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2024年のノーベル化学賞に、イギリスの化学者デミス・ハサビスさんたち3人が選ばれました。タンパク質の仕組みを予測する人工知能(AI)の研究が認められたのです。実はハサビスさんは、世界最強の棋士に勝った囲碁AI「アルファ碁」を開発したことでも知られています。囲碁は、研究にどう役立ったのでしょうか。
強豪棋士に圧勝
アルファ碁は、ハサビスさんが率いる会社「ディープマインド」が開発。2016年3月、当時世界最強の棋士の1人だった韓国のイ・セドルさんと対戦しました。
当時、チェスや将棋といったボードゲームではコンピューターが人間に勝つようになった一方、囲碁で人間に勝つには「まだ10年かかる」と言われていました。囲碁は碁石の置き方が膨大にあり、なんとその数は10の360乗以上。「1兆」は10の12乗だと考えれば、その果てしなさが分かります。複雑な展開のパターンをコンピューターが処理するのは難しく、対戦前はイさんが勝つだろうという予想の方が多数でした。
しかし結果は4勝1敗でイさんを圧倒。世界に衝撃を与えました。アルファ碁の強さの秘密は、AIが自分で学習して判断の能力を高める「ディープラーニング(深層学習)」という技術でした。対戦すればするほど、その結果を学んで、より最善とされる手を予測するようになり、強くなっていったのです。イさんは最終戦の後、「人間とはあまりにも違う。仮に再戦しても勝てるかどうか分からない」と語りました。
タンパク質に応用
アルファ碁が「世界一」を成し遂げた後、ディープマインド社が注目したのは、人間の体をつくるタンパク質。ハサビスさんは、アルファ碁の開発で獲得した技術を、医療の研究に役立てようと考えました。
タンパク質の構造は複雑で、ひものように連なったアミノ酸が折り畳まれて出来ています。その構造を調べるには、とても時間がかかっていました。ディープマインド社が開発したAIを使ったソフトウエア「アルファフォールド2」は、タンパク質の構造を、ほぼ正確に予測できるようになりました。新しい薬をつくったり、病気の原因を究明したりする研究スピードが速まるのではと期待されています。
AI発展の「種」
囲碁とAIの関係に詳しい棋士の王銘琬(おう・めいえん)さんは、「囲碁という土にまかれたAIの種が今、花を咲かせた」と、今回のハサビスさんの受賞を喜びます。「アルファ碁が人間に勝ったことで、AIを使った科学は飛躍的に発展しています。囲碁というシンプルなゲームが、世界の進歩とつながっていることを知ってもらえたらうれしいですね」と話します。
この記事は「中日こどもウイークリー」で2024年11月9日に掲載された記事を転載しています。