食中毒の本当の話|加熱すれば大丈夫!?【医師解説】

食中毒の本当の話|加熱すれば大丈夫!?【医師解説】

高温多湿で細菌が増殖しやすい夏場は特に、食中毒に注意してください。食中毒とは、食品が原因で起こる下痢や腹痛、発熱、嘔吐などの症状の総称です。今回は、食中毒の原因と予防法について解説していきます。

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生

筆者:十河剛 (そごうつよし) 先生
済生会横浜市東部病院小児肝臟消化器科部長。小児科専門医・指導医、肝臓専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
診療を続けていく中で、“コーチング”と“神経言語プログラミング(NLP)”と出会い、2020年3月米国 NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年全米NLP協会公認NLPトレーナーとなる。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。
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食中毒の3つの原因

食中毒を引き起こす原因は、大きく分けて3つです。

食中毒を引き起こす原因は、大きく分けて3つです。①フグ毒やキノコ毒のような「天然毒素」、②ノロウィルスやサルモネラ、病原性大腸菌などの「微生物」、そして、③メタノールやPCB(ポリ塩化ビフェニル)に代表される「化学物質」があります。ここでは食中毒を引き起こす原因、中でも「天然毒素」と「微生物」についてご紹介します。

身近に潜む「天然毒素」

息子と釣りに行った時のことです。息子がナマコを釣り上げ、自宅に持ち帰りました。調理して食べようか悩み、インターネットで「ナマコ 毒」などと検索してみると、体内に毒を持つトラフナマコであることが判明。結局、食べるのを諦めましたが、もし食べていたら、ナマコ毒による食中毒になっていたところでした。

また、息子が3歳の時、山で一緒にニワトコという山菜を採ってきました。天ぷらにして食べたところ、深夜に息子が嘔吐し始めたんです。急いで調べると、食べ過ぎた場合、ニワトコに含まれる青酸配糖体により、中毒を起こすことがあることが分かりました。

ほかにも山菜による中毒としては、ギョウジャニンニクの外観によく似たイヌサフランも摂取すると嘔吐や下痢、呼吸麻痺などの中毒症状を引き起こします。ニラとスイセンも間違えやすく、つい先日も有毒のスイセンをニラと間違えて食べてしまい、食中毒になったというニュースを見聞きしました。このように天然毒を持った生物や植物は、意外と身近にありますので注意しましょう。

夏場は細菌性食中毒に注意

夏場に増加する食中毒の多くは、微生物、特に細菌によるものです。さらに、細菌による食中毒は感染型と毒素型に分類されます。

夏場に増加する食中毒の多くは、微生物、特に細菌によるものです。さらに、細菌による食中毒は感染型と毒素型に分類されます。

感染型食中毒

感染型の食中毒は、細菌に感染した食品を摂取し、その細菌が体内で増殖して病原性を持つことで引き起こされます。代表的な原因菌としては、サルモネラや腸炎ビブリオ、病原性大腸菌などがあげられ、主な症状としては腹痛や下痢、時に血便などもみられます。

中でも、サルモネラ菌は感染型食中毒の原因の代表格で、細菌に汚染された生肉や生卵を摂取することで発生します。1999年には子供向けのイカ菓子が原因となり、全国でサルモネラ菌による食中毒が多発しました。腸炎ビブリオは魚介類を介して感染することが多く、サルモネラ菌と同様に代表的な原因の一つです。

また、生後1歳未満の乳児はハチミツが原因食品とされるボツリヌス菌に気を付けなくてはなりません。大人の場合、ボツリヌス菌が腸内に入ってきても善玉細菌によって増殖が抑えられます。しかし、乳児だと腸管内でのボツリヌス菌の定着と増殖が起こりやすいとされています。

したがって、乳児がボツリヌス菌で汚染された食品を食べると、腸管内で増殖して毒素を生み出し、乳児ボツリヌス症を発症することがあります。1歳未満の乳児にはハチミツやハチミツを含む食品を与えないようにしましょう。

毒素型食中毒

毒素型の食中毒は、食品内で細菌が生み出した毒素を摂取することで起こる食中毒です。代表的な原因菌として、黄色ブドウ球菌やセレウス菌、ボツリヌス菌などがあります。感染型に比べ、摂取から発症までの期間が短いことが特徴です。

おにぎりで食中毒?

毒素型食中毒の原因の代表格である黄色ブドウ球菌は、人間の皮膚に常在しています。

毒素型食中毒の原因の代表格である黄色ブドウ球菌は、人間の皮膚に常在しています。そのため、傷口のある手指で調理すると、食品に黄色ブドウ球菌が付着・増殖。毒素を生み出し、この毒素を食品と一緒に食べることで食中毒になります。時々、手で握ったおにぎりを食べて食中毒になったという事例が報告されるのは、こうしたことからです。

加熱した食品でも食中毒に?

セレウス菌は土壌細菌の1つで、土壌や水、ほこりといった自然環境や農畜水産物などに広く分布しています。例えば、加熱調理した後に常温で保存しておいた焼飯やピラフ、焼きそば、スパゲッティなどの食品に、気づかないうちに付着していることも。その毒素により食中毒を発症するというケースもあります。

真空パックや缶詰で食中毒?

先ほど、乳児ボツリヌス症の原因としてボツリヌス菌をご紹介しました。ボツリヌス菌は食品中でボツリヌス毒素というものをつくりだし、毒素型食中毒になることがあります。

強力な神経毒であり、酸素がない状態で増殖。例えば、真空パックや缶詰などの食品にボツリヌス菌が混入して食品内で増殖し、産生されたボツリヌス毒素を食品と一緒に食べることで発症します。国内では、辛子レンコンやハヤシライスの具材、小豆ばっとう(ぜんざいにうどんが入った食品)など、真空パックや缶詰の食品による事例が報告されています。

症状としては、数日間続く便秘や全身の筋力低下、脱力状態、哺乳力の低下、泣き声が小さくなるなど。また、顔面が無表情となり、頸部筋肉の弛緩により頭部を支えられなくなるといった症状を引き起こすこともあります。ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、まれに亡くなることもあるので、十分に注意しなくてはなりません。

食中毒予防の三原則

食中毒の予防には、「つけない」「ふやさない」「やっつける」の三原則が重要です。

食中毒の予防には、「つけない」「ふやさない」「やっつける」の三原則が重要です。

「つけない」

食中毒の原因となる細菌を食品に「つけない」ことが大切です。食中毒の予防というと、加熱をイメージする人が多いと思います。しかし、毒素型食中毒には「加熱したから大丈夫」という考えは通用しません。黄色ブドウ球菌が生み出す毒素は熱に強いため、加熱しても食中毒を防ぐことが出来ないのです。

したがって、「しっかり手洗いをする」「手を消毒する」「手袋を使う」など、細菌を食材につけないための工夫が必要です。毒素型以外の細菌についても、肉を切った包丁やまな板を洗わず、そこに別の食材が触れてしまうと、その食材にも細菌が付着してしまい、食中毒を引き起こします。また、包丁やまな板を洗ったとしても、その際に水しぶきが跳ね上がり、食品や調理場、調理器具に付着することもあるので、慎重な取り扱いが必要です。

「ふやさない」

食品についてしまった、もしくはもともと付着している細菌を増やさないようにことも大切。特に夏場は気温が高く、細菌が繁殖しやすいです。例えば買い物の際、「肉や魚介類などの生もの最後に購入する」など、意識するようにしてください。

土壌細菌の1つであるセレウス菌は、土壌や水、ほこりといった自然環境や農畜水産物などに広く分布しています。セレウス菌は90度の温度で60分間加熱したとしても、死滅しません。また、セレウス菌が生み出す毒素も熱に強く、加熱したとしても食中毒を引き起こしてしまいます。

そのため、カレーや焼きそば、チャーハンなど、調理した食材は必ず冷蔵庫で保存する、買ってきた食材やお惣菜を長時間室温で放置しないなど、ちょっとした心がけが重要です。

「やっつける」

ご存じのとおり、加熱することで予防できる食中毒もあるため、しっかりと食材を加熱調理することが大切です。この季節、バーベキューなどで生焼けの鶏肉を食べた後、キャンピロバクター腸炎に感染する子供たちが多いので、注意しましょう。

また、調理器具や調理場の洗浄、消毒も有効です。特に生鮮食品を調理した後の調理器具は、除菌機能付きの洗剤などを使い、しっかりと洗浄してください。また、スポンジや調理器具を定期的に塩素系漂白剤で消毒を行うことも効果的です。

最後に

さまざまな状況があるため、すべての食中毒を防ぐことはできません。しかし、「つけない」「ふやさない」「やっつける」の三原則をおこなうことで、リスクを最小限に抑えていきましょう。

文:十河剛

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