部活動、習い事、学童。すべてに当てはまる放課後のあり方とは?

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COE LOGの活動を通じて徐々に浮き彫りになってきたのが、単なる時間つぶしや場所の提供にとどまらない、子どもにとって有意義な放課後時間の必要性です。
山梨学院大学の系列校である山梨学院小学校(山梨県甲府市)では、開校当時から「各種の習い事と学童保育の機能をあわせもつ子どものための総合カルチャーセンター」を目指し、先進的なトワイライトスクールを運営しています。教育関係者がこぞって視察に訪れるというその放課後時間を、中部電力ICT戦略室の水谷英樹、奥村香保里、中電シーティーアイの荒木岳文が見学。放課後の過ごし方が子どもたちに与える影響の大きさを、目の当たりにしました。

教育学者が描いた理想の校舎と教育体制

昼間の授業が終わる午後3時頃。小学校の中を歩くと、次から次へ子どもたちが「こんにちは」と、気持ちのよいあいさつを投げかけてくれます。校舎内は、可動式の壁を採用しており、壁で仕切ることもでき、仕切りをなくすこともできる独自の設計。教室、廊下、共有スペースの境界線がない開放的な空間に、授業を終えた子どもたちの元気な声が響き渡っていました。

小学校の校舎がそのままトワイライトスクールの舞台になる

山梨学院小学校の開校は2004年。初代校長である田中智志氏の理念のもと全国から集った教員により、スタートしました。田中氏は現在、東京大学大学院教育学研究科で教授を務めるなど、日本の教育界を代表する学者の一人。教育の歴史、世界の教育事情などあらゆる視点から教育を知り尽くした田中氏が、未来を見据えたうえで理想の教育環境を形にしたのが山梨学院小学校です。

田中氏が開校に際して熱望したのが、放課後開放事業であるトワイライトスクールでした。「都市部の小学生は放課後、習い事のために週何日もどこかに通っている。保護者の負担を軽減するために、それを学校にいながらできるシステムをつくりたい」と発案。現在校長を務める山内紀幸氏や、トワイライトスクール専属の主任・渡邊平太先生をはじめ、教育関係の人脈を駆使して招集された精鋭がアイデアを出し合い、構想から2年以上の歳月をかけ、開校と同時にトワイライトスクールを開講しました。

以後、放課後の画期的な活用事例として、また子育てをサポートするしくみとして、十数年経った今も教育関係者らの関心を引いています。

豊富なプログラムで子どもの多様性を育む

山梨学院小学校のトワイライトスクールは、1コマ45分の3限制。1日1講座のみ受講できる「専科プログラム」と、空き時間を活用して幅広い活動を目指す「その他のプログラム」によって構成されています。「専科プログラム」では、国際理解、学習・思考、音楽、美術、スポーツの分野ごとに講座を開講。取材当日も、英会話少人数レッスン、先進学習、ピアノやヴァイオリン、絵画・造形、サッカーなど、バラエティに富んだ講座が開講されていました。

取材のために訪問した金曜日のトワイライト時間割。1日で16もの講座が開かれていた

音楽の講座は、各楽器のプロがマンツーマンで指導するので、生徒一人ひとりのレベルにあわせて最適なアプローチでレッスンがおこなわれます。また、楽器を習ううえでソルフェージュ(楽譜を理解して読む訓練)は必修となっており、基礎からしっかり学んだ子どもはその後の伸びが違うとのこと。

初心者には楽器の持ち方から丁寧に指導

先進学習は、一斉授業と個別指導をセットで受講する形ですが、このうち個別指導では、先生が教えるのではなく、児童がどのように考え、答えを導き出したかを先生に解説するスタイル。学ぶことの本質を自然に身に付けていきます。

児童が先生に解説する、独自の先進個別指導

また、一面に広がる人工芝の緑がまぶしい運動場では、5・6年生の子どもたちがグラウンドを思いきり駆け回り、コーチの指導のもと、サッカーボールを追いかけていました。

サッカーの他にも、トワイライトスクールの特徴的なスポーツプログラムに、トライアルスポーツの講座があります。ホッケーや柔道、ラグビーなど多様なスポーツの入門編を体験できる講座で、国内屈指のアスリートを次々と輩出する山梨学院カレッジスポーツセンターが全面的にバックアップ。一流の指導方法や設備といった恩恵を受けながら、子どもたちはスポーツの魅力や楽しさ、厳しさ、スポーツマンシップなどを体感できます。

恵まれた環境でスポーツに打ち込む児童たち

専科のあいまにはより広い学びや遊びを

「専科プログラム」を受講していない空き時間に受講するのが「その他のプログラム」です。囲碁、将棋、チェスなど遊び感覚で知能やマナーを高めることができる講座をはじめ、なかには合唱隊や将棋のように、学外のコンクールや大会で実績を残すなど、部活動に匹敵するほどの活躍の基盤となっている講座もあります。

英語でのチェス講座は趣の異なる畳の空間で
コンクールなど学外でも実績を残す合唱隊

空き時間はフリータイムのため、過ごし方は自由です。「その他のプログラム」を受講していない児童は、カフェテリアと呼ばれる食堂に集まり、宿題に取り組んだり、学校が提供するおやつを食べたりして過ごします。また、屋外にあるゴムチップ製のプレイコートで友人と遊ぶ児童の姿も見られるなど、思い思いに過ごしています。

昼間の授業と同じ校舎を活用しながらも、児童が開放的な気分の中、自分の好きな学びや遊びなどに集中できるよう、さまざまな居心地の空間が用意されています。

カフェテリアで、空き時間におやつを頬張る

トワイライトスクールで、初年度から取り組んでいる柱に「さりげない介入・誘導」という考え方があります。例えば「空き時間を利用して、宿題をやりなさい」と強制するのではなく、上級生が勉強に打ち込んでいる姿が目に入るよう、カフェテリアのようなオープン空間を活用する。そうすることで、大人から言葉で言われる前に自然とやる気を起こさせる、という方針です。

スクールの運営に欠かせない学生スタッフ

トワイライトスクールで大きな役割を果たすのが、山梨学院大学や、山梨学院短期大学の保育科に所属する学生スタッフたちです。プログラム講師のサポートをはじめ、フリータイムの児童の見守り、おやつの配給などを担当します。

20分~30分かけて綿密にミーティングをおこなう

中でも学生スタッフの重要な任務となるのが、トワイライトスクールの参加児童の出欠と下校の管理。トワイライトスクールが始まる前に全学生スタッフが集まり、プログラムごとの名簿チェック、出欠予定の変動などの伝達、児童一人ひとりの下校時間と、お迎えやスクールバス、公共交通機関といった下校方法の照合などを細やかにおこないます。この徹底した安全管理によって、実際にトワイライトスクールを利用している保護者からも「トワイライトスクールなら送迎時間の心配がない」との声が寄せられています。

学生スタッフ全員で児童の出席状況を共有

学生スタッフの佐藤惇さんは「柔軟な対応力、危険予測力、周囲に目を配る注意力などが求められるので、長く続けることで自分自身の成長にもつながっていると実感します。トワイライトスクールが楽しいという子どもたちの声や手紙などが、励みになっています」とやりがいを語っていました

また、学生スタッフを登用するのには別のねらいも。昔、近所のお兄さんお姉さんから、学校のことに限らないさまざまな情報を教えてもらったように、先生や講師とは異なる立場の年長者と接する機会が、子どもにとっては豊かな人間関係を築く経験につながります。

子どもの自主性を育むためにはどうすべきか

山梨学院小学校の昼間の授業では、クラス担任制ではなく、すべての授業を専門の知識を持つスペシャリストが担当する専科制を採用しています。
トワイライトスクールの構想から携わり、主任を務める渡邊平太先生は、音楽や美術に精通し、講師の想いを汲みながらも、教育学的な立場から、専門家と児童との橋渡しをおこなっています。トワイライトスクールと昼間の授業のあり方や、学校全体の教育方針の一貫性についても語ってくださいました。

「毎年、時間割作成に頭を悩ませる」と話す渡邊先生

「例えばトワイライトスクールで開講している先進学習は、一見すると昔ながらの一斉授業のように見えます。しかし本校では、日中の通常授業でそのような古典的な一斉授業をほとんど採用していないため、あえて放課後のプログラムに取り入れてみたという背景があります。児童は一斉授業にあまり馴染みがないため、かえって新鮮な気持ちで積極的に取り組めているようです」

「加えて、先ほどご紹介したように、先進個別の方では児童と先生の関係を逆転させ、児童が先生に解説するという形をとっています。つまり、単なる一斉授業で終わらせるのではなく、先進個別を一斉授業とセットで受講してもらうことで、全体として、双方向型の授業システムに近づけたいと考えています」とのこと。

昼の通常授業ではほぼおこなっていない一斉授業

また、美術や音楽など芸術分野の講座では、現役のアーティストとして活躍する先生も多く、完成作品や結果だけを評価するのではなく、創造力を刺激することに重点が置かれています。

自由な発想を引き出す絵画・造形の講座

ピアノの講座を受講している児童は「自分でやりたいと思ってお母さんにお願いしました。先生のおかげでコンクールにも出ることができてうれしい。将来はピアニストになりたいです」とキラキラした眼差しで夢を話してくれました。

トワイライトスクールだけで成立するものではなく「自律、思考、表現、共生」という教育目標が浸透しているからこそ、通常の小学校の授業とトワイライトスクールが一体となって、子どもの自主性を育てる理想の環境を構築できる。さらには、子どもたちも違和感なくこのしくみを受け入れ、伸び伸びと過ごすことができているのでしょう。

人材の確保と専門性の追求が課題に

今後の懸念点としては「講師や学生スタッフの確保、質の維持をどのように図っていくか」とのこと。加えて、渡邊先生によると「現在のプログラム制では、部活動のように朝の授業前の時間を練習に充てたり、毎日の放課後の時間を一つのことに没頭させたりということが難しい。多様性を受容できるという大きなメリットの裏側で、部活動や習い事のように、一分野に集中して取り組ませることができないというジレンマも。児童間での温度差や能力差に対応し、特異な才能を伸ばすためのしくみづくりを考えていく必要がある」といった課題点もお話しくださいました。

そのためには「トワイライトスクールのみで完結させるのではなく、これまで以上に子どもたち一人ひとりと向き合い、保護者との情報共有、外部の機関やプロフェッショナルとの連携によって能力を発掘し、力を発揮するための道筋もつくっていきたい」と語る渡邊先生。新たなる発展の形を聴くことができました。

渡邊先生の話に聞き入る中部電力のメンバー

確固たる教育理念のもと、運営、人材確保、しくみづくり、講師の発掘など、さまざまな要素が融合して実現している山梨学院小学校のトワイライトスクール。

山梨学院小学校を見学した中部電力のメンバーは、同様の規模・スタイルを他地域や学校で汎用するにはいくつものハードルがあることを痛感し、放課後問題の根深さを突き付けられた印象も。しかし一方で「子どもたちが楽しそう」「表情が生き生きしていた」という感想が口々に聞かれるなど、子どもたち一人ひとりが持つポテンシャルを引き出すために、また子育てをする家族のサポートのために、放課後時間が秘める可能性を大いに実感した様子でした。

参加した中部電力社員のコメント

ICT戦略室 水谷英樹
多様なプログラムを用意することで子どもの選択肢を広げている点に、感銘を受けました。また、普段過ごしている学校という場所から移動することなく、先生の目が行き届く環境で放課後を過ごせるのは、保護者に安心感を与えられるという面で最大のメリットだと感じます。
ICT戦略室 奥村香保里
単に教室にこもって放課後を過ごすのではなく、カフェテリアのように、異学年が集まるスペースが果たす役割の重要性を感じました。遊んだり、勉強したり、囲碁をしたり。異なる世代が集まり、思い思いに過ごす場所を設けるという発想は、今後、オープンイノベーションを考えていくうえで、大きなヒントになりました。
中電シーティーアイ 荒木岳文
子どもの能力を発掘し、引き出すためには、放課後時間の活用だけではなく、昼間の過ごし方も含めた連動性のある取り組みが必要だと感じます。放課後問題を考えるうえでは、大人からの一方的な押しつけにならないよう、教育への想いや、情熱を持ったプロデューサー的な役割を担う存在が不可欠になると痛感しました。

文/花野静恵

撮影/沼田 学

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