親子関係、学校、会社などのコミュニケーションで使われがちな声がけに「ダブルバインド(二重拘束)」があります。これが日常的に行われていると、相手を追い込み、メンタルに悪影響を与えてしまうことになりかねません。しかし、効果的に使うことができれば、仕事などの交渉ごとで有利に物事を進めることもできます。
無意識に使ってしまいがちなダブルバインドとは何でしょうか。また、意識的に使うことで効果をもたらす声がけのポイントをご紹介します。
「ダブルバインド」とは?
ダブルバインドとは、二つの矛盾したメッセージを出すことで、相手を混乱させる可能性のあるコミュニケーションのこと。
統合失調症(精神疾患)の研究者であった文化人類学者のグレゴリー・ベイトソンが発表した言葉で、日本語では「二重拘束」という意味になります。
1つのメッセージと、もう一つのメッセージに矛盾が起きていて、どちらに従ったとしても相手を満足させられない状態をつくります。
親子関係や職場、教育の場で、知らず知らずのうちに、このダブルバインド状態を起こしていないでしょうか?
精神科医・心理学者のミルトン・エリクソンは、ベイトソンのダブルバインドを催眠言語に活用。どちらを選んでも良い方に進む、治療的なダブルバインドを確立しました。ミルトン・エリクソンのダブルバインドは、プラスに活用するダブルバインドで解説します。
具体例としては、以下です。
親子間のダブルバインド
- ママ
- 「好きなお菓子を1個買っていいよ」
- 子ども
- 「これが欲しい!」
- ママ
- 「そのお菓子はダメ!」
- 子ども
- 「(好きなお菓子買っていいって言ったのに・・・)」
- ママ
- 「あなたの人生なんだから、好きな進路を選びなさい」
- 子ども
- 「中学卒業したら、上京してモデルになりたい!」
- ママ
- 「お願いだから、高校には進学して」
- 子ども
- 「(好きな進路を選びなさいって言ったのに・・・)」
ママは、子どもに自由を与える声かけをしておきながら、子どもの思いを聞いた途端、否定的な言葉で親の考えを押し付けています。子どもはママが言うことの矛盾にもやもやしていますね。こちらは親が子どもをコントロールしようとしている会話になります。
- ママ
- 「オモチャを片付けなさい」
- 子ども
- 「やだ!」
- ママ
- 「片付けないなら、全部捨てるからね」
- ママ
- 「そろそろ帰るよ」
- 子ども
- 「帰りたくない」
- ママ
- 「勝手にしなさい!先に帰るからね」
「おもちゃを捨てる」「先に帰る」という言葉によって、子どもを脅している形に。これらも同じく、親の思い通りにコントロールをしています。
職場でのダブルバインド
- 上司
- 「些細なことでも、どんどん話してコミュニケーションをとっていこう」
- 部下
- 「今日○○なことがあって・・・」
- 上司
- 「そんなくだらない話を、わざわざ言うな」
- 部下
- 「(コミュニケーションをとろうって言ったのに・・・)」
- 上司
- 「どうしてそんなミスをしたのか、理由を説明して」
- 部下
- 「○○が理由で・・・」
- 上司
- 「言い訳をするな!」
- 部下
- 「(理由を説明してと言ったから伝えたのに・・・)」
上司は、部下に対して話をすることを促しているにも関わらず、部下の話を聞いた途端、否定的な言葉を投げかけています。
また、「怒らないから話して」と言いながら、明らかに怒った態度と表情をしている・・・というのも、非言語でおこなわれるダブルバインドといえるでしょう。この状態は、部下に大きなストレスを与えます。
これらは多かれ少なかれ、ほとんどの方に心当たりがあるのではないでしょうか。このダブルバインドのコミュニケーションを繰り返すと、相手に対してネガティブな影響を与えて、ひどくなると精神疾患にいたることもあるといわれます。
では、ついつい使ってしまうダブルバインドの言葉や声がけをどのように変えていけばよいのでしょうか。
ダブルバインドにしない声がけ
まず、親子間のコミュニケーションをダブルバインドにしないために、大前提は「子どもを受け入れて尊重する」こと。特に忙しい時ほど、ついダブルバインドを使ってしまいがちになります。
子どもを受け入れ、その上で納得する着地点を双方で見つけていけるようにしましょう。
先にあげた例でいくと、以下のようになります。
- ママ
- 「好きなお菓子を1個買っていいよ」
- 子ども
- 「これが欲しい!」
- ママ
- 「そのお菓子が欲しいんだね。それは○○が入っていて大人向けのお菓子だから、こっち側から選ぼうか」
→要望を受け止めて、ダメな理由を説明する
- ママ
- 「あなたの人生なんだから、好きな進路を選びなさい」
- 子ども
- 「中学卒業したら、上京してモデルになりたい!」
- ママ
- 「モデルになりたいんだね。あなたの夢は応援するよ。そして、もしその道を選んだとしても、高校は進学しておいた方が将来的にもよいと思うのだけどどうかな?」
→要望を受け止めて、提案をする
(先に片付けのルールを共有しておく)
- ママ
- 「オモチャを片付けなさい」
- 子ども
- 「やだ!」
- ママ
- 「ご飯食べる前に片付ける約束したよね。」
- ママ
- 「そろそろ帰るよ」
- 子ども
- 「帰りたくない」
- ママ
- 「楽しいんだね、わかった。あと3分したら帰る約束ね。」
→あらかじめ子どもと一緒にルールを作っておいて、それに従うように声がけをおこなえるとよいでしょう。
職場などでのダブルバインドは、無意識でおこなっているケースがほとんど。そのため、まずは当事者が自分自身の言動に矛盾がないか意識することが必要です。
先にあげた例でいくと、以下のようになります。
- 上司
- 「些細なことでも、どんどん話してコミュニケーションをとっていこう」
- 部下
- 「今日○○なことがあって・・・」
- 上司
- 「そうか、それは大変だったね(まずは受けとめる)
今回のミーティングは5分しかないから、この場ではお客さんに関する情報でコミュニケーションをとっていこう」
- 部下
- 「わかりました」
- 上司
- 「どうしてそんなミスをしたのか、理由を説明して」
- 部下
- 「○○が理由で・・・」
- 上司
- 「そうか、そういう理由なんだね(まずは受けとめる)
どうやったら、そのミスをなくせたと思う?」→まずは相手の言葉を受けとめてから、その後の話につなげましょう。
ダブルバインドに気づいた時は周囲の人に指摘をしてもらうのも方法のひとつです。
親子間のコミュニケーションと同じく、大前提は「相手を受け入れて尊重する」こと。特に忙しく、心に余裕がない時ほど、注意をするようにしましょう。
プラスに活用するダブルバインド
ここまで説明してきたダブルバインドは、どちらを選んでも相手を追い詰めてしまうものでした。しかし、肯定的な使い方をすることで、ビジネスなどの交渉の場や恋愛でも効果的に活用することができます。
これは、心理学者のミルトン・H・エリクソンが催眠治療に応用した方法で「エリクソニアン・ダブルバインド」と呼ばれる手法。
よい前提をもとに、2つの選択肢を与えることで、どちらを選んでもその前提にたどり着くという方法です。
具体例としては以下です。
- 上司
- 「この仕事、明日までにできそう?それとも今週いっぱいかかる?」
→いずれにしてもこの仕事をやることが前提になっている
- 営業 マン
- 「この商品、仕事用に使いますか?それともプライベート用ですか?」
→いずれにしても商品を使うことが前提になっている
- 男性
- 「デートは土曜か日曜、どっちが都合よい?」
→デートに行くことが前提になっている
このように聞かれた相手は、自分に選択肢を与えられているように感じるため、返事をしやすくなるでしょう。この方法をうまく使うことで、ビジネスやプライベートの人間関係においても、相手のYesを引き出せる確率が上がります。
最後に
ダブルバインドは、さまざまなシーンで意識的・無意識的に使われている心理テクニックです。自分が使う側にも使われる側にもなるため、まずは理解を深めること。
その上で、無意識に使って相手に対して、不必要なストレスを与えないようにしましょう。そして、自分自身も気づいて、巻き込まれないようにしていきましょう。
もしダブルバインドを使うのであれば、プラスに活用できるとよいですね。
文:三輪田理恵
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