夜遅くまでゲームをしていて起きられない、ご飯の代わりにお菓子を食べる、勉強は何がわからないのか、わからない…。そんな子どもを見守り、生活の一部を一緒に過ごす場所が地域にあれば、子どもたちにとって大きな支えになるはず。こうした考えのもと日本財団の支援を受け、愛知県で初めての「子ども第三の居場所」が誕生しました。
「子ども第三の居場所」とはどんなところなのか、開設にかける運営者の思いとは?開所式にうかがって取材しました。
子どもが安心して過ごせる場所を
生活を支える基盤である家庭、友達と学び遊ぶ学校。どちらも子どもたちの成長を見守る必要不可欠な場所です。しかし、家庭や学校で困難を抱えた子どもは、どうすればよいのでしょうか。自分を守り育む人や場所がうまく機能しないと、困難を乗り越えるのは容易ではありません。もしも地域の中に家庭・学校以外にも安心して過ごせる場所=「第三の居場所」があれば、子どもたちはあまり孤独を感じずに育つことができるはずです。
一方で、家庭や学校に恵まれてすくすくと育っている子どもにとっても、第三の居場所は大きな意味を持ちます。親や先生、友達だけでなく、さまざまな人と関わって自分の時間を過ごすこと。それによって、自己肯定感、生活習慣、学習習慣を育み、将来の自立へとつなげることができるからです。
このように社会の変化の中で、子どもたちのために第三の居場所を作る必要性は年々高まっています。とはいうものの地域のつながりは希薄になっており、十分な居場所が確保されているとはいえない状況です。
日本財団による開設運営サポート
そこに手を差し伸べたのが、さまざまなプロジェクトを推進する「日本財団」です。これまで公益財団法人として、国際協力から文化芸術の支援、身近なまちづくりに至るまで、幅広い領域の活動をサポートしてきました。2016年からは、「子ども第三の居場所」事業を開始しています。
行政・NPO・市民・企業・研究者などたくさんのパートナーと協力しながら、2025年までに全国500拠点の開設を目指しており、現在開設準備中の拠点を含めて98ヶ所が動き出しました。(2021年8月時点)
家でも学校でも塾でも学童保育でもない、生活・学習・地域とのつながりを得られる居場所として、各拠点が試行錯誤で運営を行っています。
NPO法人ながいくが拠点を開設
愛知県長久手市で、子どものための第三の居場所を開設すべく、動き出したNPOがあります。それが「NPO法人ながいく」です。「NPO法人ながいく」は2018年に設立され、これまでも長久手の地域に根ざした子育て支援を行ってきました。
代表は3人の子どものママでもある田中直子さん。長久手市役所の近くに「子育てシェアの家 ぽんぽん」を開き、地域の親子と触れ合っています。懐かしい雰囲気の一軒家を開放して、親子がゆったり過ごしたり、来ている人とおしゃべりしたり、イベントに参加したり。主に0〜3歳の子どもと保護者向けに広場を催してきました。
田中さんは、子育てひろばを開設し乳幼児の親子と触れ合う中で、「地域のもう少し上の年齢の子どもたちにも、関わりたい」という思いが湧いてきたそうです。
「自分の子どもが成長するにつれて視点が変化して、もう少し大きな子どもの課題も見えてきたんです。長久手市は潜在的な待機児童も多く、働きたくても働けないお母さんの話も聞いたりして。子どもを柔軟に見てくれる場所があれば、少し働けるのにという声に応えたいと思いました。
子育てひろばにきた小さな赤ちゃんと、私の子を含めたNPOスタッフの子どもが関わりあうこともあるのですが、異年齢の関わりは本当に素晴らしいです。赤ちゃんもお兄ちゃんお姉ちゃんも、いつもとは違う良い表情になるんですよ。小学生以上の親子を支え、異年齢の交流もできる…そんな場所を作るにはどうしたらいいのか考え、『子ども第三の居場所』というプロジェクトにたどり着きました」
子どもの「自分で決める」を応援
2021年8月25日、「子ども第三の居場所 ぽんぽん」の開所式が開かれました。
日本財団、長久手市、愛知県の関係者や、日頃からお付き合いのある地域の団体、スタッフの子どもたちなどが駆けつけ、温かみのあるセレモニーとなりました。
「子育てシェアの家 ぽんぽん」の隣の民家が拠点となります。
「結構ボロボロの物件だったんですが、民生委員さんと私たちで手入れをしたので、すでに愛着のある場所になりました」と田中さん。
「子ども第三の居場所 ぽんぽん」では、主に小学校低学年が放課後の時間を過ごします。乳幼児と一緒に楽しめる時間や、中学生も対象とした学習支援の時間なども盛り込んで、週4日開所予定です。保育士や子育て支援員の資格を持ったスタッフが常時3〜4名おり、学習支援には近隣の大学生も参加。地域の異年齢の交流も進めていく試みです。
一方で、子育てサロンや民間の学童保育に見られるような、決まったカリキュラムやプログラム、イベントなどは特に設けません。そこには、田中さんの強い思いがありました。
「第三の居場所では、自分で決めて自分で失敗する経験を積んでほしいんです。判断力が未熟な子どもであっても、自分のことは自分で決める権利があるはず。それを忘れがちな親や教育者が多いと思います。だからカリキュラムは特別に作らず、イベントなどもやりたい子がやりたいようにできるよう、サポートします。楽しみたい子は楽しんで、ぼーっとしたい子はそうできる場所でありたいですよね。
以前、子育てひろばで駄菓子屋のイベントを行いました。未就学児が一人で、模擬店で買い物をする企画です。自分でお菓子を決めてお金を払い、大好きなお菓子を持って親御さんのもとに帰る表情は自信に満ちていました。帰宅後も家族に買い物を自慢していたそうです。コロナ禍で母子の密着は過度に強まっているように感じます。幼児期からずっと、親が先回りして判断してしまうと、子どもの肯定感は育まれません。だから、第三の居場所ぽんぽんではカリキュラムは作らず、生活の一部となるような場所を目指したいんです」
おわりに
長久手の地域を知り、親子を知り、未来を見据える「NPO法人ながいく」が、子ども第三の居場所で目指すのは“子どもたちの小さな社会”です。
「15人程度の子どもが集まってくれたら、一番うれしいです。子ども同士で喧嘩したり、仲直りしたりしながら、関係性ができあがると、できることも増えていきます。地域に根ざしたスタッフや大学生、中学生、乳幼児親子、さらに幅広い年代を巻き込んでいけるといいなと思います」と田中さんは思いを馳せます。
長久手に密着した第三の居場所とそこに集う子どもたちが、どんなふうに育っていくのか、とても楽しみです。
<施設紹介>
「子ども第三の居場所 ぽんぽん」
運営団体:特定非営利活動法人 ながいく
住所:〒480-1103 長久手市岩作長池53-3
利用料金:
■子育てひろば
月・水・木曜日 10時~13時
大人300円・高校生以下0円
■放課後の居場所
月・木曜日 13時~17時
800円/日 4000円/月
■学習支援
火曜日 17時~20時
無料
※公的な補助・経済的な事情などある方は、無料または半額で利用できます。
※その他、イベント・講座への参加は、別途費用が掛かる場合があります
文・写真:鈴木満優子