人を育てる「家庭の空気」とは?

人を育てる「家庭の空気」とは?

それぞれの家庭には、特有の空気が流れています。家族みんながいつも楽しげに過ごしている空気もあれば、ほとんど会話のない殺伐とした空気も。子どもたちはその空気を吸いながら育っていきます。今回は、人を育てる「空気」についてお伝えします。

筆者:山下由修

  • 静岡市内小・中学校で勤務 、清水江尻小学校校長として、県内初のコミュニティースクールの創設・運営
  • 大里中学校校長として、フレックス制勤務体制の確立、校内フリースクールの開設、プロジェクト型校内組織運営に着手
  • 2019一般社団法人シヅクリを創設、静岡を人材育成に奔走中

お姉ちゃんは障がい者

子どもが心豊かに成長していく様子が描かれた作文です。
そのままご紹介しますので、ぜひ味わってみてください。

「ぼくのお姉ちゃん」 林修三

ぼくのお姉ちゃんはダウン症という障がい者だ。
17歳になるというのに満足にひらがなさえ読めないし、数の計算はまるで駄目だから、お金の使い方なんかも分からない。
どこをとってもお姉ちゃんを自慢できるところなんて何もない。
友達が遊びにくる度に「あれ誰」と聞かれ、お姉ちゃんと答えるのに勇気がいった。

学校で兄弟について作文を書くことになった。
「ぼくのお姉ちゃん」と題は書いたものの、作文はちっともすすまなかった。
ある日、お姉ちゃんが台所の床に大の字になってわめいていた。
「らめらめ!うとあんく!(だめ、だめ、レストランにいく)」
「明日じゃだめなの?」
「らめパパ、うーきまんた(だめパパ、指切りした)」
「誕生日でもないし、何かの記念日かしら、心当たりないわ」
お父さんが帰ってきた。
「うっかり指切りもできやしないなあ」
みんなで行きつけのレストランに行くことになった。
お姉ちゃんが言った。「あ・ん…」誰も聞き取れなかった。
お姉ちゃんは首にかけたポシェットから一通の封筒を取り出した。
次の瞬間、まるで時間が止まったように封筒の上に釘付けになった。
・・・給与(4月分)福祉作業所・・・
僕はお父さんとお母さんの顔を見上げた。
お父さんは目がうるんでいた。
うつむいていたお母さんの肩が小刻みにふるえている。
「どうしたのパパママ」
「これはね、お姉ちゃんが働いて初めての給料なんだよ。
お姉ちゃんはそれで私達にごちそうしてくれるつもりだったのよ。」
お母さんの声はとぎれとぎれだった。
「さあ、ごちそうになろうじゃないか」
お母さんはハンカチで目頭を押さえた。
「ママ、なたらめよ(泣いちゃだめよ)。」
「ねえ、お姉ちゃんいくらもらったの?」
封筒の中から千円札3枚が顔をのぞかせていた。
食事が終わった。
お父さんはお姉ちゃんに勘定書きと封筒を渡した。
お姉ちゃんは意気揚々とレジへ向かった。
僕はあわててお父さんのすそをひっぱって耳打ちした。
「パパあれじゃ足りないよ、きっと。」
「まいどありがとうございます。5,200円いただきます。」
お姉ちゃんは「あい!」と封筒のお札を全部取り出して差し出した。
その手に握られていたのは3枚の一万円札だった。

ぼくは家に帰ると二階にかけあがった。
机の上には「ぼくのお姉ちゃん」と題だけが書かれた原稿用紙。
僕は強く鉛筆を握りしめると最初の一行を書き始めた。
「ぼくのお姉ちゃんは障がい者です」

教育の本質は「空気」にあり

冒頭で、それぞれの家庭には、特有の空気が流れていると書きました

冒頭で、それぞれの家庭には、特有の空気が流れていると書きました。
学校にも独特の空気が流れています。何となく勉強に励みたくなるような空気や、不思議と部活に打ち込みたくなるような空気もあります。
反対に誰もが将来に希望を持つことのできないすさんだ空気や、弱い者いじめしたくなってしまうような空気もあります。
地域もまたしかりです。困ったことが起きても、きっと誰かが手を貸してくれるという安心感の漂う地域もあれば、何かとげとげしい感じのする地域もあります。
子どもたちはその空気を吸いながら育っていきます。
その間に形作られた人格は、決定的なものになってその後の人生に多大なる影響を与えます。
日々吸い込む空気は、その人となりを創り出します。
優れた人格とは、その人の持つ空気が誰にも心地よく、豊かだということ。
人を育てるのは情報や知識ではなく、皆で醸し出す空気なのです。
仏教で以下の言葉があります。

水自竹辺流出冷 風従花裏過来香
(水は竹辺より流れ出でて冷ややかに、
風は花裏より過ぎきたって香し)

水は竹の下をくぐり抜けて冷たくなり、風は花の間を通って豊かな香りを放つ、という意味です。
清く、芳しい空気を創り出す家庭、学校、地域社会であり続けたいと思います。

文:山下由修

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