子どもの心の問題と虐待支援の考え方【医師解説】

子どもの心の問題と虐待支援の考え方【医師解説】

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子どもの心の問題や虐待はどうして起こるのでしょうか。医学において、疾患は「素因(その病気にかかりやすい素質)」と「環境」の作用によって起こると言われます。今回は、子どもの心の問題と虐待支援の考え方について解説します。

小柳先生

長崎県立こども医療福祉センター所長・医療局長 小柳憲司(こやなぎ・けんし) 専門は小児科学、心身医学。長崎大学医学部・教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師なども務める。書籍 「白ひげ先生の幸せカルテ ココロちゃんの記録」 監修。

子どもの心の問題、素因と環境

感染症の場合、病原体が身体に入ってきても、病気を発症する人としない人がいます。病原体を受けた人の抵抗力が弱ければ発症しますし、強ければ発症せず、逆に病原体をやっつけてしまいます。つまり、どのような場合でも、1つの要因だけで病気が生じることはありません。

例えば、子どもが神経発達症(発達障害)の特性を持っていたとしましょう。発達特性は学校適応を危うくする大きな要因となります。しかし、だからといって神経発達症の子どもがすべて不登校になるわけではありません。学校内の子どもたち全体の雰囲気や先生方の受け入れ、子どもと担任の相性などによって、学校への行き渋りが強くなるかどうかが決まります。

この時の「素因」は「子ども自身の発達特性」を指し、「環境」は「学校での受け入れ体制」と言えます。ここでは学校を例に取り上げましたが、実は、環境の作用としてより大きく影響するのは家庭環境です。

家庭環境と子どもの心

子どもは基本、生まれた時から家庭の中で育てられ、家族との関わりの中で人間として成長していきます。

子どもは基本、生まれた時から家庭の中で育てられ、家族との関わりの中で人間として成長していきます。家族から愛情をもって育てられることで「自分は周囲から受け入れられる存在なのだ」という基本的な安心感を身につけます。そして、その安心感を元に子どもという集団に所属し、人間関係を広げ、さまざまな体験を通じて自己肯定感を高めていきます。

基本的な安心感や自己肯定感は、子どもが将来にわたって安定した人間関係を築く基礎となり、さまざまな困難をやり過ごすストレス耐性を高めるのです。

乳幼児期の子どもと家族の関係に問題があると、学童期・思春期以降の人間関係の形成に障害を及ぼしかねません。その最たる形が疾患としての「アタッチメント(愛着)障害」で、社会的問題としての「子ども虐待」だと言えるでしょう。

さまざまな形の虐待

子どもの虐待とは、保護してもらえる対象であるはずの大人から、子どもが暴言や暴力などを受けてしまうものです。分かりやすいのは、叩かれたり蹴られたりする「身体的虐待」ですが、大声で恫喝(どうかつ)されたり人格否定されたりする言葉をぶつけられる「心理的虐待」が、通報としては最も多いです。

家族から性暴力を受ける「性的虐待」は、表面化しづらいため統計上の件数は少ないのですが、実際にはかなり多いのではないかとされています。他にも、まともな食事を与えず、入浴も着替えもさせない、子どもの話を聞かないなど、養育を放棄している状況を「ネグレクト」といいます。

このような状態に置かれた子どもが、周囲の大人から守られている、受け入れられていると感じられるわけがありません。そのため、虐待を受けて育った子どもは、暴力を受けて亡くなる危険性だけでなく、将来にわたって周囲と安定した人間関係を築けなくなることが大きな問題なのです。

虐待死のニュースをみると「なんてひどい親だ」と感じるかもしれません。しかし、虐待したとされる親のほとんどは、自分自身も追い詰められて、つい子どもに手を出してしまったという場合が多いのです。

そして、家族が追い詰められる1つの要因が子どもの発達特性です。「子どもがすぐにパニックを起こす」「何度言っても同じことを繰り返す」「学校で問題ばかり起こす」などで対応に苦慮したり気持ちが荒んだりすることで、虐待につながってしまうケースも少なくありません。

虐待支援の考え方

家族全体にコミュニケーションの難しさがあり、地域で孤立しているため、誰にも相談できず、家の中での虐待を防ぎきれないということもあります。そういうケースでは、家族も発達特性を持っていることがしばしばあります。つまり、虐待は家族だけの問題ではなく、子ども自身の問題や、地域の関わり方、学校の対応など幅広い問題が関わっているため、単に「家族が悪い、家庭環境が悪い」というだけではまったく解決にはつながらないのです。

とはいえ、虐待が起きている場合、家族への関わりは必須です。家庭環境を整えるには、まずは家族の話をよく聞いて、何に苦しんでいるのか、どうしてこじれてしまっているのかを洗い出します。
できないことを無理強いしても何も変わりません。大切なのは「このようにしなさい」という指導ではなく「このような支援が受けられますよ」というアドバイスです。

子ども自身の発達特性にも問題がある場合には、学校に協力を仰ぎましょう。学習や学校生活における支援を検討してもらうことが、子どものストレスを緩和し、家庭での安定につながります。

家庭の経済状況が厳しい場合には、特別児童扶養手当や生活保護の受給を勧めるなど、経済的支援を行うことによって、子育ての心理的余裕につながります。

最後に

子どもの心の問題や虐待は、単一の原因では起こりません。どんなケースにおいても、現在の状況を形成する要因は複数あり、それらの要因自体も複雑に絡み合っています。そのことを理解し、単純な因果論に走らず、幅広い視野をもって考えるようにしましょう。


この記事は調剤関連業務やヘルスケア商品販売などのサービスを提供するユニスマイル運営のサイト「あつまれ!健康 薬と健康のひろば」掲載の記事を再編集し、転載したものです。

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