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ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、まもなく3年。世界には戦争で今も傷つき、苦しんでいる人が大勢います。ポルトガル人のアンドレ・レトリアさん(51)はそんな戦争の恐ろしい姿を、父親のジョゼさん(73)とともに絵本にしました。
「戦争は、何も聞かない」
ページをめくるごとに、虫のような、水生生物のような、黒い不気味な生きものが、はいずりながら進んでいきます。やがて空を飛び、街を照らす光を奪っていきます。
「戦争は、」(岩波書店、木下眞穂訳)という絵本には、明るい色がほとんど使われていません。そして悲しんだり、傷ついたりした人の姿も見当たりません。絵を描いたのは、イラストレーターで児童書出版社を運営しているアンドレさん。「暴力をそのまま描いた作品にしたくなかった。描いていないことに、違和感を持ってもらいたかった」と狙いを明かします。
〈戦争は、憎しみ、野心、恨みを糧(かて)とする〉〈戦争は、何も聞かない、何も見ない、何も感じない〉〈戦争は、痛みの機械だ〉――。
詩人、作家、ジャーナリストでもある父親のジョゼさんは、アンドレさんの描いた絵に、「戦争は、」という言葉から始まる文を添えました。アンドレさんは、「父には、絵に描かれていることを説明するのではなく、感じたことを書いてほしいとお願いしました」と振り返ります。
「間違った歴史 繰り返さない」
ポルトガルを含むヨーロッパの多くの国々では近年、ファシズムという危険な考え方に共感する人が増えているそうです。差別的な主張をする政党が、選挙でも一定の支持を集めるようになりました。かつてジョゼさんが書いた戦争に関する詩を読んだアンドレさんは、「間違った歴史を繰り返してはいけない」という思いから、親子で絵本を作ることにしました。
登場する政治家らしき人物の顔は、決して見えません。常に背中を向けているか、かぶとに似たマスクで顔を隠しています。「ファシズムの独裁者はそのままの自分を見せることができないのです。より強く見せて、うそをつかなくてはならないのです」
21言語に翻訳
ポルトガルでこの絵本が出版されたのは、2018年。それ以来、英語をはじめ21の言語に翻訳され、日本語版も2024年4月に出版されました。
ウクライナやパレスチナでは今も、多くの人が戦争や戦闘に巻き込まれて、亡くなり続けています。「まさに絵本の中で心配していたことが、現実になってしまった」とアンドレさん。「戦争には不安や絶望しかない、ということを子どもたちなりに受け止めてほしい。そして何年後かに、もう一度読み直してみてください」と話します。
この記事は「中日こどもウイークリー」で2025年2月15日に掲載された記事を転載しています。