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2024年のノーベル文学賞に、韓国の作家ハン・ガンさんが選ばれました。アジアの女性では初めてです。ハンさんの作品は子ども向けではありませんが、多くの小説が日本語にも翻訳され、読まれてきました。
アジアの女性で初の受賞
ハンさんは1970年、韓国南西部の光州生まれ。93年に詩の作品が季刊誌に、94年には短編小説が新聞に掲載され、作家としてデビューしました。2016年にはイギリスの文学賞である「国際ブッカー賞」を、アジアの作家として初めて受賞するなど、海外でも高い評価を受けてきました。
日本の植民地支配をへて独立した韓国では、戦後しばらく、軍事政権下で自由な政治活動が許されない時代が続きました。ハンさんはここ数年、そんな時代に苦しみ、犠牲になった人たちを題材に、小説を書いてきました。
悲しい歴史を題材に
2014年に出た小説「少年が来る」は、故郷の光州で起こった「光州事件」で犠牲になった中学生の少年をめぐる物語。光州事件とは、1980年5月に韓国の光州市で発生した事件のことです。民主化を求める市民や大学生らと軍が衝突し、160人以上が亡くなりました。この事件は後に、韓国が民主化を実現する原動力となりました。
事件の数カ月前に光州からソウルに引っ越したハンさんは、事件を直接知りません。事件に関する膨大な資料を読み、人々にどんな痛みを残したのか、作品で表現しました。
最新作の「別れを告げない」(白水社)では、1948年に韓国南部の島、済州島で起きた「済州4・3事件」という悲しいできごとを扱いました。当時の島の人口27万人のうちおよそ1割が、軍や警察により殺されたと考えられています。「戦後の韓国には何でもない人たちが苦しみを味わってきた歴史がある」と話すのは、この小説をはじめ、ハンさんの作品の翻訳を数多く手がけてきた斎藤真理子さん。その魅力を、「痛みだけでなく、人間の情や温かさが同時に交わり、感じられるところ」と教えてくれました。
ますます注目の「K文学」
近年、韓国のポピュラー音楽「K―POP」が若者に大流行。「K文学」と呼ばれる現代の韓国文学にも注目が集まっていて、ハンさんの受賞でますます人気が出そうです。
多くの作品が、社会問題を扱うK文学。斎藤さんは今年8月、10代以上の読者を対象に、韓国文学を通して気づいた隣の国の文化や言葉の奥深さ、面白さを「隣の国の人々と出会う」(創元社)という本にまとめました。
「海外小説といえばアメリカ、ヨーロッパが中心だけど、韓国などアジアの作家たちがどんなことを書いているのかも、興味をもってくれたらうれしい」と斎藤さん。「今を生きる作家の作品は、頭の中の地図をぐっと広げてくれるはずです」と話します。
この記事は「中日こどもウイークリー」で2024年12月21日に掲載された記事を転載しています。