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梅雨の時季になると増える傘の出番。多くの人が利用する駅や電車で目立つ傘の忘れ物に、鉄道会社が頭を悩ませています。その大半が持ち主の元に戻らない現状を変えようと、人工知能(AI)の活用など、さまざまな工夫が行われています。
回収しても戻るのは2割
ずらりと並ぶ傘。名古屋鉄道(愛知県名古屋市、名鉄)の、愛知県と岐阜県内を走る電車と駅の構内で回収された忘れ物です。
名鉄では駅で3日間保管された後、愛知県東海市の太田川駅近くの忘れ物取扱所に集められます。遺失物法で定められたルールに沿って、最寄りの警察署に届けを出し、傘については、1カ月を過ぎるとリサイクル業者に引き渡されます。
忘れ物の中で最も多い傘が、2023年度に回収された数は約3万9000本。持ち主に返ったのはそのうちの20%にとどまりました。
AIで持ち主の元へ
持ち主の元に戻りやすくしようと、2023年7月、駅の利用者がスマートフォンなどを使って24時間どこからでも検索できる「名鉄チャットボットサービス」を始めました。駅員が駅に備えられたタブレット端末で忘れ物を撮影すると、画像の情報から人工知能(AI)が種類を判別。忘れ物を管理するシステムに登録され、利用者がその検索サービスですぐに捜せるという仕組みです。
今では1日平均250人が利用しています。名鉄のデジタル部門の担当者は「AIをもっと活用してサービスの幅を広げ、持ち主に確実に戻ることにつながれば」と意気込みます。
忘れ物市で再利用
一方、処分される傘を減らそうとする取り組みも。近畿日本鉄道(大阪市、近鉄)は、近鉄四日市駅(三重県)などを会場に「忘れ物市」を不定期で開いています。
保管する期間を過ぎた忘れ物のうち、職員がまだ使えそうな傘などを1点ずつ手作業で分け、忘れ物市にも立ちます。近鉄の広報担当者は「持ち主にとって愛着のあるものも多いと思うので、捨てることになるより再利用してもらえたら」と思いを話しました。
ビニール傘 バッグなどに再生
保管期限を過ぎた忘れ物のビニール傘を材料に、バッグや花に生まれ変わらせるブランドがあります。こういった取り組みはアップサイクルといいます。
大阪市の水谷哲朗さんが2022年に作ったブランド「octangle(オクタングル)」です。水谷さんは「身近な物から社会の課題を解決する行動をとれるんだと知ってほしい」と言います。ビニール傘の素材がリサイクルしづらく、大半が埋め立てられるという問題を知ったのがきっかけでした。
現在は来年開かれる大阪・関西万博のパビリオンに、ビニール傘で作った花を展示するのが目標。「ビニールを圧着してできるしわの風合いなど、アートとしても魅力がある。魅力も伝えながら、ビニール傘の問題解決につなげたい」と話しています。
※この記事は、SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「つくる責任 つかう責任」に関連します。
この記事は「中日こどもウイークリー」で2024年6月29日に掲載された記事を転載しています。