子供は大人以上に熱中症にかかりやすく、いわば「熱中症弱者」です。そして、熱中症は現場で初期症状に気づき、すぐに対処・治療することが大切です。日本救急医学会が行った熱中症の全国調査では、現場で軽症だった患者が、搬送先の病院では最重症にまで進んでいる症例があります。その一方で、現場で最重症であっても搬送先の病院では軽症になっている症例も。つまり、現場での初期治療が非常に重要であるといえます。今回は、子供の熱中症の初期症状と治し方について解説していきます。
筆者：十河剛 (そごうつよし) 先生
済生会横浜市東部病院小児肝臟消化器科部長。小児科専門医・指導医、肝臓専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
診療を続けていく中で、“コーチング”と“神経言語プログラミング(NLP)”と出会い、2020年3月米国 NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年全米NLP協会公認NLPトレーナーとなる。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。
「子供の一番星を輝かせる父親実践塾」Voicyにて毎朝6時から放送中。
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熱中症、17年前の苦い経験
私自身も「熱中症」で苦い経験があります。
娘が1歳半になった頃、7月の週末の午前、妻から買い物を頼まれたので、娘と一緒に海沿いのショッピングセンターに出かけました。買い物を終えて荷物を車に積んだ後に、歩いて10分くらいのビーチに娘と向かうことを思いつきました。初めてのビーチに大喜びの娘は、30分ほど波打ち際で元気に遊んでいました。
お昼ご飯の時間が近づいてきたため、娘を抱っこしてショッピングセンターの駐車場に向かって歩いていると、娘は急に元気がなくなり、嘔吐してしまいました。赤くほてった娘の顔を見てすぐに気づいたのでした。「熱中症だ！」
近くにあった自動販売機でスポーツドリンクを購入して、娘の体を冷やしながら少しずつスポーツドリンクを飲ませつつ、急いで車に戻り、エアコンを全開にしました。すぐに娘は元気になり、ことなきを得ましたが、帰宅後に妻からひどく叱られました。娘を熱中症にさせたことと、初めてのビーチに妻を連れて行かなかったこと。確かに、その通りです。
子供の熱中症、初期症状は？
熱中症は、暑さにより体温調節機能が破綻した状態を言います。大人であればどのような症状かを訴えることができますが、小さな子供はそれができません。
そのため、熱い環境にいる、もしくは、熱い環境にいた後の子供の体調不良は、熱中症を疑うべきであると言われています。
では、私の17年前の苦い経験から学べることは何でしょうか？
まず、子供の熱中症について知っておいてほしいことがあります。
なぜ子供は熱中症になりやすい？
子供は熱中症弱者であり、大人が「少し暑いな」くらいにしか感じなくても、子供の体には大きな負担がかかっているということを必ず認識しておきましょう。
大人がそれほど暑さを感じていなくても、体が小さく、地面に近い子供は大人以上に熱の影響を受けています。
暑さがどのように体に伝わってくるかを考えてみましょう。体に伝わってくる熱は、以下の割合になっています。
太陽から直接来るもの：約4割
建物や壁などが発する熱が伝わる輻射熱：約2割
地面からの照り返し：約4割
晴れた日には地面に近いほど気温は高くなっており、大人より身長の低い子供は高い温度を全身で受けています。
また、大人と比較して、子供は体重当たりの体表面積が広く熱の影響を受けやすいといえるでしょう。
小さな鍋に入れた水と大きな鍋に入れた水、同じ火力で温めると、どちらが早くお湯が沸騰するでしょうか。もちろん、小さな鍋に入れた水の方が早く沸騰しますよね。これと同じ理屈です。
ビーチは海の冷たい水で足元が冷やされているから熱中症は起こらないと思ったら大間違いです。砂浜からの照り返しの熱の影響を、子供達は大人以上に受けているのです。
子供の熱中症、予防するには？
子供は夢中になって遊んでいると水分摂取を忘れてしまいます。ときには親も水分摂取をさせることを忘れてしまいがちです。そのため、時間を決めて、こまめに水分と塩分を補給する必要があります。
また、子供達は成人と比べると水分代謝が早い、言い換えると、体の中の水の入れ替わりが早いという特徴があります。したがって、短時間水分を摂らないだけでも脱水になり得るのです。
私の娘のケースのように、遊びに夢中になって水分摂取をしていないとすぐに脱水になってしまうことが考えられます。体の中の水分は自動車のエンジンの冷却水のようなもので、冷却水が不足するとオーバーヒートしてエンジンが止まってしまいます。そのため、脱水は熱中症を引き起こす重大な要因の一つなのです。
子供の熱中症、治し方は？
子供は大人と比べると熱の影響を受けやすく、熱中症になりやすいです。その一方で、熱中症になってしまった場合には体を冷やす効果も大人以上に高いです。とにかく、涼しい場所に退避して、身近にあるものを利用して体を冷やしましょう。小さな鍋に入った水の方が大きな鍋より先に沸騰しますが、冷えるのも小さい鍋の方が早いのと同じ理屈です。
ここで注意していただきたいのは、熱中症予防や発熱時の体の冷却に熱冷却シートは有効ではないということ。
日本救急医学会が発表した「熱中症診療ガイドライン2015」では、「深部体温が38℃台になるまで積極的な冷却処置を行う。高体温の時間が長くなると予後が不良となるため、できるだけ早期に目標温度に到達することが望ましい。」と記載されています。
熱冷却シートを首の付け根、脇の下、大腿の付け根に当てるとひんやりと気持ちが良いです。しかし、熱冷却シートは皮膚表面の温度を約４℃下げるだけで、熱中症予防や治療に必要な体の中心部の温度を下げる効果はまったくありません。
深部体温とは、体の中心部の温度であり、直腸や鼓膜で測定された体温。一般的な脇の下で測定された体温は、体の表面の温度です。熱冷却シートでは深部体温は下げられません。
環境省が公表している「熱中症環境保健マニュアル（2018年改訂）」では、深部体温の冷却方法として、①涼しい環境への避難、②脱衣と冷却、が記載されています。
まずは風通しのよい日陰や、できればクーラーが効いている室内等に避難させましょう。衣服を脱がせて、きついベルトやネクタイ、下着はゆるめて風通しを良くして、体から熱を放散させます。
露出させた皮膚に濡らしたタオルやハンカチをあて、うちわや扇風機等で扇ぎ、気化熱を利用して体を冷却します。
また、冷やした水のペットボトル、ビニール袋入りのかち割氷、氷のう等を手に入れ、それを両側の首の付け根、脇の下、大腿の付け根の前面、股関節部に当てます。これらの部分には皮膚直下に太い血管があるため、血液を冷やすことで全身を冷却することができます。
また、汗には塩分（ナトリウム）が含まれており、脱水になったときには水分だけではなく、塩分（ナトリウム）も不足しています。
熱中症には、ナトリウムの欠乏による脱水が関連しているため、熱中症予防や治療には、スポーツドリンクや乳幼児用イオン飲料などのナトリウムが含まれた飲み物が必要です。
水やお茶にはナトリウムは含まれていないため、熱中症予防のために飲ませた水分で、血液の中のナトリウムが薄まってしまうことに。逆に熱中症を引き起こしてしまう危険性があります。
万が一、熱中症になってしまった場合、意識があれば、ナトリウムが十分に含まれた経口補水液（OS-1®）を飲ませるようにしましょう。経口補水液にはスポーツドリンクの2.5倍のナトリウムが含まれており、糖分は半分以下となっています。手に入る環境であれば、スポーツドリンクよりも経口補水液がおすすめです。
最後に
子供の熱中症に関して正しい知識を持ち、まずはしっかり予防すること。もし起きてしまった場合は、ここでご紹介した治し方を参考に、適切な初期治療をしていってください。
文：十河 剛
