【不登校のリアル】体験した親だから分かる、子どもとの関わり方<後編>

【不登校のリアル】体験した親だから分かる、子どもとの関わり方<後編>

もし自分の子が不登校になったら、親はどう向き合えばいいのでしょうか。お子さんの不登校と行きしぶりに悩み、現在はこの経験を活かして、心理カウンセラーとして活動する富永愛梨さん。

インタビュー後編では、富永さん自身がどのように子どもとの関わってきたのか、特に最も大事にしていたという声掛けについて聞きました。

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富永さん

富永愛梨(とみなが・えり)さん

心理カウンセラー・NLP上級スキルマスター。不登校だった息子の心と体を回復させたい一心で、NLP心理学を学ぶ。現在は不登校や行きしぶりに悩む親子の支援を行っており、のべ3000人を超えるサポート実績を持つ。著書に「不登校の子が元気になる言葉 つらくなる言葉」(青春出版社)

不登校のゴールは?

子どもが不登校になった時、「再び元気に登校すること」がゴールではありません。

子どもが不登校になった時、「再び元気に登校すること」がゴールではありません。ゴールは、「子どもが自立すること」。登校することばかりに目を向けるのではなく、その先にある自立のために必要な力を身に付けることが大切なのです。

私は心理学を学んだことをきっかけに、子どもとの関わり方を変えました。その時に大切にしていたことを紹介します。

不登校の子は「ガス欠車」

富永さん富永さん

車に例えると、不登校の子はガス欠によって動けなくなってしまった状態。長年強いストレスを受け続けて、かなり燃費の悪い状態になっているのが「行きしぶり」や「五月雨登校」といわれる状態だと思います。

学校に行くだけでもエネルギーをたくさん使い、ガソリンタンクに穴でも開いているんじゃないかと思うほど燃費が悪く、すぐにガス欠を起こしてしまいます。つまり、限界ギリギリで何とか動いているような状態です。

私は不登校になった息子に対して、「認める」「ねぎらう」「ほめる」ことを意識して、エネルギーを注いであげました。息子が元気になるような言葉をかけ、燃費の悪い車を燃費のいい車にバージョンアップさせていくようなイメージです。

私が息子にかけていた言葉の一例を紹介します。

認める・ねぎらう・ほめる

 認める

まずは息子の言っていることを否定する口癖をやめました。

■例)学校に行っていないのに、「友達とボーリングに行っていい?」と言われた時

言ってしまいがちな言葉
「ダメ! 学校に行ってないのにいいわけないでしょ!」
元気になる言葉
「いいね! 楽しそうなアイデア思いついたね。それをやる時に何か問題点ってある?」

やりたいと言ったことに対して、頭ごなしに否定してしまうと、子どもは「やることなすこと否定される」と受け取ります。

また、大人であれば、子どもの話を聞きながら、自身の経験や価値観と比べてしまうことがあると思います。しかし、そうすると、子どもは親の言葉や表情から「自分を認めてくれていない」と察します。だから、まずは子どもの価値観を尊重し、「どんなことを考えているのかな?」「どんなことに興味を持っているのかな?」と好奇心を持って聞くようにしてください。

例えば普段から、口癖を「いいね!」に変えるだけでも、子どもの発言を肯定できるようになるのでおすすめです。

アドバイスをしたい時は、「それ、いいね! さらに〇〇したらもっとよくなるかもしれないよ」と、子どもの考えを肯定してから伝えたり、「それをやる時に何か問題点ってある?」と、子ども自身で問題点に気づけるような質問をしたりしました。

 ねぎらう

子どもの頑張りを尊重し、「ねぎらう」ことを意識しました。

■例)クラスメイトから変な目で見られたり、嫌味を言われたりしている時

言ってしまいがちな言葉
「気にしすぎだよ! そんな子は相手にしなければいいのよ」
元気になる言葉
「そんな中でも学校に行けるなんて、なかなか出来ることじゃないよ。本当によく頑張っているね」

遅刻や欠席を繰り返していると「またズルしてる」「サボり魔!」などと、クラスメイトからの心無い言葉に傷ついて帰ってくることもあります。一度、レールから外れてしまった子がまた学校に通うようになるのは、とてもエネルギーのいること。大人でもアウェーな場所に行くのは怖いですよね。勇気を出して学校に行っても、心が折れることの連続だと本当に大変です。

それくらい偉大なチャレンジをしている子どもに対して、「本当によく頑張っているね」と、ねぎらってあげてください。

ほめる

「ほめる」と言っても、やみくもに「すごい!」と言うのではなく、子どもの「出来たこと」に着目し、子どもの「出来る力」を見つけることを意識します。

■例)長時間ゲームに夢中になっている時

言ってしまいがちな言葉
「ゲームばっかりしていたら依存症になっちゃうよ! 脳にも悪影響なの分かってるの?」
元気になる言葉
「ゲームの時間を自分でコントロールする力があるね」

子どもがゲームばかりしていると、親はつい心配になり、脅すような発言をしてしまいます。しかし、このようなことを言うと「ゲームばかりしていると頭がおかしくなる」「自分はゲーム依存症なんだ」と、子どもに恐怖心を植え付けかねません。

ゲームが大好きなのに、大好きなものを否定されてしまったらとても悲しいですよね。ましてや、友達と楽しくゲームをしている時に、横からあれこれ言われたら楽しさも半減してしまいます。

ゲームをしている時は口を出さず、ゲームが終わった時に「ゲームの時間を自分でコントロールする力があるね」と子どもに伝えましょう。そうすることで、ゲームのプレー時間を意識させることが出来ます。それによって、子どもの自信にもつながります。

このような声掛けをしてきた結果、息子は大学受験の勉強に集中する際、夢中だったゲームやスマホを自分から「封印」することを決めました。そして、「僕は、ゲームやスマホをコントロールする力があるから」と言い、電子機器を箱に納め、自ら「封印式」をしていました。

相手に寄り添い、信じること

車の運転や大学生活を楽しむ息子さん車の運転や大学生活を楽しむ息子さん

子どもは子どものペースで成長しています。正直、親としてはもどかしい気持ちになる時もあります。そんな時、私は心の中でいつも「子どものペースがいいペース」とつぶやいていました。他人のペースに合わせて行動するのは、大人だって大変ですよね。

夫に対しても同様です。息子が不登校で一番苦しんでいた頃、家族に対して暴言を吐いていた夫は、当時仕事でかなりストレスを抱えている状態でした。夫のストレスをケアしてあげることが、遠回りのように見えて、結果として子どもを守る近道になります。ストレス症状が和らぐと、夫は家族のことを大切にし、息子と笑顔で接することが出来るようになりました。

最後に

私のこの経験は、「不登校の子が元気になる言葉 つらくなる言葉」(青春出版社)という1冊の本にまとめました。本を出版することは私にとって大きなチャレンジ。それに対して、息子も夫も応援してくれて、息子は本の終わりに「特別寄稿」として、当時の気持ちを書いてくれています。夫は「妻が本を出版した」と言って、職場の同僚に宣伝してくれているようです。

子育てをしていると、今までの人生で味わったことがないほどイライラしたり、不安になったりしますよね。それほどの感情を味わえるということは、愛情深くて素敵な親御さんだからこそです。そんな自分のことも、しっかり「認める」「ねぎらう」「ほめる」ことを忘れないでください。

あきらめない限り、試練は乗り越えられます。そして、家族の絆を深めるきっかけにもなるはずです。不器用な私の経験が、今苦しんでいる方々の小さな灯火になったらうれしいです。

文・取材:きずなネットよみもの編集部

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