発達障害の考え方とおなかの症状【医師解説】

発達障害の考え方とおなかの症状【医師解説】

発達障害は、最近では「神経発達症」とも呼ばれています。脳の働き方の違いにより、物事のとらえかたや行動のパターンに違いがあり、日常生活に支障のある状態です。
私は外来で親御さんに「アフリカの大草原で暮らしていたら、発達障害とは診断されません。今の日本の社会だから、その『特性』が『障害』になるのです。」とお話しすることがよくあります。
「障害」となっているのは、子供たちの特性ではなく、社会のシステムやそのコミュニティに所属する人なのです。
ここでは、小児消化器内科医の視点から、発達障害とおなかの症状について解説します。

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生
済生会横浜市東部病院小児肝臟消化器科部長。小児科専門医・指導医、肝臓専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
診療を続けていく中で、“コーチング”と“神経言語プログラミング(NLP)”と出会い、2020年3月米国 NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年全米NLP協会公認NLPトレーナーとなる。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。
「子供の一番星を輝かせる父親実践塾」Voicyにて毎朝6時から放送中。
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発達障害の種類と特徴

発達障害には、知的能力障害(知的障害)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(学習障害:LD)、協調運動症、チック症、吃音などがあります。

発達障害には、知的能力障害(知的障害)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(学習障害:LD)、協調運動症、チック症、吃音などがあります。

ASDとADHDは、最も一般的に診断される発達障害の2つです。
ASDは、社会的コミュニケーションや相互作用、反復行動や興味に影響を与える神経発達障害です。弘前大学の調査によると、日本では約3%の子供がASDであることがわかりました。
一方、ADHDは、注意力、多動性、衝動性に影響を与える神経行動学的障害です。2012年に実施した文部科学省の調査によると、日本では約3%の子供がADHDとされました。しかし、この10年ほどでADHDと診断される子供が約3倍に増加したというデータもあります。
私は小児消化器科医ですので、発達障害を直接診断することはありません。しかし、実はASDやADHDの子供は、発達障害の特性のない子供と比較して、便秘、下痢、腹痛などのおなかの症状を訴える子供の割合が高いことがわかっています。
ですので、私の外来を受診する子供たちには、ASDやADHDの特性を持つ子が多い傾向にあります。

ASDとおなかの症状

ASDの子供におなかの症状が見られる割合は、最大で70%に達するとの研究報告があります。

ASDの子供におなかの症状が見られる割合は、最大で70%に達するとの研究報告があります。具体的な症状としては、便秘、下痢、腹痛、腹部膨満感、胃食道逆流症などがあります。
なぜ、こんなに高い割合でおなかの症状がみられるのかという原因は、はっきりとはわかっていません。しかし、原因として考えられるものの一つに、感覚処理の問題があります。

ASDの子供では、脳における感覚の処理に違いがあります。そのため、食べ物やおなかの動きなどの消化に関連する感覚の刺激に対する知覚や反応が、発達障害の特性がない子とは違うと考えられています。
例えば、特定の食感や味に過敏に反応した結果、食わず嫌いや偏食になってしまい、便秘や栄養不足になることがあります。
また、食べ物が胃に入った感覚や排便のための腸の動きに敏感に反応して、腹痛や吐き気などを訴えることがあります。

ASDの子が持つ独特のこだわりも便秘をはじめとしたおなかの症状に関連します。排便に関して全く関心が向かなかったり、独特のこだわりがあったりするためにトイレットトレーニングが進まず、便秘になる子もいます。
一方で、排便に関心が向いてくれるようになると、薬や朝夕の排便をしっかりとしてくれるようになります。ですので、トイレットトレーニングが進まないで悩まれているASD特性のある子の親御さんへは、「こだわりや関心がトイレに向いてくれると一気に良くなることもありますよ」とお話ししています。

また、ASDに対する治療として使われている薬の副作用として、おなかの症状を引き起こすことがあります。
さらにいくつかの研究では、ASDの子は食物アレルギーを持っていることが多く、それが消化器症状を引き起こす可能性も言われています。

ADHDとおなかの症状

落ち着きがない子、忘れ物の多い子、ぼーっとしている、すぐに泣き出したり怒り出したりするなどの症状が、ADHDの特徴であるということは一般の方にも比較的よく知られているのではないかと思います。
しかし、ADHDの特性のある子に、おなかの症状がある子の割合が高いことは意外と知られていません。

ADHDの人の最大30%が、便秘、下痢、腹痛、腹部膨満感などのおなかの症状があることが研究でわかっています。
これらの症状は、気持ち悪い、痛い、苦しいなど、子供の日常生活に影響を与え、生活の質を落とすことがあります。

考えられる原因のひとつは、感覚処理の問題です。
ADHDの子供は、特定の食べ物や食感、温度に対してや過敏になったり、食べ物や便の胃腸への刺激に敏感になったりして、不快感や吐き気や腹痛などのおなかの症状を訴えることがあります。

もうひとつの原因として考えられるのは、ストレスや不安です。
ストレスや不安が痛みを感じやすくしたり、胃腸の動きを活発にしすぎたりすることがあります。また、逆に胃腸を動きづらくして、いろいろなおなかの症状を起こすことがあります。

さらに、ADHDの治療に用いられる薬も、おなかの症状に関連する可能性があります。薬の副作用で便秘になることもあり、これが腹部不快感を引き起こし、ADHDの症状を悪化させる可能性があります。

「特性」の考え方

ASDやADHDなどの特性がある子供達の親御さんは、彼ら彼女らの特性からくる課題や苦労に目を向けがちです。

ASDやADHDなどの特性がある子供達の親御さんは、彼ら彼女らの特性からくる課題や苦労に目を向けがちです。実際に現代社会の中で生きづらさや生活をする上で困難を難じるからこそ、発達「障害」とされているのです。
しかし、これら特性には彼ら彼女らならではの長所や才能もあることを忘れてはいけません。
脳の情報処理に世の中の多くの人と違う特性があるからこそ、その特性が「障害」になるのですが、それが唯一無二の「才能」にもなります。
数学、科学、音楽、芸術などの分野で優れている場合もありますし、創造的で革新的なアイデアにつながる独自の世界観を持っている場合もあります。
発達障害を公言している世界的な成功を収めた有名人もおられますし、公言はしていなくても発達障害の特性を持った成功者はたくさんいます。
彼らがなぜ成功者になったかというと、それは多くの人が持っていない「才能=特性」を持っていたからです。

「障害」となっているのは、その子の一面に過ぎず、子供たちの「才能」に注目することで、子供たちの自尊心や自信をはぐくむことにもつながります。
「障害」となっているのは、子供たちの特性ではなく、社会のシステムやそのコミュニティに所属する人です。発達障害の特性をもった子供たちに必要なのは、その子が活躍できる環境であり、仲間であり、コミュニケーションの方法なのです。

適切なサポートと指導があれば、子供たちは自分の可能性を最大限に引き出し、夢を実現することができるのです。
発達障害の特性のある子の脳は「天才脳」であり、信じられないほどの可能性とユニークな才能があることを忘れないでください。

文:十河剛

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