バレーボール女子日本代表として、4回のオリンピックに出場し、2021年に現役を引退した荒木絵里香さん。トップアスリートとして第一線で活躍しながら、2014年には長女を出産し、競技と子育てを両立してきた「ママアスリート」でもあります。そんな荒木さんに家族のことやキャリアについて、お話を聞きました。
荒木絵里香（あらき・えりか）さん
1984年生まれ、岡山県出身。北京、ロンドン、リオデジャネイロ、東京と4大会連続でオリンピックに出場。ロンドンオリンピックではキャプテンとして銅メダル獲得に貢献し、東京オリンピック後の2021年に現役引退。現在は、女子バレーボールチーム「クインシーズ刈谷」のチームコーディネーターや日本オリンピック委員会（JOC）理事、バレーボール解説者など、幅広く活躍している。
家を出る時は笑顔で
――娘さんが生まれてから、リオデジャネイロ、東京と2回のオリンピックに出場し、まさに「ママアスリート」としての道を切り拓いてきましたね。
私の場合、近くに住む私の母親もサポートしてくれ、本当に恵まれていました。チームも最大限の環境を整えてくれて、「そんな環境があるならやり切りたい」「やるとなったら、選手としても、ママとしても、責任を果たしたい」と、夢中でしたね。
ただ、遠征などで娘と離れなくてはならない時は、やっぱり胸が痛みました。そんな時でも意識していたのは、娘の前では笑顔でいること。嫌そうな顔で出掛けて行ったり、「疲れた」「行きたくない」なんて言ったりするのは絶対にやめようと決めていたんです。私は、真剣にバレーに取り組んできたし、娘にも「仕事は楽しいものだ」と思ってもらいたくて、常に笑顔を意識していました。
――そんな荒木さんの姿を見た選手たちも、「ママになっても、競技を続けられる」と影響を受けたのではないでしょうか？
かつてチームメイトだった岩崎こよみ選手が出産後、復帰し、2024年のパリオリンピックに出場しました。当時、私がまだ幼かった娘を連れて練習に参加している様子を見て、「私も子どもが生まれたら、そうしたい」と言ってくれていたんですよね。数年経って、それを実現した彼女の姿を見て、とても感慨深かったです。最近は、バレーボール以外の競技の選手たちから相談を受けることも増えました。
アスリートを支える活動も
――現在は、子どもを持ったり、子どもを持つことを希望したりするアスリートや競技関係者を支える一般社団法人「MAN（マン）」の代表理事としても活動されていますね。
MANは「アスリートであり、親である」という2つの顔を持ったアスリートたちが中心となり、情報発信やネットワークづくりを行っている団体です。
まだ日本には「スポーツ選手はこうでなければいけない」というステレオタイプが残っていると感じています。おしゃれを我慢したり、すべての時間を練習に捧げたり、もちろんそれが間違っているとは言いません。ただ、かつてイタリアのチームでプレーしていた時、選手をしながら大学に通って研究をしたり、自分の会社を起業したり、副業でモデルをしていたり、子どもを育てている選手もいました。
そんな姿を見て、「いろいろな生き方があって、バレーは人生の一部でしかないんだ」と刺激を受けました。だから、今の若い選手たちには、選手としての生活だけでなく、「1人の人間として、この先どう生きてきたいのか」を大切にしてもらいたいですし、考えてもらえるようなきっかけづくりをしています。
そして、私自身も経験がありますが、「スケジュール管理ってどうしてる？」とか、「コンディションを保つのが難しくて……」とか、誰かに話を聞いてもらうだけで、気持ちが軽くなることってあると思うんです。そんな場をつくれたらとも思っています。
現役時代の夢、大学院進学を実現
――大学院にも進学されたと聞きましたが、どのような思いがあったのでしょうか？
2022年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学し、大学院生としてバレーボールの「ブロック」の研究に取り組みました。
実は高校卒業後、大学に進学したいと思っていたんです。しかし、父親の「大学はいつでも行けるから」という言葉があり、実業団に入りました。だから、現役時代は「引退したらまず大学院に行きたい」という思いをずっと持っていたんです。
引退した半年後に修士課程1年制コースへ入学。ずっとバレーボールしかしてこなかった私には、全てが初めての経験で、「やっと引退したのに、何でこんなに大変なことをしているんだろう！」と後悔したこともありました（笑）。
初めて触るPowerPointで資料を作って、みんなの前で発表して、家に帰ってからも課題に取り組む日々。それでも周りのサポートもあって、自分が選手時代に最も熱心に取り組んできたブロックについて調査・研究し、論文にまとめることが出来ました。これからは選手時代や大学院で得た経験や知識を、現役の選手やバレーボール界を盛り上げるために使っていきたい。私自身、本当にたくさんの人たちに支えてもらってきたので、今度はその恩返しをしたいと思っています。
仕事と家庭、それぞれの目指す形
――現在のチームコーディネーターとしての仕事について教えてください。
「クインシーズ刈谷」のチームコーディネーターとして、チームの強化や広報、選手へのアドバイス、社会貢献活動など、幅広く関わっています。
スタッフとしてチームに関わることで、若い選手たちのメンタル面のサポートをしたり、「どうしたら、もっとお客さんが見に来てくれるだろう？」と考えたり、客観的な目線でチームを見られるようになりました。チームだけでなく、バレーボールというスポーツの魅力をたくさんの人に伝えていきたいですし、MANでの活動など、アスリート1人1人の人生を応援するような取り組みもしていきたいですね。
もちろん、娘と過ごす時間も大切です。いろいろな人から、「頑張っていますね」「毎日、忙しいでしょう？」と言っていただくのですが、決して私だけが大変なわけではなく、会社勤めをして毎日働いているママも、主婦として家族を支えるママも、世の中のママたちは本当によく頑張っていると思います。
――きずなネットを利用しているママたちへのメッセージがあれば、お願いします。
私の場合、たまたまバレーボール選手という仕事をしていただけで、みんなそれぞれの立場で大変なことや悩みがあると思います。私もどちらかと言うと、夢中になって突っ走るタイプですが、「家族のため」とあまり無理をし過ぎず、時には自分を甘やかしてあげてくださいね。
取材・文：きずなネットよみものWeb編集部
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