「学校に行きたくない」と言われたら?不登校の原因と考え方【医師解説】

「学校に行きたくない」と言われたら?不登校の原因と考え方【医師解説】

もし、子供が「学校に行きたくない」と言い出したらどうしますか? 私は子供のお腹の病気が専門で、心療内科医ではありません。心身症(心理的な要因で体に症状が現れる疾患の総称)は専門外です。しかし、「お腹が痛い」「気持ち悪い」「下痢をしてトイレから出られない」など、お腹の症状をきっかけに、私の小児消化器専門外来を受診する子供の中には、不登校の子が少なくありません。今回は、不登校の原因や外来で多くの子供たちを見てきて思ったことについてお伝えします。

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生
済生会横浜市東部病院小児肝臟消化器科部長。小児科専門医・指導医、肝臓専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
診療を続けていく中で、“コーチング”と“神経言語プログラミング(NLP)”と出会い、2020年3月米国 NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年全米NLP協会公認NLPトレーナーとなる。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。
「子供の一番星を輝かせる父親実践塾」Voicyにて毎朝6時から放送中。
動画セミナー『子供の天才性をハグくむ叱らなくても子供が勝手に動く究極の親子コミュニケーション術』

不登校の原因は?

私が初めて診療することになった不登校の子も、受診のきっかけは「お腹が痛い」でした。

私が初めて診療することになった不登校の子も、受診のきっかけは「お腹が痛い」でした。内視鏡検査までして、腹痛の原因をよく調べてみましたが、原因が見つかりません。しかし、よくよく聞いてみると、「給食の時、担任の先生に無理矢理、口の中にパンを押し込まれた」と話してくれて、それが原因で学校に行けなくなったとのこと。その話をしてくれた頃には、もう腹痛を訴えることはなくなっていました。

その後、小児消化器専門外来の受診者が増えるにつれて、不登校の子を診療する機会も増えました。不登校になる原因はさまざまです。友達からのいじめ、友人同士のトラブル、先生の不適切な対応、クラブ活動でのトラブル、学校生活やクラスの雰囲気になじめないことなど、不登校の子供の数だけ、原因があります。中には、母親が自宅で、友人の男性と毎日のように麻雀をしているのがストレスとなり、お腹の不調を起こしている子もいました。

少し前、ある市長が「不登校は親の責任」と発言して問題になりましたが、少なくとも私が診療している子供たちの親御さんは、本当に悩んで、苦しんで、自分を責めているケースがほとんどです。

昭和の始めの頃、子供が学校に行かずに家にいると、家業を手伝ったり、弟や妹の面倒をみたりするくらいしかありませんでした。しかし現在は、ゲームやテレビ、マンガ、インターネットなどがあり、家に1人でいても、出来ることがたくさんあります。さらに、学校へ行かなくても、オンラインで好きなことを好きなだけ学べます。このような外部環境の変化も、不登校の原因の1つなのではないでしょうか。

無理にでも学校へ行かせるべき?

先ほどの「不登校は親の責任」と発言した市長は、「大半の善良な市民は、嫌がる子供を無理して学校に押し込んででも義務教育を受けさせようとしている」とも言っていました。

先ほどの「不登校は親の責任」と発言した市長は、「大半の善良な市民は、嫌がる子供を無理して学校に押し込んででも義務教育を受けさせようとしている」とも言っていました。無理して学校に押し込むことは、不登校の解決になるのでしょうか?

私の考えは、半分「YES」で半分「NO」です。子供が「学校に行きたくない」と言い始めた初期の段階では、無理矢理連れていくことが有効な場合もあります。ただし、それは理由次第です。いじめや先生の不適切な対応など、子供にとって学校が安全な場所ではない場合には休ませて、問題を解決するのが先になります。だから、子供が「学校に行きたくない」と言ったら、まずは理由を聞いて、その原因を確認して欲しいのです。

学校に行きたくないという明らかな理由が見つかれば、問題を解決し、環境を整えることが大切です。大人の視点では大した問題でなくても、子供からしたら大きな問題だということもあります。子供の気持ちを否定せずに、しっかりと話を聞いてあげてください。

子供たちの中には、学校に行きたくない理由がはっきりと分からない子もいます。明らかな理由も、きっかけもないのに、学校に行けない子、もしくは行くことを拒否する子がいます。

実は、私自身もそうでした。今でこそ多様性を重視しようとする動きが広がっていますが、学校では未だにみんなが同じことを、同じようにしなくてはなりません。私はそんな学校のシステムになじめない子どもでした。しかし、家にいても何もすることがなかった時代。他に選択肢がないので、仕方なく学校に行って、友達と遊んでいました。

子供に合った方法で才能を伸ばす

「ギフテッド」と呼ばれる、生まれつきIQが高かったり、特別な才能を持っていたりする子がいます。

「ギフテッド」と呼ばれる、生まれつきIQが高かったり、特別な才能を持っていたりする子がいます。そういった子たちは、「勉強が簡単すぎてつまらない」「同級生が幼過ぎて話が合わない」など、学校生活になじめないケースが多く見られます。

さらに、診断の有無に関わらず、神経発達症(発達障害)の特性を持った子が学校になじめないこともあります。例えば、自閉スペクトラム症の特性を持った子は、コミュニケーションの取り方が独特であるため、同級生たちとうまく付き合っていくことが難しいです。注意欠如・多動症(ADHD)の特性を持った子は、授業をじっと聞いているのが苦手です。

神経発達症(発達障害)の特性を持った子の中には、感覚過敏がある場合も多く、例えば音に対して敏感な子は、教室のざわついた感じが落ち着かないと感じることがあります。

ギフテッドの子も、神経発達症(発達障害)の特性を持った子も、本来であれば、その子の特性に合った方法で学習して、才能を伸ばしていく教育が必要です。しかし、明治時代からおよそ150年続く日本の教育システムでは、「みんなと同じ」ことが求めまれます。このような子供たちにとっては、フリースクールや学習塾など、学校以外の環境の方が合っていて、才能を伸ばし、自分で考え、自分の力で生きていく力が身に付くのかもしれません。

家庭を安心・安全な場所に

子供が突然、学校に行かなくなると親御さんは不安で一杯になります。

子供が突然、学校に行かなくなると親御さんは不安で一杯になります。「このままずっと学校に行かなかったらどうなるんだろう?」「大人になって、引きこもりにならないか?」など、いろいろな考えが頭の中をぐるぐると巡ってしまいます。

いつまでも学校に行こうとしない子供を見ていると、不安がいつの間にかイライラに変わり、子供にきつい言葉を投げかけてしまうことがあるかもしれません。「自分の育て方が悪かったのでは」と自責の念にかられたり、「夫(もしくは妻)が甘やかして育てたからだ」「夫(もしくは妻)が厳しくし過ぎたからだ」と、他人に責任転嫁したりすることもあるでしょう。しかし、見方を変えれば、そもそも子供自身が、学校が安心・安全な場ではないから「行かないこと」を選択したという可能性もあります。

不登校が続くと、学校の先生が定期的に自宅にやって来て、子供に「待っているよ」という言葉をかけることがあります。この「待っているよ」という言葉が、子供にとってプレッシャーになったり、「学校に行けない」という自分を責めたりする原因になりかねません。子供の「自分なら出来る」「きっとうまくいく」という「自己効力感」を下げてしまう可能性もあるので、注意が必要でしょう。

多くの場合、「学校に行かないと、どうなるだろう」という不安は、子供自身も感じています。親の不安や焦りから子供にネガティブな感情をぶつけたり、夫婦喧嘩をしたりしていたら、子供は余計に不安になるのではないでしょうか。学校だけでなく、家庭も安心・安全な場所でなくなってしまったら、子供は居場所を失います。だからこそ、家庭を安心・安全の場所にするように心がけてください。

いつ学校に行けるようになる?

不思議なことに、私が診察した不登校の子の多くは、高校生になるときちんと登校して、卒業していきます。義務教育は終わっているので、「学校が嫌なら、高校へ行かなくてもいいのに」と思いますが、不思議と多くの子が高校に進学します。

今は高校にもいろいろな選択肢があり、通信制、単位制、定時制など、その子の特性と興味に合った学校を選べるようになりました。自分に合った学校を選んだ子は生き生きと楽しそうに学校に通っています。

親御さんは、どうしても近い将来のことを考えてしまいますが、長い時間軸で考えれば、小学校・中学校の不登校の期間なんて、人生のごく一部に過ぎません。その子に合った方法で、生きる力、考える力が身につけばよいのではないでしょうか。

不登校は、どこに相談する?

不登校の子を持つ親御さんに「誰かに相談していますか?」と聞くと、「学校以外に相談するところがない」という人が少なくありません。

不登校の子を持つ親御さんに「誰かに相談していますか?」と聞くと、「学校以外に相談するところがない」という人が少なくありません。学校にスクールカウンセラーがいる場合には、中立な立場で相談に乗ってもらえます。また、自治体によって異なりますが、市区町村の教育委員会にも不登校の相談窓口があるので活用してみてください。

意外と知られていませんが、児童相談所も不登校の相談を受け付けています。子供が行かなくても、教育委員会や児童相談所は親だけで相談に行くことも可能ですので、相談してみると良いでしょう。

小児科医や児童精神科でも相談を受け付けています。心理検査や発達検査で子供の特性を知り、その子にあった関わり方や学習方法が分かることもあります。時々、「発達障害と診断されたら、子供の将来に傷がつく」と考える親御さんがいますが、神経発達症(発達障害)の診断は、その子に病名というラベル付けをするのが目的ではありません。周りの人間がその子の特性を理解して、その子にとって生活しやすい環境を作ってあげることが目的です。

また、小児科や児童精神科であれば、必要に応じて薬による治療も可能です。私は小児科医ですので、主に漢方薬を使います。私がよく使う桂枝加竜骨牡蛎湯と十全大補湯の組み合わせは、「神田橋処方」と呼ばれ、有名な精神科医であった神田橋條治医師が発見した処方です。学校に行く直前になると、不安になり、登校できなってしまう子に効果的です。

私は、子供たちに「恐竜漢方」と伝えており、「この漢方には恐竜の骨が入っているんだよ。なんか強くなれそうでしょ」と言いながら処方しています。必要に応じて、病院にも頼ってみてください。

「不登校」と呼ぶのは止めよう

私の外来に来ている女の子が「私は不登校ではありません。登校拒否です」と言ってきたことがあります。これは「学校に行けない子」ではなく、「自分の意思で学校に行かないことを選択した子」である、という意味です。これを聞いたときに「なるほど!」と思いました。不登校の子たちは、言葉にしなくても学校に行っていないことに負い目を感じて、セルフイメージが下がっている子が少なくありません。

不登校の子の中には、「僕は/私は不登校だから、~できない」というような思い込みが出来て、何かに積極的に取り組めなくなっている場合があります。しかし、自分の意思で「学校に行かないことを選択した子」は、自分で「学校に行かないと決めることが出来る子」なのです。

学校に行っていても、自分で選択や決断が出来ずに親任せにしている子供もたくさんいます。学校に行かない子は、自分の意思で物事を選択し、やるか、やらないかを決断する力があるのです。これってすごい力ですよね。

ぜひ、視点を変えて子供の可能性を信じてあげてください。

文:十河剛

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