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命の尊さを伝える助産師・内田美智子さんの講演を聞く機会がありました。内田さんは子どもたちに向け、こう訴えます。
「お母さんは命がけであなたたちを産んだの。だから、他の誰かのことをいじめないで。自ら死を選ばないで! 命が大切なんじゃない。あなたのことが大切なの」
多くの女性たちは出産の痛みに耐えて母となり、本当の強さを身につけていくように思います。今回は、そんな女性たちの強さを実感する、「大丈夫」という言葉にまつわるエピソードをご紹介します。

一般社団法人シヅクリ 代表 山下由修(やました・よしのぶ)
静岡市内の小・中学校で勤務した後、市立清水江尻小学校の校長として、県内初のコミュニティースクールを創設、運営。また、市立大里中学校の校長を務めながら、フレックスタイム制の導入や校内フリースクールの開設、プロジェクト型の校内組織運営などに着手 。2019年、一般社団法人シヅクリを創設し、静岡を拠点に、人材育成に取り組んでいる。
相手の強さを引き出す「大丈夫」
「目が覚めたら生きていた。窓を開けたら美味しい空気が吸える。結婚して子どもが生まれた。子どもがすくすくと育っている……。これを当たり前と思ったら大間違いです。世の中に当たり前のことはたった1つしかないんです。それは、生まれてきた全ての命に必ず終わりがあるということ。それだけが当たり前で、それ以外は全て奇跡なんです」
たくさんの命の誕生に立ち会ってきたからこそ分かる、生きていることの素晴らしさを助産師の内田さんは講演の中でこう話していました。
私が以前、公立学校に勤務していた時、ある事件が起きました。ことの詳細は書けませんが、思いもよらない出来事に校内は大騒ぎとなり、ただただうろたえている自分がいました。
大混乱の中で1人の養護教諭のとった行動が、今も脳裏から離れません。彼女は泣きじゃくる子どもたち1人ひとりを抱きしめ、「大丈夫」と声を掛けていました。彼女の「大丈夫」という言葉にピタっと泣き止み、ぎゅっと口を結んだ子どもたち。今でもその姿がよみがえってきます。
私自身、どう振る舞えばいいのか分からなくなっていた状況でしたが、彼女の「大丈夫」という言葉を聞いて、すっと心が軽くなり、落ち着いたのを覚えています。今になって考えてみると、あの時の彼女は、目の前の事態について「大丈夫」と言っていたのではありません。きっと子どもたちに対して、「あなたは大丈夫」と言っていたのでしょう。
悲惨な状況に直面した時、不安にさいなまれながらも、私たちは心のどこかに「自分は大丈夫」という確信を持っているのだと思います。それが生きていくということであり、強さなのかもしれません。彼女は、そんな1人ひとりの持つ強さに働きかけていたのです。
そして、彼女の「あなたは大丈夫」という言葉によって、人間の強さが引き出され、子どもたちも、私も、我に返ることが出来たのだと思います。
人生をつむぐ「大丈夫」
小さな子どもが転んで怪我をした時、真っ先に探すのは、お父さんやお母さんなど自分を守ってくれる大人ではないでしょうか。そして、待っているのはその人からの「大丈夫」という言葉です。子どもはその言葉を聞いたとたんに泣き出しますが、痛くて泣き出すのではありません。大人から言われた「大丈夫」の言葉を聞いて、安心して泣き出すのです。
私も子どもの頃は、「大丈夫」の言葉に支えられてきたように思います。
いつだったか母に「人生の中で戻りたいと思う時期はいつ?」と聞いたことがありました。母は迷わず「あなたが生まれ、お乳をあげていた時かなあ。あの頃が1番幸せだったよ」とつぶやきました。
先日、その母が倒れました。目を開けた母が口にした言葉は「私は大丈夫」でした。そして、母は、私に向かって「あなたは大丈夫」と続けました。
私は今まで、母の「大丈夫」に、どれだけ勇気をもらってきたのでしょうか。母の「大丈夫」に、どれだけ支えられてきたのでしょうか。
今度は私が母に「大丈夫」という言葉を返さなければならない時が来たような気がしました。
文:山下由修
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