子どもの癇癪(かんしゃく)に悩むママやパパは多いのではないでしょうか。癇癪は2歳頃、イヤイヤ期だけのものではありません。5歳を過ぎ、小学生でもあるものです。今回は発達の専門家であるカウンセラーのいしづかみほさんにお話を聞きました。癇癪について年齢別の原因と対処法を解説します。
カウンセラー:いしづかみほさん
子どもの癇癪にまつわる相談はさまざま。いったん泣き始めると手がつけられない。何をどうしたらこの癇癪はおさまる?いつまでこれが続く?と、出口の見えないトンネルを進んでいるような、止まっているような気持ちになる。そして疲れ切ってしまう、というご家族もいます。子どもの癇癪の参考にしていただけたら嬉しいです。
子どもの癇癪とは?
癇癪(かんしゃく)とは、声を荒げて泣く、激しく奇声を発する、暴れて手がつけられないなどの、興奮を伴う混乱状態を指しています。怒りや不安は誰でも持つものだけれど、そのコントロールや解消がうまくいかないと癇癪を起こすのです。赤ちゃんでは、疳の虫(かんのむし)なんて呼ばれ方もしますね。
床にひっくり返って泣きわめく、物を投げる、自分の頭を物にぶつける、周りの人を殴る・蹴るなど…突発的な他害、自傷の行動。声をかけてもなだめても、全く受け容れてくれないし収まる気配もない。周りの目も気になるし、大人もイライラしてしまうのは無理もありません。
癇癪を起こす原因と対処法
癇癪は、どうして起きてしまうのでしょう。
癇癪を起こしているということは、何か困っていることがある、要求があるということです。その視点を持って、年齢別にその原因と対処法を見ていきましょう。
乳児期(0歳)
空腹、眠気、痛み、おむつを交換して欲しい、暑い寒い、抱っこして欲しいなどの要求がなかなか叶えられない時に、赤ちゃんはその要求を泣くことで伝えますよね。即対応をしましょう。
赤ちゃんたちは泣くこと以外にも、いろんな方法でママやパパに自分の気持ちや要求を伝えようとしています。日頃からその表情や身体の動きを観察してみましょう。意外にいろいろな方法でコミュニケーションを取ろうとしていることに気づくはず。「こんな方法で、私たちに伝えようとしているんだ!」と日々の発見を楽しんでもらえたらなと思います。
ただ、火がついたように泣く場合、それは赤ちゃんにとっての緊急事態です。大きな声で言い聞かせようをせず、落ち着いて、穏やかに話しかけながら原因を取り除いてあげましょう。
一説では、赤ちゃんの泣き声はママにとって、最も不快な周波数であると言われています。であるがゆえに、その不快を一刻も早く取り除こうと、ママも問題に取り組むのだそうです。赤ちゃんの泣き声にイライラしてしまう、というママたち。それは私たちの身体に組み込まれたしくみなので、あまり自分を責めずにいてください。自分の気持ちをなだめながら、赤ちゃんの要求に対応してあげれば良いのです。
幼児期(1~3歳)
ここが一番、根気のいる時期です。
身体は動く、要求も増える、けれど言語や身体を思い通りに操ることは難しい時。そのギャップで癇癪を起こしやすいことが理由のひとつです。
もうひとつの理由は、「ママやパパが自分の思った通りにしてくれないのは何故なのか」という理解(視野の広さ)が未熟なこと。自分の要求が通らない理由が理解できにくいことが挙げられます。
非言語的な対処方法を取り入れながら、言葉かけをしていきましょう。
たとえば、癇癪を起してしまったら、しっかりと抱きしめる(圧迫刺激を入れる)、音楽を聴かせる、アロマオイルの香りを嗅ぐなど。脳に新しい感覚刺激を入れることを試してみるとよいでしょう。日頃から、子どもがクールダウンできる方法をいくつか見つけておくことをおすすめします。
そして、原因となったものを取り除く、または要求を呑むという選択も必要です。子どもがしゃくりあげるほど泣いているその要求を、聞き入れられない理由があるとしたら、それは何なのでしょう?大人の側も、自分の判断基準を見直してみる機会になります。
また、日頃からできることとしておススメなのは、感情を共通理解できる合図を作ること。
ほっぺたを手の平で触ると「おいしい」の合図、手を握ったり開いたりしたら「ちょうだい」の合図、など。
「この表現を使うと、ママやパパは自分の言っていることをわかってくれる」という安心感を、子どもが持てるようにすることがポイントです。
言葉かけもしっかりとしていきましょう。話せなくても、大人の話す言葉を子どもは聞いて、学んでいます。
幼児期(3~5歳)
このころになると、言葉でのコミュニケーションがだいぶできてくるので、癇癪が減ってきます。
それでも癇癪が起きてしまう時には、「伝わっているだろう」といった思い込みを捨てて、「大人の側が伝えきれていない」という視点を持つことが重要です。どうしたら伝わるかな?と、ひと呼吸おいて考えてみましょう。
非言語的な対処方法を実践することは3歳までと同じです。
まったく耳に入っていないような状態でも、その場の状況を『字幕のように』言葉で説明してみましょう。自分のしていることを客観視することにつながります。
責めるでもなく、叱るでもなく、今、子どもが何をしていて、ママやパパは何をしているのか、周囲の状況はどうなっているか。丁寧に、繰り返し、言葉で説明することを行うのです。
そして、「ダメ・違う・おかしい・やめて」ではなく、どうしたらよいかを具体的に伝えることが重要です。なぜそうしてしまったかと理由を聞くよりも、「どうしたかったか」を尋ねましょう。「それを達成するためにはこんな風にするといいんだよ」と、代替行為を提示してあげましょう。
その積み重ねが、子どもの行動の指針になるのです。
また、日頃している行動を、
- ① 今できている好ましい行動
- ② 減らしたい行動
に分けて、対応をしていくことも効果的です。
①は、「すごいね」「いいね」だけでなく、どんな点が良かったのかもできるだけ具体的に伝えます。「うれしい」「ありがとう」という気持ちも、言葉にしましょう。
②は、癇癪以外に、すねる、へりくつを言う、無視するなどの行動が分類されます。前章までの内容を参考に、対応してみてください。
癇癪を起こしたり、すねたり、へりくつを言ったりする以外の方法で、要求を通す、問題を解決することを目指すのです。
小学生になる頃
基本は同じです。話を聞きましょう。大人の側の要望も伝えましょう。穏やかな声で話していますか。どんな言葉を使っていますか。子どもたちは大人たちの日常から、コミュニケーションの仕方を学び取っています。
癇癪を起こすわが子を制圧するのではなく、その原因を理解して解決することを目指しましょう。クールダウンさせることは、最終的な目的ではありません。
また、ついやりがちで気をつけたいのが、「整合性のない罰」を与えてしまうこと。
兄弟ケンカをしたからお菓子を買ってあげない、勉強しないからゲームを取り上げる。これは逆効果なので、避けるようにしましょう。
親が自分自身にできること
癇癪を起こしている子どもを前にすると、自分の怒りも爆発しそうになりませんか?
実際に、その感情を子どもにぶつけてしまう場面もあるでしょう。子どもをなんとかしようとする前に、大人は一度、自分の感情に目を向けてみてください。
子どもの癇癪の原因になりがちなものは、社会性やことば、対人関係、不安感といった、大人の私たちでも抱くようなものばかりです。子どもたちが癇癪を起こしている時、大人は自分自身にも積もり積もって爆発しそうな感情がないかを振り返ってみましょう。
私たちは、不満が爆発しそう、不安でたまらない、泣きたいのはこっちだ…など、ネガティブな感情にはフタをしがち。けれど、これら感情は常識や一般論で抑え込まず、自覚することが大切です。
あるものをないことにせず、自分の気持ちに付き合ってあげてください。
最後に
子どもが癇癪を起こしているということは、何か困っているということ。何か要求があるということです。その視点を持って、子どもは何を解決したくて癇癪を起こしているのかを探り、対応していきましょう。
ママ・パパ自身も、癇癪を起こす子どもを見た時、自分自身の感情を味わってみる機会にすると良いですよ。
文:いしづかみほ
大手進学塾の講師を経て、不登校、発達症、虐待とネグレクト、愛着障害等々の教育相談と学習指導、カウンセリングを20年にわたり行ってきた。漫画家。イラストレーター。カウンセラーでセラピスト。
著書「マンガでわかる!発達症との向き合い方」(impress Quick Books)
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