかった子どもの良い行いは、思うよりもずっとたくさんあるのではないでしょうか。
挨拶ができる、身支度を自分で整えられる、お風呂も一人で入るし食事の介助も必要ありません。家事を手伝ってくれることもあるでしょうし、買い物に行ってくれることもあるでしょう。
毎日の当たり前にできているたくさんのことの中に、反抗的なふるまいや親の気持ちがざらつくような態度が入り込んでくると、それはとても目につくもの。
どうしても、注意したりたしなめたりすることの方が多くなります。
自分の目線の置きどころを、改めて見直してみてください。
そして、できていることは褒めましょう。私たちにとってうれしいことをしてくれたら感謝を言葉にして伝えましょう。
対応4:自分を振り返る
つい最近のことですが、彼女にふられたという息子が、突然機嫌が悪くなったり、部屋の扉を閉ざしたりしていました。
「なんなのこれ、彼女とのことでイラついているのに、なんで私にとばっちり?」とも思い、私は不快な日々を送っていました。
けれど、自分の思春期のことを思い返してみて、彼への関わり方を変えることができたのです。
「自分もそうだった」と。
これは大事な気づきです。
誰とも話をしたくないのに我慢して学校へ行っていたなぁとか、泣きそうなのを隠して普通の顔をして家族と夕食を食べていたなぁとか。
そうして、私は彼のその状態を受け容れることにしました。すると、葛藤したり自己嫌悪に陥ったりすることに時間を使う彼を、許そうと思えるようになったのです。
八つ当たりされた時には、「私は怒られる筋合いはない」ときっぱり伝えます。
一方で、子どもには、感情を味わい癒えるまでの猶予が必要なのも事実です。それは、私たち大人であっても同じこと。いつも機嫌のいい状態を保つなんて、大人でも難しいことではないでしょうか。
最後に
ぶつかり合いやゴタゴタは、愛を自覚し、相手に伝えるチャンスです。
「あなたがどんな状態でも、愛しているからね」と。
子どもとのコミュニケーションは、反抗的な態度をやめさせるためや、思い通りの反応を引き出すためではないはずです。
コミュニケーションの本当の目的は、相手を知ること、自分を知ってもらうこと。
この機会に、久しぶりに子どもに「好きだよ」「愛してるよ」と伝えられたという親御さんも、たくさんいらっしゃいますよ。
文:いしづかみほ
大手進学塾の講師を経て、不登校、発達症、虐待とネグレクト、愛着障害等々の教育相談と学習指導、カウンセリングを20年にわたり行ってきた。漫画家。イラストレーター。カウンセラーでセラピスト。
著書「マンガでわかる!発達症との向き合い方」(impress Quick Books)