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全身の健康にも影響をおよぼすといわれるお口のトラブル。これまで当たり前だと思っていたことが、実は「逆効果だった」「意味がなかった」とういうケースもあるかもしれません。
そこで今回は、歯の磨き方や生活習慣などの口腔ケアについて、歯科医師の三谷章雄さんに聞きました。何となく信じていた情報や思い込みを取り除き、正しい口腔ケアの習慣を身につけましょう。

愛知学院大学歯学部附属病院病院長・歯周病科部長
歯科医師・三谷章雄さん
歯ブラシで落ちる汚れは6割
日々の口腔ケアの代表格といえば、歯ブラシによる歯磨きです。しかし歯ブラシを使ってどれだけ頑張って磨いても、歯間の汚れをすべて除去することは不可能です。ある調査では、歯ブラシのみで歯を磨いた場合、61.2%しか歯垢を落とせないということが確認されています。
歯磨きは回数よりも時間重視
1日の歯磨きの回数は多ければ多いほど良いと思われがち。しかし実際には、1日に磨く回数よりも、1回あたりの歯磨きにかける時間の長さが重要です。
例えば、1日に5回磨いたとしても、1回あたりの時間が短ければ歯垢は落ちません。歯磨きは1日の回数を増やすことよりも、1回に時間をかけてすみずみまで行き届くように磨くことを意識しましょう。
歯磨きのステップとしては、まず歯間ブラシやデンタルフロスで歯と歯の間を磨き、その後、歯ブラシを使います。ブラッシングの時は、歯ブラシを細かく振動させるようなつもりで、1カ所あたり20回以上歯ブラシを動かして磨くことがおすすめです。
月に1度は歯ブラシを交換
毛先が乱れた古い歯ブラシを使い続けていると、どれほど丁寧に歯磨きをしたとしても、磨き残しが生じてしまいます。また歯ブラシは、流水で洗った後、水気をしっかり切らないと細菌がどんどん増殖してしまうことになります。
1カ月以上使い続けた歯ブラシは、雑菌の温床ともいえる状態になります。最低でも1カ月に1度は、新品に取り換えましょう。
就寝前は時間をかけて丁寧に
朝、起きた時に感じる口の中のネバつき。原因となる口の中の細菌は、唾液の分泌によってコントロールされています。寝ている間は、起きている時より唾液の量が減ってしまうため、口内細胞が繁殖しやすい状態になり朝の不快感につながるのです。
夜寝る前には、しっかりと時間をかけてすみずみまで歯磨きすることを心がけましょう。
よく噛む&舌回しで唾液を分泌
唾液には、歯垢を洗い流す自浄作用をはじめ、口の中の細菌の増殖を抑える抗菌作用、歯を修復する再石灰化作用があります。さらに唾液に含まれる抗炎症成分が、歯周炎や歯肉炎の炎症を抑えるなどさまざまな効果があります。
口腔ケアにとって重要な鍵を握る唾液。その分泌量を増やすためには、よく噛んで食べることに加え、ストレスや疲れを溜めないことも大切です。唾液の分泌は自律神経の影響を受けるため、ストレスを感じた時に分泌量は減り、口内細菌が増殖しやすい環境になってしまいます。
緊張やストレスによって口の中が乾いていると感じたら、唾液の分泌を促す唾液腺マッサージや舌回しがおすすめです。
いい唾液を出すための「舌回し」
① 口を閉じ、舌先で上下の歯茎の表面をなぞるように一周させる
② 1周2秒ほどかけて、右回りに10回、左回りに10回する
※舌で歯を触った際にとがった感触を感じる場合は、舌への過度な刺激になるためおすすめ出来ません
鼻呼吸を意識して
口の中の乾燥を招くもう1つの要因が口呼吸です。口呼吸をしていると、口内が乾燥して唾液の分泌量が減ってしまいます。唾液の分泌量の減少は、自浄作用や殺菌効果を低下させ、虫歯や歯周病になりやすくなったり、口臭が強くなったりということにもつながります。また歯の表面も乾燥しやすくなるので、汚れがつきやすいうえ、落ちにくくなります。
口呼吸になっている人は、口を閉じる筋肉を鍛えて鼻呼吸を意識するようにしましょう。
最後に
今回は、効果的な口腔ケアのために知っておきたい知識をご紹介しました。日々の習慣を見直したり、口腔ケアのステップに取り入れたり。ぜひ、新しい口腔ケア習慣として実践してみてください。
イラスト:すぎやまえみこ/文:花野静恵
この記事は「ケリー2024年3月号」(ゲイン刊)に掲載された記事をもとにしています。掲載内容は取材時のものです。